第74話 マリリン

樹side


 俺たちは4人用テーブルに陣取ってから、共に食事をする。最初は俺がここにいてもいいのかと少し心配したが、案外、家族連れの人も結構いて、俺たちの組み合わせが目立つことはない。


 だが、二人の美貌に釣られる男性女性は数え知れずだ。

 

 学と啓介とはたまに気分転換にどっかのラーメン屋さんにいくことはあるが、こうやって人数ある本格的な会場で二人と美味しい料理を共に頂くのはなかなか新鮮で悪くない。


 俺と環奈が隣同士、そして向こうに環さんという構図でビュッフェ料理平らげる。


 味は申し分ない。


 俺たちの隣のテーブルには子供たちが笑顔を浮かべながら料理を楽しんでいる。


 和んでくる空気を肌で感じる頃にはティータイムの始まりだ。


 普段言えなかった話もこのような雰囲気の中では出やすい。


「樹」

「はい」


 どうやら環さんが俺に話があるらしい。


 なので俺は耳をそば立てて、聞き入る体勢に入った。


「来年は樹も高校三年生よね?」

「まあ、そうですね」

「進路は決まった?」


 進路か。


 高校二年生の秋ともなると、4年制の大学に進学するか、専門学校に進むか、公務員になるか、それとも就職するか、だいたい方向性が見えてくるはずだ。


 俺は転生してからすぐ、高校卒業後に何をやるのかとっくに決めてある。なので、俺は堂々と答えた。


「はい。決まってますよ」

「すごい……」


 自信満々な俺を見て、環奈が憧れの視線を送ってきた。環さんは、俺の反応は想定してなかったのか、若干驚いたが、やがて笑顔を浮かべて話す。


「ふん〜卒業したら何をするつもりなの?」

「えっと、俺、ジムトレーナー目指してます。将来的には自分のパーソナルジムを開業して、人たちを健康な体にしていきたいですね」


 転生前の俺は、大手が手がけるジムで働いていたが、ずっと自分のジムを持ちたいと思っていた。なのでコツコツと金を貯めていたのだが、トラックに轢かれ死んだので、俺の夢は叶わずに全てが終わってしまった。


 だから、その夢を今の近藤樹に託す魂胆なわけだ。


 俺の話を聞いた二人は、目を丸くし、互いを見つめて不思議そうに頷き合った。それから環奈が戦慄の表情で話す。


「樹はやはりすごいわ。まだ高校生なのに、やりたいことがはっきりしていて……」

「ううん。全然大したことないよ。環奈こそ勉強めっちゃできるから、いい大学に進学できるんじゃないの?」

「それは、そうだけど、私は樹やお母さんみたいに得意分野がないから……八方美人だよ」


 環奈は自信なさげに俯く。なので、俺は彼女を慰めるべく頭をなでなでしてあげた。


 俺たちの光景を優しく見守る環さんは満足げに答える。


「樹がジム開業したら、今通ってるジムに通うのはやめないといけないわね」

「俺に指導を受けたいんですか?」

「うん。だって、あなた、だから。ふふっ」


 彼女の口ぶりから察するに、その上手には違う意味も含まれてる気がしてならなかった。


 なので、俺も彼女のノリに合わせてあげることにした。


「そうですね。俺、上手いんですから。環さん、いつも大満足でしたね」

「あら、私が本気になれば、樹はひとたまりもないわよ」

「なら、今日確かめてみますか?」

「っ!」

 

 俺の鋭い眼光に環さんは一瞬体を小刻みに震わせて頬を赤らめた。


「樹、お母さん……今将来のこと話してるんだよね?」


 ジト目を向けてくる環奈のツッコミに全く反論できない俺と環さんであった。


 気まずい空気が流れるが、なんとか誤魔化すべく環さんが咳払いをして、言う。


「まあ、その……頑張って立派なジムトレーナーになりなさい……あなたにはやることがいっぱいあるから……」


 後ろに行くにつれて、恥ずかしそうに口をもにゅらせる環さんは実にウブで可愛い。


 会社のお偉いおっさんと接する時と今のギャップが凄すぎてて、ちょっとドキッとした。


「樹……」

「あ、ああ……環奈」

「目がエッチ」

「……」

「言っておくけど、樹の彼女は私なんだから!」


 プンスカ怒り気味の環奈の顔を見ると、学校での凛とした姿とギャップがありすぎて、これもこれで……


「もちろんだよ。環奈」

「……」

「環奈が頑張っている。まだやりたいことが見つからないからといって、落ち込む必要はないから」


 俺はそう言って、環奈の肩に手を回し、俺の方に強く抱き寄せた。


「っ!」


 環奈は俺の力加減にまだ馴れてないらしく、びくんと上半身を仰け反らせたが、やがて、俺に体を委ねた。環奈は俺を切なく見つめている。


 そんな俺たちを見て、環さんが色っぽく舌なめずりをする。


X X X


 パーティーが終わり、俺たちは環さんの車に乗って神崎家に帰った。


 玄関を開けると、二人の母娘独特のいい匂いに加え、男のワイルドな匂いも漂ってくる。


 ここは完全に俺たち3人の住居空間と化したのだ。


 靴を脱いだ俺たちは余韻に浸かるようにそれぞれ短いため息を吐いた。


「ふう……俺は後でいいんで二人ともシャワー……っ!環奈!?」


 俺の部屋(旧環奈の父の部屋)へ行こうとしたが、急に環奈が俺に抱きついてきた。


「も、もう……我慢できない」


 環さんが見ているというのに、環奈は思いっきり俺のお腹あたりに凶暴な巨乳を擦り付けてきた。


「とりあえず落ち着こう。環奈」

「落ち着けないもん……今日の樹、本当に格好良くて、私、お腹が熱いの……」

「……」


 そういえば、パーティーに行く前も環奈はすでに出来上がっていた。またお預けを食らわせるのは、ちょっと可哀想かも。


 俺は環奈の彼氏だ。


 だから、彼女の切ない感情を


 全部、徹底的に義務がある立場だと言えよう。


 自分の頭を俺の胸に埋める環奈のお尻を優しくさすり、環さんを見てみると、





 彼女もまた、青い瞳を潤ませ、物欲しそうに俺を見つめていた。だが、娘の手間、必死に自分の気持ちを隠そうとする無駄な努力もしていて俺の心にもいよいよ火がついた。


 この状況を打破する唯一の方法。


「環奈も環さんも、俺の部屋に来ませんか?」



X X X


 二人との行為を終えた俺は玄関の先の庭に立って、ぼーっと空を眺めていた。


 二人と一緒にやるのは初めてだった。行為の途中、背徳感があったが、この二人が歩んできた道を想うと、そんな背徳感なんかより、二人を幸せにしたいという気持ちの方が大きすぎて、行為は今まで以上に激しさを極めた。


 環さんは気絶するように果てて、環奈も完全に壊れている。

 

 俺の体もまた、壊れる寸前だ。


 なんせ、エロ漫画のメインヒロインとその母と数時間も関係を持ったのだ。今こうやって一人で思考ができるだけでも奇跡みたいなものだと思う。

 

 おそらく転生前の俺なら、絶対死んだと思う。


 これがいわゆる主人公補正ってやつだろうか。


 もし、一般家庭の母娘と3Pとやらをするのは、俺の倫理観が絶対許さないと思うが、この神崎母娘は、例外で特別だ。この二人となら、こういう関係を築いて行ってもいいと、うちなる自分が言っている気がする。


 俺の部屋で裸状態で寝ている二人はどう思うだろう。


 ただ単に性欲を満たすための行為ではなく、心の奥深いところにある何かをくすぐるセックスは、俺に更なる刺激と感動と余韻を与えた。


 もう深夜で夜空には、数えきれないほどの星々とまんまるな月が光り輝いている。


 この静かな空間で夜風にでもあたってから二人のいるところに戻ろうではないか。


 そう思った矢先に携帯が鳴り始めた。


 タイミング的には父さんか母さんかな。


 時差があるから夜中にかけてくること多いんだよね。


 と、俺は頬を緩めて携帯を取り出して液晶に目を見やる。





『マリリン』




 



 

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