第14話 事件 ノア 05

 俺が混乱しているとリリアナが耳打ちしてくる。

 その言葉で我に返った俺は改めて彼女に向き直り話し掛ける。

 まずは状況を把握しないとな。

 俺は彼女の話を聞いてみることにする。

 彼女は自分が誰かも分からないし、なぜここに座っていたのかも覚えていない。

 さらに身元を証明するようなものも何も所持していない。

 ここで王女をお連れしましたと報告をあげても誰も本気にはしてくれないだろうし、彼女が王女だと証明することもできない状況だ。



「それでこれからどうする?」


 俺はリリアナに尋ねる。


「とりあえず報告してお城に、と思うのですが……」


「うーん、それは無理だろうな」


「やっぱりそうですよね」


 俺たちは困ってしまう。


「あのー、よろしいでしょうか」


 エレナが遠慮がちに口を開く。


「はい、なんでしょうか?」


「あの、大変失礼なのは承知の上でお願いがあるのですが」


「なんなりとおっしゃってください!」


 俺は食い気味で答える。


「実は私、なにも持っていないみたいで、このままでは宿にも泊まれないし食事も出来ない状態なのです。なんとかならないでしょうか…」


「そうですね、確かにそういう問題もありますよね」


 リリアナも考え込む。

 確かに身分証も持たず、金もなく、宿に泊まることも食事をする事もできないとなると、さすがに放っておくわけにはいかないな。

 しかしどうやって助けるか?


 俺はリリアナに耳打ちする。

 リリアナは一瞬驚いた表情を浮かべたがすぐに納得したようだ。

 そしてエレナに向かい笑顔で語りかける。

 俺は覚悟を決めてエレナの前に立つ。

 そして深々と頭を下げて懇願する。


 「どうか俺達と一緒に来て欲しい」




 宿に戻り今後のことをリリアナとアベルに相談する。

 事情を説明すると二人は少し考えた後、俺にこう告げた。


「分かりました。それでは私に提案があります。まずはエレナ様の従者に連絡を取ってみてはいかがでしょう? もしかしたら何か分かるかもしれません」


 確かにその通りかもしれない。あの時の騎士や近衛兵に聞けば何かわかるかもしれない。俺はリリアナの提案に同意する。


「そしてそれまでは私たちの従者ということで過ごしていただきましょう」


 リリアナはそう言ってエレナ王女に微笑みかける。


「ありがとうございます。すべてお任せいたします」


 エレナ姫もほっとして力が抜けた様子でやっと笑顔が見える。


「しかし本当にお姫様なのか? 普通に考えてありえないだろ?」


 アベルはまだ納得していない様子だが俺の強い決意とリリアナのこんな町の中に女性を一人置いていくことなどできないという言葉にしぶしぶ賛同した。


「さて、とりあえず今日からリリアナと同室で過ごしていただいて、食事も一緒に取りましょう。昔の話もできれば何か思い出すかもしれません」


 俺はそう言ってエレナ姫に笑いかけた。


「本当にありがとうございます。私のことはエレナと呼んでください」


 と、微笑んだ。

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