第67話 進展する関係

 突然言われたことで首を捻ったが、環さんの表情に変化はない。環奈もまた、自分の母の言葉に同調する様に、真面目な顔で俺を見ていた。


 気まずい静寂が訪れるも、この親娘は揺るがない。


 しかし、気のせいかもしれないが、環奈と環さんの美しい顔には不安の色が若干混ざっているように見えた。


 明らかに自分の身体を貪って欲しいという面持ちではなかった。


 なので、俺は二人に視線で続きを促すことをやめ、落ち着いた様子で頷く。

 

 すると二人は優しく微笑んで頷き返してくれた。


 俺はそんな二人を見て胸を撫で下ろし、安堵のため息をつく。


 と、言うわけで俺たちは今、環さんの部屋のベッドで3人並んで横になっている。


 このベッドはダブルサイズだが、環奈と環さんは胸とお尻を除けばね結構スリムだから、俺と神崎親娘のべ3人が横たわっても不便ではない。


 位置は上から眺めて環奈、俺、環さん。


 環奈が漂わせる女の子独特のいい香りと環さんが発する大人の女性のいい匂いが混ざり合って俺の鼻腔を優しくなぞった。


 だか、そこにはメスのフェロモンは感ぜられない。


「……」


 ちょっとだけ動くと二人の腕に付いている柔肉に触れるため極力動かないようにしていると、環さんが小悪魔っぽく口を開いた。


「襲わないの?ここに、あなたの色に染まった二人の女がいるのに」

「っ!環さん……」


 普段なら、「もうゆるひて」と言うまで容赦しないと思うが、不思議と襲いたいとは思わなかった。


「お母さん……私の彼氏に何言ってるのかしら」

「ふふ、樹を見ているとつい悪戯したくなっちゃうから」

「悪戯にしては洒落にならないんですよね……環さん」


 と、俺が苦笑いで環さんに言うと、彼女は何も返してこなかった。


 なので、俺は聞いてみることにする。


「なんで俺を誘ったんですか?普通こう言うのは社会的に危ないと言いますか、普通にNGだと思うんですけど」


 俺の言葉は環さんに向けられているが、同時に環奈にも向けられている。環奈もここにいるわけだし。


 何で二人は俺と一緒にいることを選択したのか思考を巡らしてもそれらしき答えは出てこなかった。


 数秒間沈黙が訪れる。


 色々勘繰ってしまいそうになるが、俺は邪念を払って待ってあげることにした。


「……言ってあげないわよ」

「樹のバカ」


 そう言ってこの母娘は俺との距離を詰める。


 二人の肌が触れる瞬間、俺は心が温まる気がしてきた。それと同時に、


 徐々に薄らいでいく寂しい感情。


 転生前の俺と今の俺を癒すこの温もりを感じている俺は


 この二人とずっと一緒にいたいと、そう思ってしまった。


 ならばこの二人も……


「俺が、一緒にいてあげるから、安心してもいいよ」




「っ!!!!!!!!!!!」

「っ!!!!!!!!!!!」


 俺の言葉を聞いた環奈と環さんは、急に身体をのけ反らせた。その衝撃をもろに受けた俺は月明かりに照らされた二人を交互に見てみる。


 神崎母娘は、どんな宝石よりも美しく綺麗な青い瞳を潤ませ、俺を切なく見つめていた。うち、環奈が口を開く。


「嘘……じゃないわよね?」

「嘘じゃない」


 俺の返事が信用できないのか、環さんが訊ねてくる。


「今まで身体は許しても、心までは許して来なかったの。でも、そんなこと言われると……」


 いつも俺を揶揄ったり上から目線でマウント取りまくりだった(ベッドでは真逆)環さんの声音には小悪魔っぽい要素は1ミリも見て取れない。


 そんな二人の反応を見て俺は、


 意を決したように筋肉の付いた両腕で二人の柔らかいお腹をガッツリホールドし、俺の方に力強く抱き寄せた。


「っ!!」

「っ!!」


 俺の行動に二人は一瞬驚いたものの、抵抗したりはしない。むしろ俺に身体を預けた。


「環さんは今までよく頑張ってくれたと思います。俺高校生だからあまり詳しく知りませんけど、環さんには本当に感謝してますから。環奈を産んでくれて……」

「……生意気よ。私じゃなくて私の娘を大切にしなさい」

「もちろん、環奈も大切にします。でも、環さんも大切だから……二人がこれまで築いてきた絆をこれからも大事にしていきたい」


「……」

「……」


 結構恥ずかしい事を言ったと思う。けど、この母娘は俺にくっついたまま、離れようとせず、何も言わず、ただただ規則正しい安定した呼吸をしながら、目を瞑った。


 その気になれば、二人の胸を思いっきり揉みしだいて次のステップに進む事だってできるが、


 こうやって寂しいもの同士、身体のつながりじゃなく心の繋がりを楽しむのも悪くないと思う自分に俺は心の中で言うのだ。


『もう、過去のように生きる事はやめよう』


 俺たちは3人は心安らかに眠りについた。



X X X


明日


 スズメがちゅんちゅんと鳴く音が耳に届いた頃、俺は目が覚めた。


「……」


 俺の隣には環さんが気持ちよさそうにすやすやと寝息を立てて寝ている。


 だが、胸のところがはだけた寝巻き姿はちょっと、いや、だいぶ刺激的である。胸自体が大きすぎるから、そのマシュマロがこぼれないように引き留めてくれる下着が俺を誘惑するように揺れ動く。


 目のやり場に困って他の所を見てみると、すでに起きている環奈が俺を切な気に見つめていた。


「お、おはよよ……環奈」

「……」


 だけど、寝巻き姿の環奈は返事をしてこない。


 俺は不思議と思い首を傾げると、彼女は意味あり気に口を開いた。


「樹」

「ん?」

「お母さんとエッチしていいよ」

「っ!!」


 俺の予想を遥かに上回る事を口にした環奈に俺は呆気に取られる。


 そして彼女ははにかむように頬をほんのり赤く染め続ける。


「で、でも!私が一番だから……」

「それは当たり前だ……」

「もし、お母さんと赤ちゃん作ったらマジで許さないわよ」

「しないって!そんな怖い事言うなよ!」


 俺は全力で手をブンブン振って返答をしながら、寝ている環さんを見てみる。


 うん……相変わらず環さんはまだ夢の世界の中だな。


 と、ため息混じりに環奈も方を見てみると、彼女は





 俺に飛び込んできた。


 なので俺は、彼女を抱き止め柔らかい黒髪を優しく撫で上げた。


 



 うん、


 これで曖昧なままだった関係がより進展した気がする。


 身体はちょっと疲れるだろうけど、頑張ろうではないか。


 この母娘は、俺が守るから。


 

(微かに口角を吊り上げる環)




追記


海外旅行から無事に帰国できました。


コロナでより手続きが煩雑になりましたけど、読者様のお陰でなんとかなりました!


帰国便の飛行機で書いたのでちょっと疲れますね。






あ、もうすぐ真凜出てくるかも


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る