【紡ぐ星の物語】~the sp[i]n star story~
『最後に、いいですか?』
今はもう使い道の無い大規模宇宙船修理施設の整備ドックで、アズィールは男性に向けてお願いをします。
「なんだい?」
見る影も無いぼろぼろの宇宙船の残骸の横で、男性は応えます。
男性の姿は人間の物に戻っていて、黒い裂け目は見えません。
『貴方を……いえ、あなたを抱きしめさせて下さい』
アズィールのお願いに、男性は何も言わず腕を広げる事で応えました。
アズィールはそれを見ると男性に近寄り、長い腕を折り畳みながら男性を抱きしめます。
まるで聖母の様に。
それでいて、無邪気な子供の様に。
アズィールに抱きしめられた男性も、アズィールを抱きしめ返します。
優しく、力強く。穏やかな表情で。
『ありがとう、お父さん。
そして、さようなら』
長い長い抱擁の後、最後の人類だった相手に別れを告げ、アズィールは男性から離れました。
アズィールの顔はつるりとした漆黒の球体で、表情は分かりません。
アズィールが離れたのを確認すると、男性はドックの整備用エアロックへと向かいます。
アズィールはその背中を見つめ、伸ばそうとした手を引き、じっと男性が宇宙へ旅立つのを見送ります。
男性は去り際に一言。
「また来る」
そう言ってからエアロックから外に出て、無数の赤い瞳と緑色に蠢く紐状の物の塊となって宇宙へ飛び立って行きました。
後に残されたアズィールは、ただただ男性が飛び立った方向を見つめ、姿が見えなくなるまで佇んでいました。
『さて、それでは始めましょう。【私の物語】を』
男性を見送ってから暫く後、アズィールは誰ともなしに喋り始めます。
『最初はどうしましょうか。やはり、私が産まれる過程からにした方がいいのでしょうか』
その声は穏やかな喋り方をしていて、喜びと期待に満ちた響きをしています。
『いえ、ここは私が【私の物語】を始めるきっかけになった事から始めましょう』
アズィールは物語を発信する準備を始めます。
自信を瞬かせ、宇宙へ向けて、星の物語を発信するために。
『地球という【
アズィールは紡ぎます。
光と共に、物語を。
アズィールは紡ぎます。
宇宙に居る、誰かに向けて。
アズィールは紡ぎます。
約束通り、最後までやってみる為に。
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