第63話 膨れっ面の環奈は何を思うのか

 俺が色んな工夫をして部屋の空気を入れ替える事に成功したら、環奈がやってきては「ご飯食べようと」言ってくれた。


 なので俺は環奈、花音と共に食卓を囲った。実に珍しい組み合わせである。


 味は一言で言うと最高に尽きる。俺の好みに合わせた味付けをした肉じゃががあまりにも美味しすぎたので、俺はご飯を3杯も行けた。


 そして花音は別の用事があるとして、俺の家から出て行こうとしている。


「夜道は危ないから心配だけど大丈夫?」

「はい!信頼のできるタクシー運転手さんを呼びましたので」

「そっか。また遊びに来てくれよな」

「師匠が望むなら、私はどこでも駆けつけます!」


 出来れば環奈と関係を持つ時は避けてくれと心の中で祈っていると、タクシー運転手が家の前にやってきた。


 環奈は何も言わないがニコニコ笑顔で花音に手を振った。


 別れの挨拶をしたら、花音を乗せたタクシーはゆっくりとしたスピードで消えてゆく。


 二人きりになった俺たち。


 俺は胸を撫で下ろして安堵のため息をつく反面、環奈は幸せそうに頬に両手を当てて悦に入っている。


「はあ……」

「環奈?どうしたんだ?」

「私もああいう妹欲しいな」


 頬を緩めて微笑んでいる俺の彼女。どんだけ欲しがってんだよ。だが、環奈の気持ちはある程度理解ができた。なぜなら


「本当そうだよな。しっかりしてるし、可愛いし、何より兄への想いが半端じゃない」

「あら、樹は妹から愛されたいの?」


 これまでずっと明るい表情だった環奈は急に目を細め、俺を睨んできた。


 な、なんだこの変わり様……


 恐らく怒ってはないと思うが、ここはスパイシーを投入すべきである。


「すでに環奈からいっぱい愛されてんのに、妹も加わると、俺は幸せすぎて死ぬ。だから、環奈がいい。環奈だけが」

「っ!!樹ったら……何言ってるのかしら!」


 と、俺は環奈から脇腹を突かれたが、堅すぎるので、彼女の手を弾き返した。


 うん……我ながら随分と恥ずかしい事を言ったしまった様だ。


 環奈はすでに俺から目を逸らしていている。顔が少し赤いので頬を突いてやりたいが、やると本気で怒りそう。


 なので俺は無難なセリフを言った。


「まあ、環さんに頑張ってもらえれば?めっちゃ美人だから絶対可愛い子生まれると思うよ」

「お母さん……ね」


 と、頤に手をやり思案顔で考える環奈を見ていると、俺は


「っ!!!!」


 つい考えてはならないことを考えてしまった。


 環奈もまた


「っ!!!!!」


 目を見開いて思いっきり驚いている。だが、やがてまた目を細めてギロリとギロチン並みに鋭い眼光を俺に送ってきた。


「ねえ、樹。赤ちゃんって一体誰と作るの?」

「そ、それはな……環さんが好きな相手とか……悪い。今の話はなしで!」

 

 切羽詰まった俺は環奈を直視出来ずに答えた。煮え切らない俺の態度が気に食わないらしい環奈は急に俺の腕を強く引っ張る。


「環奈!?」

部屋行こうか」


 彼女は威嚇された時のフグのように膨れっ面をしていた。

  

 部屋、片付けたばかりなのに、勘弁してくれよ。


 まあ、超絶可愛いからいいけどな。


X X X


学校の正門


明日


「ああ、眠い。だるい」


 昨日はエロ漫画のメインヒロインたる環奈の恐ろしさを身をもって思い知らされた。

 

 学校があるというのに、環奈は夜が開けるまで俺をくれなかった。


 俺が物憂げな表情をしていると、聞き慣れたうざい声が聞こえてくる。


「でさ、昨日一緒に遊んな隣校の女子たち、すっげスタイル良くてさ。あ、でも男子はパッとしないかな。なんできたんだって感じ。本当クソ以下のうんこだ」

「おい、翔太、クソとうんこは同じ意味だろ」

「どうでもいい。そんな」


 後ろから葉山とゴリラが仲睦まじく話している。俺は歩き方が遅いので、もうすぐ奴らに追い抜かれてしまいそうだ。


「本当、翔太は女からモテモテだな。それはそうと真凜ちゃんは、最近どんな感じ?」


 あのゴリラめ、わかりやすいな。


 仮にお前が真凜と付き合ったとしても、何もしてもらえずに金蔓にされるだけだよ。


 と、嘲笑っていると、奴らと偶然目があった。


「おい、近藤、なんだその顔は」

「ん?俺」


 止まった葉山からの問い詰めに俺も足を止めてシラっと答えると、彼は語気を強めてまた言う。


「クソ底辺野郎が!調子乗んなよ!」


 もうこの言い方にも慣れた。


 なので、俺はさっそく頭を下げてこの前の様な態度で貫く。


「ちょっと俺、寝不足だから、目つき、いつもと違うかもしれんよ。不愉快にさせたら謝る」

 

 と、俺が丁重に謝ると、また自分が勝ったと言わんばかりに俺を見下す視線を送り、挑発するようにゴリラに言う。


「あはは!こんなクソが合コンとかに参加すると、絶対雰囲気壊すんだよな」

「あははは!それわかる!」


 奴らは機嫌がよくなり早足で俺より先にクラスへと向かった。


 俺はそんな二人の背中を見て、


 ほくそ笑む。


X X X


真凜side


「今日も葉山さんめっちゃ可愛い!」

「昨日も他校のイケメンから告白されたってよ!」

「結果は見なくてもわかる。金持ってる大学生レベルじゃないと相手にもされないから」


 羨望、嫉妬の視線に晒されている真凜は、携帯と睨めっこをしながらクラスへ向かっている。


 真凜の携帯には


 樹の住んでいる家の住所が記されていた。



追記


海外旅行しております。


ちっこい携帯画面で書くのも悪くない。

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