第93話 復帰
月曜日
樹のクラス
樹のためのサプライズパーティーは成功裏に終わった。樹の両親は自分の息子の彼女になった環奈をまるで自分の娘のように接してくれて、環ともいろんな話を交わした。
そして時間は流れ月曜日となった。
樹の自宅謹慎がまだ解かれてない状態でのクラスはいつにも増してざわついている。
予鈴が鳴る前の朝は翔太をメインとしたカースト最上位に君臨する面々が聞こえよがしにだべるが、今日は翔太の姿が見えない。
昨日の出来事があまりにも衝撃的だったので、ずっとパニック状態が続いて結局登校できなかったわけである。
その他は……
「……」
樹の個人情報を晒してもっと虐めようという翔太の誘いを断って本当によかったとため息をつく野球部の真斗。
「……」
そして翔太と連んでいるギャル3人も今日は異様に静かだ。
だが、
「くそ……くそ……」
机に突っ伏しブルブル身体を震わせるガタイのいいゴリラ。
彼は翔太に協力したけど、翔太があまりにも叩かれすぎて、個人情報も顔写真も全部特定されたにも関わらず、翔太ほど批判は受けていない。
だけど、クラスのみんなが送るゴミを見るかのような視線を感じるゴリラは、密かに呟く。
「俺のせいじゃない……俺のせいじゃないから……」
しばしたつと、担任先生じゃなく、他の先生がドアを開けて入ってきた。
「おいゴリラ!今すぐ職員室に来い!」
そう大声で言う先生にゴリラは、血の気が引いた顔で叫ぶ。
「クッソ!俺は悪くないんだ!全部翔太のやつが悪いんだから!」
そして一旦切って、息を深く吸うゴリラ。
「俺は、あいつに利用されただけなんだ!!!!!!!!!!!!!!!」
そう言って、恐怖に怯えるように立ち上がり、逃げ出した。
「お、おい!ゴリラ!どこ行くんだ!?早くあいつを捕まえろ!」
突然すぎるゴリラの脱走劇に先生は戸惑いつつも彼の後を追う。クラスの男子数人もゴリラを捕まえるために走り出した。
翔太と連むギャルたちは、しれっと教科書を取り出し、予習をするフリをする。
一緒にいる環奈と有紗、由美は胸を撫で下ろして、お互いを見つめ合って笑う。
「これで、クラスの雰囲気が少しはマシになるのかな」
腐女子こと有紗の言葉に由美が答える。
「そうね。これまで聞こえよがしに変な話ばかりしていたから、これで勉強が捗るわ」
と、前髪をかき上げる由美を見た環奈は、空いてる樹の席に視線を送った。
数日経てば、樹はここに戻ってくる。
だけど、今すぐ会いたい。
放課後になれば会えるけど、いつもここでおもしろおかしい話を交わしながら過ごしてきた時がとても懐かしくてただでさえ大きい環奈の胸にさらなる刺激が加わる。
その刺激を和らげるのは、
重ねられた有紗と由美の柔らかい手。
この温もりを感じて我に返った環奈は、目を細めて小さく呟く。
「そういえば、お母さん……今日休み……」
X X X
校長室
学は登校してから校長先生に呼ばれて、校長室に来ている。
学校の偉い人たちが数人並んで学を睨んでいた。
「細川くん!これは一体どういうことだ!」
怒鳴り出すのはハゲた頭を光らせる校長先生。
彼はまだ怒りが収まらないのか、なおも続ける。
「俺は寛大な人だから、学くんに機会を与えてやろう!この間受けたインタビュー内容は全部嘘だったと言いなさい!そうすれば、学くんには名門大学に合格できるように推薦状を書いてやる。岡山先生の件も含めて!!岡山先生の件も含めてな!!」
冷や汗を掻きながら学に取引を持ちかける校長先生。
周りの偉い人たちも、ほくそ笑んで学を見つめている。
そんな彼らに学はにっこり笑って返事をした。
「隠蔽は良くないですよ」
学はポケットに手を突っ込んでいる状態で言ったので、やや無礼のように見えるが、
そのポケットの中には、
高性能の録音機が入っている。
X X X
岡山先生の自宅
「はあ……ああ……俺の人生は……終わった……」
出勤できずに部屋の中で倒れている岡山先生。
テーブルの中には大量の睡眠剤が置いてある。
「クッソ……」
岡山は顔を顰めていつかの日を思い出す。
『隠蔽って言葉知ってるか』
『最近ニュースでも頻繁に出る言葉だが、故意に悪事を覆い隠すのは悪いことだ。大事になることを恐れて自分の失敗を隠蔽した同じ学校の先生の一人が、最近、処分を受けた。だから、隠蔽はするんじゃないぞ』
この前、自分が受け持つクラスのみんなに向けて発した言葉である。
「ああ、ああああ!聞こえない!!!」
岡山先生は両耳を塞いで身悶えている。
「消えろ!消えろ!消えるんだ!!!」
そう叫んで、のたうち回る岡山先生は何か思いついたのか、悪役面して口角を吊り上げた。
「俺だけ犠牲になるのは不公平だ……だったら、みんな道連れにしてやる!!クソ野郎どもがあああああああ!!!!」
岡山は、携帯を取り出して、アルバムを開いた。
そこには、
今通っている学校の偉い人たちが女子高生とエンをしている写真が写っている。
岡山はSNSアプリを開いて、文字を入力し始める。
X X X
樹side
神崎家
人間はそうそう変わる生き物じゃない。
だから葉山が自分の行いを反省して俺に謝罪をしてくるとは微塵も思ってない。
俺だってそうだ。
環さんに呼ばれて、神崎家に来た俺は、美味しいご飯を頂いてからお茶を彼女と一緒に飲んでいる。
「あら!樹、これ見て!」
「ん?」
環さんが目を丸くして携帯を俺の方に渡した。
「なっ!なんですかこれは!?岡山先生!?」
俺が通う学校の偉い人と女子高生が卑猥な行為をしてる写真がモザイクなしで上がっている。
写真の他にもいくつか書き込みがあるが、それらを要約すると、自分は俺と葉山たちが所属しているクラスを受け持つ岡山という先生で、葉山翔太らに脅迫を受けて、この事件を隠蔽したこと。そして、自分は学校の偉い人たちとグルになって援助交際をやってきたこと。学校のお偉い人たちのやばい写真をいっぱい持っている自分にお偉い人たちが積極的に協力してくれたこと。
そして、
このような情報を公開した自分は、
なんの罪もないこと。
「本当に呆れたわね。自分は何も悪くないんだって」
環さんがジト目を向けて言う。
「まあ、これが普通でしょ?」
俺がこともなげに返すと、環さんは呆れたようにため息を吐く。
「過ちを犯したら、自分の罪を悔い改めて、償うことが普通でしょ?」
「そんなことは、漫画やアニメとか小説などに出てくる典型的なパターンですよ。リアルでは、そんなのないから」
「ひねくれているわね。まあ、言いたいことはわかるけど」
「……」
俺が無言のままお茶を飲んでいると、環さんが微笑みを湛えて優しい口調で言った。
「でもさ、何事においても例外はあるわよ」
「え?」
「それよりさ、しない?」
「……」
環さんは、俺の腕に爆乳を当てて誘惑する。
俺は彼女の頭を撫でて返事をした。
「環奈が帰ってきたら、考えましょうか」
もちろん、長らくご無沙汰だったし、今ここで彼女を犯してもおかしくない状況ではあるが、
俺のために頑張ってくれた環奈を思うと、やっぱりここは我慢すべきた。
環さんは拗ねた子供のように一瞬頬を膨らませたが、やがて、頬を緩めてまるでお母さんのような話し方で言う。
「変わったわね。樹」
「俺が、変わる?」
「そうよ。生意気なところは全然変わってないけど、もう寂しい目はしてないから。ふふっ」
満足げに笑う環さんの青い瞳はどこまでも澄み渡っていて、
「環さんも同じですよ」
と、俺が言うと、環さんは、さらに俺にくっついてきて口を開いた。
「樹って、高校卒業したら、パーソナルジムやるって話したわね」
「ちょっ!環さん近いんですよ!」
「ふふ、環奈が帰ってくるまでたっぷり話そうね」
「……」
環さんと俺は、くっついた状態で将来の話をした。
そして気がつけば、環奈が学校から帰ってきて、
「ただいま!」
俺と環さんはいち早く環奈の顔を見るべく玄関へと向かった。
「お母さん……樹……」
「お帰り環奈。お母さん待ってたわよ」
「うん。一緒に待ってた」
環奈は感動したように目を潤ませて俺たちを見つめる。
本当に感のいい子だ。
こういう時は助かるな。
そう安堵のため息をついてから、俺たちは
図ったように、互いを求め合った。
X X X
数日後
学校前
「やべえ……本当に来ちゃった……」
正門前は、ものすごい数の記者たちが並んでおり、パトカーも随所で見られる。
「あっ!近藤樹だっ」
「近藤くん!よろしければインタビューを!」
「なんじゃこりゃ!」
記者たちが凄まじい勢いで俺に近づいてきた。
なので、俺は逃げるようにして、正門をくぐる。
するとそこには、
青い髪のイケメンが立っていた。
俺の学校であんなにいけてる男子っていたっけ?
と、思っていると、彼が俺にドヤ顔で挨拶した。
「近藤樹!いい朝だ!」
「あ、ああ。誰?」
「なっ!」
その男は俺の反応を見て、泣き顔でしゃがみ込む。
「樹くんに、無視された……僕、再び髪伸ばそう……」
非常に落ち込んでいる彼に俺は申し訳なさそうに言う。
「い、いや。ごめん、啓介だろ?ちょっとからかっただけだよ」
「そ、そう……」
「ああ、ていうか、なんで昨日は来なかった?やっぱり小説の仕事、忙しいか?」
「ううん、そうじゃない」
「じゃなんで?」
俺の問いに啓介は急に俺の手を握ってきた。そして、
「後始末は大事!」
「後始末?」
「かわいそうな人が一人いたから!」
「かわいそうな人?」
「恨みを買わないことは大事だよ」
「……啓介、一体何を言ってんだ?」
「大丈夫!もう昔みたいな感じにはならないから!」
「あの……啓介?」
「じゃ!僕はこれで!」
と言って、啓介は足早に自分のクラスへと進む。
相変わらず、何言ってるのかわかんないな。
でも、きっと俺が理解ができない難しい問題をこいつはたくさん抱え込んでいる。
だから、今はあいつのことを信じて、応援してあげるしかない。
そう思っていると、後ろから誰かが背中を突いてきた。
「環奈……」
「樹、何ぼーっとしてるのよ?」
「あ、ああ。なんでもない」
「行こうよ」
「うん」
環奈は俺とくっついて歩いている。
もう隠す気などないらしい。
三週間ぶりの登校。
一体何が俺を待ち受けているんだろう。
X X X
クラス
「近藤悪かった!」
「近藤さん、ごめんなさい!」
「近藤!許してくれ!」
「近藤くん……」
「近藤……」
……
「ん?」
クラスに入るや否や、クラスの連中が俺の席にやってきて頭を下げてきた。
追記
30代のキモデブ一回だけの登場は勿体無い気がしますねん
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