第80話 大人な対応ではなく……


暴力シーンがあるから気をつけてね!










 学が去った後に直ぐ現れた真斗に俺は戸惑いつつ、彼に問うた。


「なんだよ……」

  

 彼の反応から察するにおそらくさっきに俺と学とのやりとりを聞いていた可能性は高い。


 一体やつはなんで俺のところにやってきたんだろう。


 冷やかんしにきたのか?


 にしては表情が全然違う。


 いろんな考えをしていると、真斗が絞り出すように小声で言う。


「俺は……もう見てられない」

「はあ?」


 彼は感情の必死に押し殺そうとうしているが、声は震えている。


 そんな真斗に俺が視線で続きを促すと彼は返答する。


「これまで、軽い気持ちで近藤たちのことをいじめてきた。翔太のやつが主導したけど、俺も近藤には悪いことをしたと、常々思っている……」

「……」


 こんな気持ちがあるから、彼は俺に謝罪してきたのか。


 演技である可能性も否めないが、少なくとも今の真斗の顔に嘘はないように映る。


 正直に言って、あの時の彼は保身のために謝罪したと思っていた


 転生前の俺の過去に照らして見ると、人間は元々そんなもんだから。


 だけど、彼は思い詰めた表情で苦悩している。


「だから、言わないといけないんだ!」

「何をだ?」



「近藤と静川と細川を貶す内容をSNSで書いた犯人は翔太だ!」


「な、なに!?お前……本当か」


「ああ。本当だ。金曜日の夜、翔太から連絡が来たんだ。間違いない。おそらくゴリラのやつも同調してやったと思う」


「……」


 証人が現れた。


 これは大きい。


 鼓動が激しくなり、血が騒ぐ。


「お前、それ、俺に言ってもいいのか?」


 俺が鋭い眼光を彼に送ると、肩を竦めてから返事をしてくれた。


「近藤は変わった……すっごいイケメンになったから……そのことを必死に認めようとしない翔太の態度は間違っていると思ってな……あと、これでせめてものの償いになれるかと思って……俺が近藤たちにやったことは永遠に残り続けるだろうが」


 自嘲気味に笑いながら言う真斗。


 よく見れば、彼の目の下にはでかいクマができており、全体的に疲弊しきっている様子を呈している。


 おそらくこれを俺に言うために週末は相当悩んでいたんだろう。


 彼は、俺が欲しい情報をくれた。

  

 今は、それだけで事足りる。


 彼が本当に自分の行いを悔い改めたかどうかはわからない。


 だけど、葉山のやつが真犯人だと言うことがわかった。


 だから俺の取るべき行動はただ一つ。


 俺は無言のまま、彼の横を通りすぎる。


「こ、近藤!」

「ん?」


 そんな俺を呼び止める真斗。


「翔太に、なにをする気……っ!」


 だが、俺の怒り狂った顔を見て、真斗は口を噤む。


 震える彼の様子を確認してから、俺は弁当箱を持ったまま、静かにこの穴場を出た。


 俺はなるべく平静を装って放課後になることを待っていた。


 俺の計画を実行するためには、環奈に気取られてはならない。


 葉山のやつは、何食わぬ顔で時々俺をチラッと見ては、ほくそ笑んでいた。


 こんな感じで時間は過ぎ、放課後となった。


 俺たちが付き合っていることは、学校のみんなには秘密なので、放課後の俺と環奈は基本別行動である。

 

 俺が笑顔で環奈たちに手を振って彼女らを見送った。すると、視線は自ずと葉山グループの方に向けられる。

 

 俺は葉山のようへと歩き出した。


「おい葉山」

「はあ?」

 

 気持ち悪い笑い声をこぼした彼が、俺の声に顔を歪める。


「ちょっといいか」


 やつは俺に見下すような視線を向けながらついてきてくれた。


 途中、真斗が困ったように、ため息をつく。


X X X


いつもの穴場


「おい、なんだよ。俺、忙しいから要件だけ言え、くそが」


 葉山はDQNばりに手をズボンのポケットに突っ込んで、俺を睨んでくる。


 要件か。


「SNSで俺たちの写真をばら撒いたの、お前だよな?」


 俺の問いにやつは


「SNS?写真?俺、〜」


 ざわとらしく俺を馬鹿するように、鼻で笑いながら答える葉山の顔は、


 俺の逆鱗に触れるに十分すぎるほど、俺のを刺激した。


 学よ、ごめんな。


 俺、お前の言ってたこと、守れそうにないんだ。


 やっぱり、こいつは、


 死ぬ寸前まで、ボコらないと、俺の気が済まない。


「ふふ、ふふふ」

「はあ、お前、何笑ってんだ。気でも狂ったんか?」


 俺が笑うと、やつは、ちょっと驚いたように、言った。


 なので、俺は、口角を吊り上げて、やつが最も気にするところをピンポイントで突いてやることにした。


「哀れだな。お前」

「っ!なに?」

「お前は俺より下だよ」

「っ!!!!!!!何馬鹿なことを!」

「啓介よりも、学よりも、お前の方が下な。まさしく下の下。俺たちが変わっていく姿にやきもち焼いて、みっともないぞ。環奈がお前に愛想つかした理由が分かる気がするな」


 俺が嘲笑いながら言うと、葉山は目をカッと見開き、急に俺に襲いかかってきた。


「キモデブが!!!!調子に乗んな!」


 彼の攻撃を躱し、俺はさらに彼を挑発する。


「キモデブはもうここにいないよ。お前の妄想の中にはあるみたいだけどな。そろそろ現実見たら?見れないだろ?怖くて」


「……あああ、ああああ、あああああああああ!!!!!後悔するなよ!俺は喧嘩がうまいから!」


 完全に理性を失った葉山は、俺を殴るべく、腕を上げて、再び俺に襲いかかってくる。


 なので俺はまた、軽く攻撃を避け、





 

 

 やつの顔に





 ありったけの力を込めて、







 一発食らわせた。






「ぶっ!!!!!」




 



 優に5メートルは飛ばされたやつは、仰向けになった状態で、息だけを吸って吐いている。

 

 今起きていることにまだ頭が追いついてないらしく、彼は口をポカンと開けている。


 俺はそんな彼の上に座り、顔を狙って殴り始める。


「あっ!ぶっ!おっ!」


 彼は俺より背も小さく、力もない。


 つまり、俺より弱いのだ。


 反撃なんてできないほど、俺の拳は、彼の顔を抉り取る勢いで動いている。


 一発目があまりにも強力しすぎたと思う。


 もちろんわかっている。


 これは大人な対応ではない。


 だけど、俺はやめられなかった。


 むしろ、彼の顔を殴れば殴るほど、怒りがだんだん込み上げてきて、腕により一層力が入ってくる。


 それと同時に、


 転生前の俺の高校時代が蘇ってきた。


 それは、いつもと変わらぬクラスの中。


 椅子に座って、勉強をやっている俺に、葉山みたいな見た目の金髪ヤンキーが近寄ってきた。


『おい!キモデブ!今日もきたのかよ!くっさい匂いばら撒いて、もう死んだら?お前、人類にとってがん細胞以下の存在だからな。なんなら死ぬの、俺が手伝おうか?』


 そう言って、彼はデブな俺に蹴りを入れた。


 すると、120キログラムほどの巨体が倒れ、周りにいた男子女子が、立ち上がり、俺から距離を取る。


 俺を見つめるやつの顔は、


 葉山と酷似していた。


 瓜二つと言っていいほど、双子と言っていいほど


 二人は似ていた。


 そう。


 転生前の俺は



 キモデブだった。


追記



回収作業始まります



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