第77話 真凜の妙案は何をもたらすのか

ラブホテル


 俺たちは流れるようにラブホテルの中に入った。


 先に俺がシャワーを浴びて、今はベッドで横になりつつ、真凜が体を洗う音を聞いている。


 側から見れば、羨ましがられる光景だが、俺は喜べなかった。


 真凜と一回だけ、関係を持てば、ずっとずるずる引きずっていたこの曖昧な関係を終わらせることができる。

 

 だけど、環奈は、俺と真凜がエッチすることをすごく嫌っている。


 俺の選択によっては、下手をすれば俺たち3人の関係は破綻する可能性すらある。


 考えうるもっとも良いシチュエーションは、真凜が俺と環奈の関係を納得し、身を引くことだが、果たして、関係を持ったとしても素直に引いてくれるか、分からない。


 俺は、真凜が信用できない。


 それなのに、ホイホイここについてくるあたり、俺も節操がない。


 そう思っていると、シャワー室から水の音がなくなった。そして、ドアが開けられて、男なら例外なく飛びつきたくなる女体が現れた。


「樹っち……やっぱり好き」

「……」



 艶かしい姿では発せられた言葉は俺の頭を痺れさせるように甘い。


 俺が返事をしてなくても、彼女は、俺の方にやってきて行動で示した。


 前回と比べ物にならないほどのテクで俺を満足させた。本番が始まる前まで続く彼女の絢爛たる動きは、転生前の女性なんかと比べ物にならないほどのレベルだった。エロ漫画の世界、侮りがたし。


 完全に頭が真っ白になった。


 これまで悩んでいた俺がバカのように思えるほど、真凜はすごかった。


「ふふ、樹っち、今度はこれつけるね」

「あ、ああ」


 真凜はまた流れるように素早くゴムをつける。


 このままだと、俺は間違いなくこの子と再び一つになる。


「樹っちは何もしなくていいの。私に任せて。いっぱい勉強したから」


 真凜の囁きに俺は、何も答えずに、全てを真凜に委ねた。


 もちろん本番が始まれば、主導権はこっちが握ることになると思うが、俺は真凜という坩堝にどっぷり浸かることに対して、小さな違和感が芽生え始めた。


 どうしてこの子はここまでするのか。


 この子は、本当に俺との思い出が欲しいだけだろうか。

 

 一体、この子は何を望んでいるのか。


 そんな疑問が新たな疑問を生み、性欲の塊だった俺の頭に、理性が入ってきた。


 それと同時に、またあの言葉が脳裏を過ぎる。


『真凜は危険。気をつけて』


 啓介は、わけの分からないことしか言わないが、とても優しくて俺をよく見てくれる大切な友達だ。

 

 俺が真凜の家で彼女を犯しそうになった時も、啓介がタイミングよく電話をかけて、俺は助かった。


 そんな彼が、真凜を危険だと言ったのだ。


 啓介。


 思い出される顔は啓介だけじゃない。


 両親や学、三上、立崎の顔も浮かんでくる。そして、最も根本的なところには、


 環奈がいた。


 それに、


『樹っちが襲ったの!私があまりにも魅力的だから!環奈ちゃんより私の方が綺麗で可愛いから樹っち、我慢できなくて私の身体を心ゆくまで堪能したの!!私は全然したいと思わなかったのに、樹っちが私の口に舌を入れて、強引にやったの!』

 

 この子は、俺のことをどう思っているんだろう。


 もしかして、今のエッチは、ただ単に愛や快楽のためではなく、別の目的があるのではないだろうか。


 ふと、そんな気分がした。


 もうすぐ本番だ。


 横になっているままの俺は、俺の上に座ろうとする彼女から離れるように、横を向いた。


「樹っち!?」


 そして無意識のうちに、ゴムの先っちょを触れてみる。


「あ?」


 すると、不自然な感触が俺の指に伝わった。


「っ!!!!!!!!!!!!」


 真凜は急に目を丸くして、口をポカンと開けたまま、体を震わせていた。


「穴……空いてる?」

「……」


 このゴムをつけたのは、間違いなく真凜である。そして、真凜はこのゴムを自分のカバンから取り出したのだ。


 つまり、


「本当た!穴空いてる!もし、この状態で最後までやっちゃったら、ヤバかったかもね!」


 嘯いているが、俺は見たのだ。


 彼女が戸惑う姿を。


 俺は素早くベッドから降り、急いで制服に着替える。


「い、樹!?何やってるの?」

「俺、帰る」

「はあ?何言ってるの!?まだやってないじゃん!」

「真凜」

「なに?」






「お前、そういう子だったんだな」




「っ!!!!!!!!!」


 

 困惑する裸姿の真凜は実に魅力的で、昔の俺なら、本当に妊娠させる覚悟で彼女の身体を貪っていたことだろう。


 実際、真凜はそれほど綺麗で、人を喜ばせるスキルを持っているレベルの高い女だ。


 もし、彼女が葉山の妹でなければ、本当にどうなったかことか……


 だが、今は俺の身体は真凜に反応しない。


 着替え終わった俺は、いつもの居場所へと向かうべく部屋を出た。


 ドアを閉めて、胸を撫で下ろす俺。


 だが、


「くそ!!!!クソクソクソ!!!!!!」


 真凜が大声で叫んでくる。


 あの叫び声を聞いて俺は気が付く。


 真凜の中での俺は


 単なる道具に過ぎなかったと。


X X X


神崎家


「樹?」

「環奈……」

「どうして?連絡もなしに来るなんて」

「環奈!!!」

「ひやっ!樹!?」


 ラブホテルから出た俺は、駆け足で環奈の家に向かった。そして、彼女の顔を見るや否や、強く抱きしめて、環奈の体温を確かめた。


 環奈は最初こそ驚いた様子だったが、やがて俺のことを見透かしているとでも言わんばかりに目を細める。


「何かあったのね」

「ああ」

「言ってちょうだい。樹のこと、全部知りたいから」

「……真凜に会ってきたんだ」

「な、なに!?」

「何も無かったから」

「……そうね。匂い、あまりしないから」

「……」

「真凜が仕向けたわよね?」

「すまん。そうだけど、誘いに乗るべきでは無かった」

「ちゃんと断った?」

「ああ。もう真凜と会うことはない」


 言い終えると、環奈は俺をもっとギュッと抱きしめてくれた。この柔らかい身体と環奈の生声は、俺の緊張した身体に安らぎをもたらしてくれる。


 この温もりを感じて、やっぱりここが俺の居場所だなと再び気がつく。


「よかった……」


 安心しながら、青い瞳を潤ませる環奈。


「樹、私が全部忘れさせてあげる。二度とあの子の匂いがしないように、私の匂い……樹の全身につけるから」

「望むところだ」


 そう言って、俺たちは、互いの唇を貪った。


X X X


真凜side


 一人取り残された真凜は怒り狂った様子で、握り拳を作っている。


「なんで……なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!!うまくいかないんだよ!!!」


 悔しそうに唇を噛み締める裸状態の彼女だが、やがて、妙案が思いついたのか、急に口角を吊り上げた。


 あまりの変わり様。一般人が見ると、サイコパスを連想するだろう。それほど真凜は、狂ってした。


 彼女はベッドの上にある携帯を手にとって、ある人に早速電話をかけた。


『真凜?どうした?』

「あ、兄貴、私が面白い話してあげようか」

『はあ?いきなり電話かけて何言ってんだよ』


 自分の兄である翔太に向かって真凜は話す。






「環奈ちゃんと樹っち、二人きりでめっちゃいいことしていたんだよね〜」

『な、なに!?』

「いや〜本当にすごかったよ。まさか、あの二人がね〜」

『おい、真凜!具体的に……』

「目があれば自分で確かめてみれば?ふふ」


 そう言って、真凜は電話切った。





追記


次回、面白いです

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