第79話 変わった日常
家に着いた翔太は、真っ先に自分の部屋に入り、ゴリラに電話をかける。ゴリラとは、いつも連んでいる同じクラスの友達のことだ。ゴリラは野球部の真斗のように、樹に対して罪悪感を感じることなく、翔太に同調している。
『翔太?』
夜遅くに電話をかけてきたので、若干驚きの声で言うゴリラに翔太は、悪役面して何かを話す。
X X X
月曜日
樹side
土曜日と日曜日は、とてつもなく熱い日だった。仕事を終えた環さんも途中参加と言うことでかなりエネルギーを消費している。
これから、幸せな日々が俺を待っている。と、思っていたが、どうやら現実は俺にあまくなかった。
今日は寝坊したので一人で学校へと歩いている俺の携帯が鳴ったのだ。
俺と学、啓介からなるグループチャットには、啓介が送ってきたメッセージが表示されている。
『僕、しばらくの間、不登校』
「……」
なんで。どうして。と、一瞬、理由を聞こうと思ったのだが、やめた。なぜなら、啓介が不登校になったきっかけを知っているから。
怒りを必死に抑えて唇を噛み締めながら、俺はクラスへと向かった。
俺がクラスの中に入ると、葉山グループを除く全ての人が気まずそうに目を伏せ、何も喋らない。
難しい顔で、なるべく俺と目を合わせないようにして、教科書を読んだり、突っ伏したりしている。
なので、俺は深々とため息をついて、自分の席へと移動した。
そこにはもちろん、環奈といつもの二人(三上、立崎)が話していた。
「おはよう」
俺が普段と同じく挨拶すると、3人が葉山を睥睨してから、俺に笑顔を向けてくれた。
すると、他の男子も女子も話を始め、教室はあっという間に喧騒に満ちる。
「近藤くん……大丈夫?」
腐女子こと三上が、遠慮がちに聞いてくる。
「……」
ここで、「大丈夫だよ。気にしなくていいから」と言うと丸く収まると思うが、俺は握り拳を作り、三上から目を逸らした。
俺を案じた立崎が、目力を込めて話す。
「本当に人間クズだわ。もし、あれを大人がやったら、刑事罰に問われ、監獄行きよ。一様朝、葉山さんらに聞いてみたけれど、逆ギレされたわ。証拠はないけど、怪しすぎる」
「そうか」
「ええ」
なるほど。
奴らはしてないと、そう言い張るつもりなのか。
俺は携帯を取り出して、SNSアプリを取立ち上げた。
すると、そこには
『細川学、○○高校2年○組。背も小さな不細工でクソキモデブと連む負け組』
『静川啓介、○○高校2年○組。キモいコミュ障で、メンヘラで、人とろくに話せない人類の汚点』
『近藤樹、○○高校2年○組。キモデブなのに、調子こいてイメチェンしようとするクズ。本当に死ねばいいのに。死ね。なんで生きている?死んじゃえ。生きる価値もないゴミが』
みたいな書き込みがあって、俺たちの昔の姿が写っている写真がモザイク処理も施されてない状態で公開されているのだ。
普段、SNSとか頻繁にやっている三上が土曜日に連絡をして、この書き込みの正体を知ることができた。
こんな汚いことをする奴に心当たりがある。何を隠そう。葉山のやつだ。
奴は、殊更に大声でナンパとか合コンがどうのこうの喋っている。非常に耳障りだ。
「あははは!!!!!だから、俺が参加したら、絶対盛り上がるからよ!」
「そうね!そうね!翔太が行けば、面白いんだよな!ところで真凜ちゃん……」
葉山とゴリラはゲラゲラ気持ち悪い笑い方をして、ギャル達と話している。だが、一つ不思議な点は、
野球部の真斗の存在。
彼は、唇を震わせ、何も言わずに彼らと俺たちとを交互に見て深々とため息をついている。
まだ葉山たちがやったと言う証拠はない。だから、無理やり彼らを問い詰めると返って攻撃を受けかねない。
しかし、漲ってくるこの怒りはなかなか無くなってはくれない。
俺に恨みがあれば、俺にだけ焦点を絞って攻撃すればいい。
でも、
学と啓介まで……
「樹……」
「環奈……」
怒りを募らせていた俺が心配になったのか、環奈は、そっと両手で俺の手を包み込んで落ち着かせてくれた。
それと同時に予鈴が鳴り、見慣れた人が入ってくる。
「静かに」
その一言にクラスは冷や水を差したように静まり返った。
ハゲた中年男性の岡山先生は四角いメガネのフレームをいじり、教壇の前で俺たちに向かって口を開いた。
「隠蔽って言葉知ってるか」
そう言われて、各々の席に戻ったクラスメイトたちはキョトンと小首を捻る。
「最近ニュースでも頻繁に出る言葉だが、故意に悪事を覆い隠すのは悪いことだ。大事になることを恐れて自分の失敗を隠蔽した同じ学校の先生の一人が、最近、処分を受けた。だから、隠蔽はするんじゃないぞ」
低い声で放たれた岡山先生の言葉。
でもなぜだろう。
あの人の人生の暗いところを味わいすぎた顰めっ面がとても気に食わない。
何考えているのかは知らんが、この先生とは仲良くなれそうにない。
謎すぎる先生の発言にクラス一同戸惑いつつ、「はい」と答える。
担任先生はそれっきり必要最低限のことだけ話して教室を出た。
そして始まる授業。
正直、俺は授業どころじゃなかった。
相変わらず書き込みは残っており、ハートや返事などががいっぱいついている。ほとんどが俺たちを悪く言うコメントで、法律に照らして見ると、完全にアウトだ。
焦る気持ちをなんとか落ち着かせようとしたが、無理。この状態で昼休みがやってきた。
なので、俺はいつもの穴場に行き、学を待つことにした。数分ほどがたち、学はとても暗い顔で現れた。
無理もない。
あんなことを書かれたんだ。
奴はまだ高校生だ。転生前は、大人として生きていた俺もこんなに精神的ダメージを食らっているんだ。学も啓介も相当苦しんでいることだろう。
なので、俺は、悲しい表情で彼に慰めの言葉をかけようとした。
が、
「樹!」
「ん?」
「しばらくは、俺に話かけんな」
「え?」
「もうこれからは別行動だよ」
「お、お前……何言って……」
俺の予想を遥かに上回ることを学は俺に言ってのけた。それも非常に冷たい言い方で。
「学……もしかして、SNSのあの内容を気にしてんのか。それなら安心していいぞ。犯人探して、俺が死ぬ寸前までボコボコにするから!!」
俺は握り拳を作り、大声で学に言う。
だけど、学は俺を睨んで、さっきより冷たい言葉で言う。
「樹、暴力はだめだ」
「何言ってる!?あんな酷い内容を書いたんだぞ!」
「もう一度言う。暴力はだめ。あと、これからは別行動だからな」
「お前……」
彼はそう言って、踵を返し、歩き始める。
なんだよ。
なんで急にこんなに変わるんだよ……
啓介のやつも、学校こないし。
俺は、遠ざかっていく学を呼び止めるべくなんとか口を開けた。
「おい学!俺たちの絆は、こんなもんですぐ壊れるようなもんなのかよ!」
「……」
だが、彼は何も返すことなく、消えていった。
本当に
なんなんだよ。
俺が絶望に打ちひしがれ、錆びついたベンチに座り、上を見上げた。
絶好の遠足日和で、秋を知らせる涼し気な微風が俺の頬を優しく撫でるのを感じつつ、俺は大きくため息をつく。
一人になってしまったか。
いや、俺には環奈と環さんがいる。
けど、学と啓介という存在は、俺にとってかけがえのないない大切な友達だ。なのに、こんなにあっさりと瓦解してしまうのか。
昔は、葉山たちにいじめられながらも、俺たち3人は互いを支え合っていた。精神の支え。
もし、一人でも欠けていたら、昔の近藤樹は、間違いなく不登校になったと思う。
それほど大きな影響を与えたあの二人は、今ここにいない。
俺一人だ。
そう思った瞬間、意外な人物が俺に話しかけてきた。
「こ、近藤……」
「真斗?」
野球部員であり、葉山と連んでいる真斗が俺にやってきたわけである。
彼は、今にも泣きそうに切ない表情をしている。
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