第13話 事件 ノア 04

 俺達は被害者が殺されたと思われる現場を見せて貰った後、事件の詳しい内容を教えてもらう。それによると被害者の名前はアリシア=フィンダード子爵令嬢、年齢は14歳、フィンダード子爵の第4子で長女にあたる。

 亡くなった時の状況だが、死因は刺殺だ。ただし刺されたというより、貫かれたというべきものだ。なんと腹部を槍のようなものを使い一撃で貫かれていたのだ。即死だったということだ。犯人は相当な手練れの暗殺者なのかそれとも凄腕の武芸に秀でたものなのか、どちらにせよかなりの実力者だということは間違いないだろう。

 また、現場の状況から見て、被害者の死亡推定時刻は昨日の深夜。犯人らしき人物は見つかっておらず、捜査はかなり難航している。俺はそれらの話を聞き終えると憲兵隊長に礼を言い屋敷を出る。

 屋敷を出た俺達はそのまま宿泊する宿屋に向かう。


「うーん、結局何も分からなかったね」


 俺がそう言うとリリアナも同意するように答える。


「そうですね、あの程度の情報じゃ、私達には何も分かりませんよ。とりあえず明日は情報収集の為、街に出てみましょう」


「そうだな、そうしよう」


 俺達は宿に着くとすぐに夕食を食べ、早めに就寝した。


 翌朝、朝食を食べるとさっそく情報収集を始める為、街に出ることにした。

 まず最初に向かう場所は、ハイダックの街で一番人気の商会付近に向かう。この街一番の商人が経営する店で、様々な商品を扱っていて各地域からの人の往来が多くあり噂が集まりやすい場所だ。


「それにしても人が多いな、このあたりからはじめていくか」


 アベルは周りを見ながらそう呟く。


「そうですね、でもおかげで色々な情報が入ってきますから助かります」


 リリアナがそう言って微笑む。


「まぁ確かにそうだね。それじゃあ早速聞き込みをしていこうか」


 俺がそう言うと二人はそれぞれ別の方向に歩いて行く。

 俺はまず街の人に事件について聞いて回った。しかし有力な情報は得られなかった。ただ、最近ここの領主が留守にしている事が多いという話は聞くことが出来た。

 次にリリアナと合流する為に待ち合わせ場所にしていた広場に向かう。


 リリアナはベンチに座っている女性に声をかけている所だった。

 女性は困った表情をしている。

 俺は少し離れたところでその様子を見ていると、やがてリリアナがこちらに視線を向けた。俺は小走りで駆け寄っていきベンチに座っている女性に声をかける。


「すみません、ちょっといいですか?」


 俺が話しかけるとその人は驚いた顔で返事をする。


「え? あっはい、なんでしょうか?」


 座っている彼女の驚いた顔に見覚えがあった。


「ってエレナ王女?! ええ?? そんな??」


 驚いた。

 まさかこんなところで会うとは思わなかった。

 俺は内心かなり焦っていた。

 だって目の前にいるのは間違いなく、第3王女のエレナ様だ。

 俺は慌てて頭を下げる。

 するとエレナ様は慌てた様子で困っている。

 そして俺も慌ててしまう。

 なぜここに? とか、どうしてこんな所に? なんて質問をしたくても言葉にならない。

 俺は恐る恐る顔を上げると、そこには困った顔をしたエレナ様がいた。

 しばらく思いつめたような表情をした彼女は突然


「申し訳ありません。その… 私は何者でなぜここにいるのでしょう?」


「へっ!? どういうこと?」


 俺は思わず素っ頓狂な声を出してしまう。

 すると隣にいたリリアナが代わりに答えてくれる。


「彼女、ベンチに一人で座っていて…… 気になったので声をかけてみたんだけど、どうも話がかみ合わなくて、記憶を失っているみたいなんです。名前すら覚えていないようです」


 ここまでの状況を説明してもらい考える。

 もし本当に王女であるなら護衛が周りにいないのは不自然だ。あたりを見まわしてもそんな気配もない。


 別人?


 いやでもあまりにも似すぎてる。少女の頃に会った面影があり、どう見ても本物としか思えない。


 だがそんなことがあり得るだろうか?


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