《幕間》

《脱出艇は全て船員を載せて旅立ち、船はブラックホールに飲まれた。

残ったのは船長の責務を果たした俺だけ。


この超重力の渦の中、俺と船はゆっくりと中心部に吸い込まれ、やがてぺしゃんこに潰されて終わるだろう。


俺は一通り後悔と怒りと嘆きを撒き散らし、船内を暴れまわった。

船員の前では船長として振る舞ったが、ここにはもう誰も居ない。

俺がどれだけ情けない顔をしていても、誰にも見られる心配は無い。


俺は俺の夢を諦め、このまま眠って死を待とうとした。

だが、その時だ、いつもあいつが言っていた言葉が脳内に浮かんできた。

地球に残してきた、あいつの顔と共に。


あいつは俺がガキの頃に抱いた『外宇宙の生命体に会いたい』というバカげた夢をずっと支えてくれて、俺と一緒に夢を叶える決断をしてくれた物好きな奴だった。


俺はとてつもなくバカだったから、壮大な夢を盛ったはいいが、宇宙飛行士になる為にどんな勉強が必要か分かっちゃいなかった。

そんな俺の為に、あいつは何が必要かを調べてくれて、色々と俺に教えてくれて、そして、あいつはあいつ自身の体の弱さから俺と一緒の夢を追う事が出来ないと理解し、地球に残る事を決意した。


あの時のあいつの顔は忘れない。


だから、俺は船長として船員を地球に帰さなくてはならなかったが、俺をここまで送り出してくれたあいつの為に、俺も地球に帰らなきゃいけなかった。

あいつは俺の夢を後押ししてくれていた。

だから、俺はあいつの為にも夢を叶えなくちゃいけないんだ。


幸い、資源惑星を巡っていたお陰で材料はいくらでもある。

船員が俺以外一人もいない事で酸素にも余裕がある。

俺はバカだが、あいつのお陰で身に付けた工学知識と、人類最長航宙歴を誇る経験がある。


だったら、諦めるにはまだ早い。

まずは食料と使える物のリストアップだ。

使用しない区間の閉鎖もしなくちゃいけない。


ブラックホールに飲まれたぐらいで諦めていてどうする。

俺は偉大なる宇宙探検家グローブ様だ。

まだ『外宇宙の人間に会いたい』って夢も叶えて無い。

こんなところで終わって堪るかってんだ。


『最後までやってみなきゃ分からない』


もう一度あいつが口癖のように言っていた言葉を思い出し、地球への帰還目指して作業を始める。

俺は最後まで諦めない。それがあいつとの約束でもあるからだ》


 ――偉大なる宇宙探検家グローブ様の手記 No.1

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