第12話 事件 ノア 03

 アベルは立ち上がり馬車の外に出て行く。それに続き俺とリリアナも外に出る。そこには大きな屋敷があり、入り口の前には武装した憲兵たちが立っていた。


「お待ちしておりました。我々はこれより館周辺を警護しますのでよろしくお願い致します」


 憲兵たちはそう言うと俺達に敬礼をする。俺は憲兵たちに挨拶をして中に入る。


「こちらこそ宜しくお願いします。それで早速で申し訳ありませんが、今から被害者の部屋に案内していただけますか?」


「かしこまりました」


 俺はそう言って歩き出した男の後について行く。男は扉を開けると部屋の中に入っていく。俺達もそれに続いて中に入ると、そこは豪華な応接室のような場所で奥には大きなベッドがあった。


「これが事件のあった部屋です」


 男がそう言って指差す先には血まみれになったベッドが見えた。


「ここで殺されてたのか……」


 俺は思わず顔を背ける。リリアナも同様だったようで同じように目を逸らしていた。


「はい、昨日のうちに遺体は回収しましたが、まだ完全に処理できたわけではないのです」


 男はそう言って俺達が見ているベッドの横まで来るとしゃがみ込みシーツに手を置く。


「ご覧ください、ここに飛び散った血痕は乾いているものの、まだ生々しい状態で残っているでしょう? これはおそらく犯人が拭き取ったものだと思われます」


 俺は言われるままにもう一度見てみる。確かに男の言う通り床や壁に飛び散っている血は乾燥していて、触るとパリッとした感触がある。

 たしかにこの状態なら時間が経てばもっと酷い状態になるだろう


(これは…… 拭き取ったんじゃないな……)


「なるほど、たしかに綺麗になっていますね」


「はい、やはりお気づきになりましたか」


 俺の言葉を聞いた男が満足そうな顔で言う。


「うん、これって魔法の痕跡じゃないかな? ほらそこの壁を見てみて」


 俺は先程目についた壁の血の跡を指し、アベルとリリアナに伝える。

 その言葉を聞いて男は驚いた顔をしながら壁に近づく。壁に近寄るとじっくり観察しながら言う。よく見るとその跡は何かの模様に見える。

 俺も近づいて見てみるとそれは複雑な模様で、一見すると何かの文字にも見えるが、蜘蛛のような形にも見える。

 さらに注意深く眺めているとその部分だけ少し色が薄いことに気づく。まるで何度も塗り直したような感じだ。そんなことを考えていると突然男が大声を出す。慌てて振り向くと男が興奮した様子で話しかけてきた。どうやらこの模様に気づいたらしい。男はしばらく一人でブツブツ呟いて部下の憲兵に指示を出していたけれど、ようやく落ち着きを取り戻したらしく俺達の方を向き口を開く。なんでもこの部屋の模様のようなものは以前に起こった事件現場にも残された模様のようだ。

 どうやらこの事件は思ったよりも根が深いみたいだな。

 それにしてもこの模様どこかで見たことがある気がするんだけど、どこで見たんだっけ?

 俺は必死になって思い出そうとするがどうしても思い出せない。他の場所で起こっている事件現場には行ったことがないし、この事件の資料にもそんなものはなかった。……仕方ないので諦めることにした。

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