第68話 アクシデントは唐突に訪れる
環奈side
昨日の出来事は忘れられない。出来事というよりも彼、元い自分の彼氏が発した言葉が忘れられないと言った方が正しいかもしれない。
『俺が、一緒にいてあげるから、安心してもいいよ』
彼とは数回体を重ねてきた。あの鍛え抜かれた体と女を喜ばせることだけを目的としたテクニック。
樹が抱えている暗いところを包み込む見返りとして与えられる快楽。
十分すぎると言っていいほど環奈は満足している。
が、心のどこかで不安に思う自分がいる。
もちろん、この不安は樹によってもたらされた感情ではなく、ずっと昔から抱え込んできたものだ。
だから樹と関わるようになり、だんだん自分の身体と心が喜ぶようになったことで余計にこの不安という消し去りたい感情が目立つ。
自分だけじゃない。
お母さんも自分と同じ気持ちを抱えている。
この不安があるから環奈と環は娘と母ではあるのだが、世に言う家族よりもお互いを依存し合っていた。
だが、
昨日の彼は、自分とお母さんが抱いているこの不安を完全に砕くような言葉を言ってくれた。
それからは、樹は硬くて逞しい腕で、自分とお母さんを力強く抱き寄せて逃げられないようにホールドしてくれた。
絶頂を迎える訳でもないのに、頭が真っ白になってしまった。どうして言葉一つで自分の身体がこんなにも熱くなるんだろう。
自分とお母さんはずっと探していた。
自分達を守ってくれる頼れる相手を。
二人の絆を壊すことなく、全肯定して尚且つ一緒にいてくれる理想の男をずっと求めていたのだ。
もちろん、そんな男、いるはずもなく、自分と母の身体だけを意識する鼻持ちならない男だけがハエのように近づいてきた。思い返してみれば、翔太も幼い頃はともかく、今は上の範疇に入る人間かもしれない。
そんな中で現れたのが近藤樹。
いわゆるキモデブとしてクラスや学校のみんなから白い目を向けられながらも、死に物狂いで自己管理に徹底し、変身を遂げた男。
そして、友達をとても大切にする優しさまで兼ね備えた男。
同時に心に自分と同じく不安を抱いている男。
そんな彼を見ていると、心がもどかしくなり、どうしても包み込んであげたくなる。彼の全てを受け止めたくなってしまう。
心がぎゅっと締め付けられ、指先が痺れる謎の感覚にヤキモキしていた自分だが、
昨日は
彼の優しさが自分の不安という気持ちに突き刺さった。
あの男と心から繋がり合ったことによってもたらされた快感はどんな娯楽より刺激的でいかなる言葉を並べ立てても言い表せないほど甘い。
昨日のことを思い出すだけでも嬉しすぎて、顔を洗いに洗面台の方に向かっている樹の顔を思い浮かべて、頬を赤く染める環奈。
それから、表情を緩めて寝ている自分の母の方に視線を送ってみる。
「ふふ」
樹以外の男と一緒にいる時はいつも監視の目を緩めずにいた自分の母の寝姿は、実に無防備である。
なので、環奈は思うのだ。
樹は、私たちの世界に入ってもいい男だと。
しかし、ちょっと複雑な気持ちも芽生えてくるわけである。
お母さんが樹のことが好きすぎて、もし、あってはならないことが起きたらどうしよう。
幸せが増えればその分、心配ごとも増えるものだ。
一応釘は刺しておいたが、やっぱりどうしても気になる。
そう考える環奈は、難しい顔で、胸がはだけた寝巻き姿の母を見つめた。
すると、
環が目を開けて、その透き通った青い目を向けてきた。
「いいの。別に取ったりしないから。娘の彼氏なんだもの」
「っ!お母さん!起きてたの!?」
「ふふ」
環は、
とっても明るく笑っていた。
もう、翔太という存在は環奈の中で鳴りを潜め、形骸化していった。あんな最低最悪な男と幼馴染という事実に悔しさを覚えることはない。
無関心ほどひどいものはない。
翔太の存在は環奈に爪痕を残すことなく、自然消滅していった。
自分の処女を奪ったのが樹で本当によかったと、環奈は色っぽく安堵のため息をつく。
X X X
樹side
環奈と環さんの家に泊まってからは、俺たち3人の関係は変わった。父さんと母さんには悪いが、俺たちは、本当の家族のような仲になった。
これまでは、それぞれのプライバシーがあったが、今や俺たち3人は完全に一つの集合体となった。もはや神崎母娘は俺の人生の一部となったのだ。
休日平日問わず、環奈の家に行ってご馳走になったり、重い荷物を運んだりして部屋の片付けを手伝ったりしながら過ごした。
半同棲と言った方が正しい気がする。
環さんとも結構話すようになった。
彼女がいくら稼いでいるのか、どんな人たちと親しくしているのかまで環さんは教えてくれた。
時間が経つに連れて、この母娘に関する情報が俺の脳内にどんどん刻み込まれていく。
おそらく葉山のやつより、俺の方がこの二人の事をよく知っていると言えるのではないだろうか。
過ごした時間は少ないけど、大事なのは今だ。
時々真凜から連絡が来るが、この二人と真剣に向き合っている俺は真凜に会うだけの時間も余裕もなかった。
そう。
余裕がない。
余裕が。
環奈と環さんは以前より俺を強く求めるようになった。
もちろん、俺も前と比べ物にならないほどこの二人の身体を貪っている。
一日
一週間
二週間
時間の流れがあまりにも早すぎたが、俺の気持ちは決して萎えることはない。むしろ漲ってくる気までする。
放課後、環奈が俺の家に遊びに来た日も例外ではあるまい。
「玄関でこんな……っ!まずご飯作るからそれを食べてからでも……」
俺は玄関扉を開けて中に入った彼女の身体を早速貪り始めた。
「樹……せめて、鍵をかけてから……」
「いいって、今日は啓介も学も花音ちゃんも来ないから」
と、俺が環奈の耳に囁きかけると、彼女は電気でも走っているのか、上半身をのけ反らせた。
そして、数十分後、クライマックスに達しようとした瞬間、
「樹っちと、環奈ちゃん!?」
「「っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」
鍵がかかってない玄関扉を開けて現れたのは、制服姿の真凜だった。
彼女は、全裸の俺たちを見て、目を丸くし、手に持っていた紙袋を落とした。
そこからは、彼女がメイドカフェでいつも身に纏っているメイド服と、四角い何かが何個かこぼれていた。
追記
性描写ありですが、表現自体は結構抑えめです(読者様の方々の想像にお任せします)。
ここから本格的になってきますので、最後までお付き合いください(ベタなストーリーは嫌です^_^)。
あと、もうちょっとで★6000いけそうなのでご協力お願いします!
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