第89話 みんなの想い

西川side


西川の部屋


「えっと……モザイク処理は問題なしっと……」

 

 啓介が自分のSNSアカウントを使って情報発信してから約数時間が経過した西川の部屋。


「それにしてもすごいね……まさか静川くんがファンタジアの原作者だなんて……」


 そう呟きながらモニターに目を見やる西川。

 

 そこには啓介ことけいのん先生の書き込みが写っていた。


『お知らせがあります。ファンタジアの新刊がもうすぐ発売いたします。詳しい日付はまだ決まってませんが、情報が入り次第、引き続き発信していきます』


 さらに上のには炎上騒ぎになるような書き込みが。


『これまでいろんなことがありました。僕を優しく見守ってくれた父さん母さん、そして声優である僕の妹の花音ちゃん、本当にありがとう。そして、僕をいじめて、僕を貶すひどい内容をSNSに投稿した同じ学校の悪い人から僕を守ってくれた樹くん、本当にありがとう。みんなのおかげで新刊が出来上がった』


 この書き込みには、翔太が書いたとされる樹と学と啓介を貶す内容の書き込みがスクショとして添付されていた。


 個人情報は伏せてあるが、翔太が書いたあれは、ファンタジアのファンの人々を瞬く間に鼓舞させた。


『やっと新刊発売か……俺、涙出ちゃいそう……それはさておき、けいのんさんをいじめたやつ誰?』

『けいのんシャマ……待ってました!妹と言いますと、最近ヤンレデ役を演じるようになった花音ちゃん!?ていうか、けいのんシャマをいじめたやつ、誰なん?マジでぶっ潰したいけど?』

『許さん。けいのん先生の執筆を邪魔したやつはマジで許さん』

『誰?いじめたやつは?』

『特定よろ』

『樹って人、もしかして、花音ちゃんがあげた写真に映ってた筋肉やばい人かな?』


 啓介の書いた書き込みはあっという間に注目を浴びるようになって、トレンド入りした。


 西川が啓介のファンが書いたコメントを読んでいると、机に置いてある携帯が鳴った。


『三上有紗』


 西川は迷いなく電話に出る。


「もしもし」

『西川くん!準備はできた?』

「ばっちり」

『ふふっ!さすが西川くんね!』

「まあ、僕はこれくらいしか能がないから」

『素敵な才能だと思うよ』

「……」

 

 有紗に褒められた西川は照れ顔を作り、黙り込む。それを変に思った有紗が再び言葉をかけた。


『あの……西川くん』

「ん?」

『なんで西川くんは私に協力してくれるの?』

「それは……」

『私、知りたいんだ。相手があの葉山くんだし、こういうのはあまりやりたがらないものだと思うんだよね』

「そうだな……」


 西山はしばし思索に耽る。


 葉山翔太という男がこれまで見せてきた態度。


 それを思うと、答えは自ずと出てきた。


「黙ったままだと、何も解決されない。やられたら、やり返す。黙っている人たちの優しさを利用していい思いをする泥棒はもう許さない」

『ふふ。そうなんだ』

「うん」

『西川くん』

「ん?」

『この事件が終わったら、コスプレ写真本当にいっぱい撮ってもらうんだからね!』

「……うん」

『西川くんのカメラのメモリがいっぱいになるほど』

「……」

『じゃ、よろしくね』

「わかった。任せて」


 電話を終えた西川は、翔太の暴挙が生々しく映っている写真や映像をSNSに






 あげ始める。



X X X


細川家


 学と由美は学の部屋で二人きりである。


 リビングには母と父があるが、学は緊張した面持ちで机の椅子に座ったまま深々とため息をつく。


「学くん……」

 

 由美はそんな彼を慰めるべく、彼の肩を両手で掴んだ。


「有紗から連絡が来たわ。炎上騒ぎになっているとのことよ」

「おお……そうか」


 彼女に言われた学は、早速自分の携帯を取り出し、啓介と西川のアカウントを検索した。


「す、すげ……」


 学の肩を掴んだままの由美も学の携帯の画面を見て、驚く。


「これは想像以上ね」

「ああ。樹のやつも見てるんかな?まあ、しけた顔で筋トレすると思うけど」

「ふふ、そうね」


 

 SNS上では西川があげた動画と映像で大炎上中である。


 だが、西川のアカウントは、一時的に作ったもので、フォロワーがゼロである。


 普通は炎上するのに時間がかかるはずだが、啓介と花音が西川の書き込みをシェアしたことによって、彼と彼女の信者たちによって3人をいじめている動画と画像は瞬く間にネット上で広まりつつあるのだ。


『けいのん先生と先生の友達を殴るなんて……殺意が漲ってくる……』

『モザ消してくれよ!どんなつらしてんのか見てみたいぜ!』

『マジで絵に描いたようなDQNだな』


 などなど、翔太を罵倒する内容がほとんどである。


 中には、


『この学校の制服って、確か○○高校だよね?』

『○○高校ね!間違いない!俺隣のXX高校だかんな!毎日みてる!友達も通っているけど、あのDQN誰なのか聞いて見ようかな?』


 特定をしようとする人まで現れた。


 二人仲良くいろんな書き込みを読んでいる中、

 

 学の携帯の画面が変わる。


『神崎さんのお母さん』


 びっくりした学は早速電話に出た。


「もしもし」

『もうすぐよ』

「は、はい!」

『ふふ、緊張してるの?』

「い、いいえ!してましぇん!」

『隣に由美いるでしょ?』

「は、はい!」

『だったら問題ないじゃない』

「あ、あはは……」

『じゃ、私も見るから切るね』

「あ、ちょっと!」

『?』

「神崎さん、ありがとうございます。樹に恩返しする機会を与えてくれて……正直に言ってすごく緊張してますけど、俺、嬉しいです!」

『ふふ、樹にも学くんの純粋な気持ちを少しでも身につけてほしいものね』

「あいつは、いつだって純粋で真面目です!」


 環が皮肉めいた口調で言うと、学が早速反論した。


『ふふ、確かにそういうところもあるかもしれないわね』


 そう言って環は電話を切った。


「学くん」

「ああ」

「いきましょう」


 二人は学の部屋から出てリビングへと向かう。


 そこにはすでに学の両親がおり、テレビを見ている。


 学と由美も緊張した面持ちでソファに腰掛けた。


 すると、ニュース番組のアナウンサーの声が聞こえた。


『続いてのニュースです。東京都YY区にある○○高校で生徒たちによるサイバーいじめを学校側が隠蔽しようとしているとのことです』

 

『間違いありません。俺たちをずっといじめている人たちが俺たちの変な姿が映っている写真と個人情報をSNS上にあげてて酷いこと書いて……』


『怒りを抑えてそう言うのは、○○高校で最も成績が優秀な細川学くん』


『(ピー)たちは、なんの罰も受けてないんですよ。担任先生が一方的に隠蔽しようとして……』


 ナレーションの人は一連の流れを簡潔に説明する。

 

 そして所々、学がインタビューを受けている様子も。


 学はとても賢く受け答えをし、誰もがさすが学校一と言うような姿を見せていた。


『学校側はそのような事実は確認されていないと、学くんの問題提起を否定していまが、果たして証拠を全部持っていると主張する学校一の学くんが嘘をついているのでしょうか』


 ナレーションが終わり、アナウンサーが悲壮感漂う表情で口を開いた。


「詳しい内容は、明日の朝刊で取り上げる予定です……えっと、この件に関して新たな情報が入りまして……被害者の中には学くん以外にも、大人気ゲーム・ファンタジアの原作者もいるのではないかと噂されています。現在、SNSではこの問題で炎上騒ぎになっておりまして……」


 アナウンサーはSNSでの出来事をざっくり説明してから、次のニュースを紹介した。


 ずっとテレビを見つめる学。


 由美は、彼の手にそっと自分の両手を添えてあげた。


 すると、学の父が口を開く。


「学、よくやった」

 

 母も同調する。


「うちの息子か疑いたくなるくらいよく喋ったわ……」


 学は照れ臭そうに答える。


「いや……記者を紹介してくれたのは、神崎のお母さんだし、インタビューの練習、由美が全部助けてくれたから、俺は何もやってないよ」


 そう言って、学は由美を優しく見つめる。


 すると、由美は恥ずかしそうに視線を逸らし頬を赤く染める。


 学の母はそんな彼女に近づいてとっても明るい表情でペコペコしながら口を開いた。


「ありがとね!本当にありがとね!全部由美のおかげよ!こら学!ちょっとこっちこい!」

「ああ!母ちゃん!何を!」


 急に母は学と由美をひっぺがし、学を隅っこに連れて行って小声で言う。


「早く由美と付き合いなさい!あんないい女は滅多にいないよ!賢くて淑やかで美人で……ああ、正直学には勿体無いけど、早く捕まえなさい!」

「母ちゃん……」


 ジト目を向ける学。


 どんな会話が行われているのか知る由もない由美がはてなと小首を傾げている。そこへ学の父が由美に話しかけてきた。


「由美ちゃん、ありがとな」

「い、いいえ……」

「君のお父さんには頭が上がらないな」

「……」

「学は中学生だった頃もいじめを受けてね。その頃は学も俺も妻も結構大変だった。でも、今は弁護士である由美ちゃんのお父さんが色々アドバイスしてくれるんだ。とても心強い」

「は、はい……」

 

 照れ顔で俯く由美。学の父は、彼女を見てほくそ笑む。


「ところで、学のことなんだけど」

「はい!」


 気合いを入れる由美に、学の父はニヤニヤしながら言う。


「あいつ、恋愛に疎いからな。煮るなり焼くなり好きにしていいぞ。うひひ」

 

 父の悪戯っぽい表情を見て、由美は、


 ドS女王バリに鋭い眼光を学の父に向ける。


「では、お言葉に甘えて……」


 そう言って学と学の母の方に目を向ける由美。


 相変わらず学の母は学に何かを訴えかけていた。



X X X


翔太、ゴリラside



イタリアンファミリーレストラン(コスパいいところ)


「おい翔太!マジで訴えるのかよ!あはは!」

「当たり前だ!あんなキモデブのくずは徹底的に潰してやらないとな!ゴリラ、裁判の時は証人になってくれよな!」

「もちろんだぜ!なんにせ、翔太の願いだかんな!ところで、真凜ちゃんは最近どんな感じ?」

「別にどうもしねーよ。そんなに真凜のことが好きなのか?」

「あはは……まあな」

「今回の件がうまくいけば、お前のいいところ、真凜にいっぱい言ってやるから」

「本当か!」

「ああ。男に二言はない」


 ゴリラは発情した本当のゴリラみたいに椅子から立ち上がり前のめり気味に上半身を乗り出す。


「うははは!翔太!お前って男は……学校卒業しても、俺たちは永遠の友達だぜ!」

「うへへへ!高校卒業したら、面白いこといっぱいやろうな!」

「ああ!俺たちはどんな時も一緒だ!なあ!翔太!」

「ああ!てか早く食べようぜ!今日は俺の奢りだから」



 翔太とゴリラは互いの友情を確かめ合って食事を始める。


(二人とも普段ニュースを見ない)


 



追記




次回、とっっっっても面白いです

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