第66話 神崎家の母娘は何を望んでいるのか
環さんのクレジットカードで会計を済ませ、店を出た。環さんは二足歩行が出来ないほど酔い潰れており、そんな彼女をおぶって俺はタクシーを拾いに大通りに向かう。
「うへへへ……逞しい背中……いやされりゅ……」
俺の隣には環奈が申し訳無さそうに自分の母を見てはため息をついている。
「ごめんね。お母さんが迷惑かけてて」
「ううん。気にするな。環奈の母さんだろ?ならば仕方ない」
「……驚いたわ」
「ん?何が?」
「お母さんがこんなに無防備な姿を男に見せるなんて……」
と、環奈はちょっと驚いた様子を見せる。そういえば環さんが俺以外の人にどういう風に接するのか分からないな。なので俺は聞いてみることにした。
「環さんは普段どんな感じ?」
すると、環奈は冷静な面持ちで語り出す。
「お母さんはね、一言で言うと、とても怖い人なの」
「え?怖い?」
あまりにも意外すぎる環奈の言葉に、俺は無意識のうちに後ろで俺に身体を預けた環さんを見てみる。
「……」
喧騒の中ですやすやと寝息を立てる彼女が怖いなんて、とてもじゃないがそうは思えない。
「お父さんが病死してからは、一人でずっと私を支えてくれたの。だから他の男に対してずっと警戒して、新しいパパになりそうな彼氏も一人作らずに、ここまでやってきたんだ。私とお母さんだけの世界を守る為にね。もし邪魔してくる人が現れたらありとあらゆる手を使って徹底的に排除した」
「なるほど」
「そういうこと」
環さんに出会って初めて激しい夜を過ごした時は、遊んで無さそうな印象が強かったのが不思議だったけど、納得できた。まあ、薄々気付いてはいたけど。
「良いお母さん持ってるんだな。環奈は」
と、さりげなく俺が言ってみると、環奈は恥ずかしそうに視線を外し、ぼそっともらす。
「樹とエッチしてるところを除けばね……」
「っ!」
「これまで、お母さんと何回やってたの?」
「……そんなの聞いてどうする?」
「別に、どうもしないけど……」
気まずいな。
そう思いながら環さんの柔らかすぎる太ももをガッツリ掴んでいる俺の手により一層力を入れると、タクシーがいっぱい集まるゾーンに到着した。
X X X
神崎家
「ん……」
「ありがとうね、樹」
「ううん。環さん、大丈夫そうでよかったな」
「うん!」
俺が環さんをソファーに下ろすと、環奈が感謝の言葉を言ってくれた。
このまま長居するのもアレだし、もうそろそろおいとまする方が良かろう。
なので立っている俺が踵を返そうとした。
が、
「ん……樹」
「環さん?」
「今日はここに泊まって。明日休みでしょ?」
「そ、そうなんですけど、泊まるのはちょっと……」
「泊まって」
「……」
俺をからかうための口調ではなく至極真面目な声音で彼女の口から放たれた言葉。
俺が困り顔で後ろ髪をガシガシ引っ掻くと、環奈が口を開いた。
「いいの。家にお父さんの服、何着かあるから貸してあげる」
「いや、そこまでしなくても……」
「いくら酒が入っていても、お母さんが許可したんだもの。だから遠慮しないで」
「……じゃ、お言葉に甘えて」
俺が気まずそうに答えると、環奈は嬉しそうに優しく微笑んでくれた。
俺はコンビニに行って下着とかカミソリなどを購入した。
なかなか落ち着かない気持ちをなんとか落ち着かせる為に、コンビニのビニール袋を持ったまま夜の公園に寄ることにした。
すでに夜の帳が下りた真夜中。人の影は一つも見えない公園の真ん中に立ち尽くしてふと空を見上げた。
どうして、環さんは俺がここに泊まる事を許可したんだろう。
俺とエッチなことがしたいから?
いや、それは考えにくい。
さっきの彼女の言葉からはそういう欲求が感じ取れなかったし、環奈もそう言う事を期待する表情ではなかった。
「ん……分からない」
と、思い詰めていたが、
月は相変わらず明るかった。
ここで考えても埒があかない。
神崎家に戻ろうと。
俺は軽い足取りで移動した。
鍵は渡されたので、それで玄関扉を開けると、リビングに照明ついている。
なので俺が扉を開けると、寝巻き姿の二人が髪を乾かしていた。二人とも寝巻きはお揃いで、本当に姉妹っぽく見える。青い目と恵まれた身体。
俺はこの二人の味をよく知っている。
「あ、樹、おかえり」
「樹の寝巻きは脱衣室に置いてあるわよ」
「は、はい。ありがとうございます」
俺は環さんに軽く頭を下げると早速、風呂場に向かった。
二人がシャワーを浴びたこの浴室には実にいい香りが漂っていた。
シャンプーやコンディショナー、ボディーソープ。そして排水溝あたりには二人のものと思しき髪の毛が少々。
恐らく俺がシャワーをした後は、俺の髪の毛も混ざることだろう。
俺は邪念を払うように首を左右に振り風呂を始める。
身体の隅々まできちんと洗い終えると、俺は風呂場から出てリビングにまたやってきた。
環奈はスマホをいじり、環さんはテレビを見ている。環さんは酔いから覚めたようだ。早いな。
二人は風呂上がりの俺の存在に気がつき、視線を俺の方にやる。
少し上気した顔で、いい匂いを漂わせながら環さんが口を開いた。
「樹」
「はい」
「今日は、私たちと一緒に寝るわよ」
「はい?」
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