第59話 環奈は最高、そして思わぬ人の訪問

「環さんは地方にいるんだったよな?」

「うん!仕事関係で」

「すごいな。いつも環奈のために頑張ってて」

「う、うん……」


 俺たち家族がいつも使っているソファーに座ってもらい、冷たいお茶を飲みながら俺たちは環さんのことについて話した。


 彼女はモジモジして、恥ずかしそうに俺をチラ見してくる。


 そう。

 

 今日、環奈の家には誰もいない。


 そして、最近は筋トレだの、環さんの鋭い監視だの、学校の友達だので、特に恋人らしいことは何も出来なかった。

 

 なので、俺が環奈を誘ったら、二つ返事だったわけだ。


『二日後に俺の父さんと母さん海外旅行行くから、ずっと一人だよ』

『そ、そう?』

『ああ、だから、もしよかったら、遊びに来てよ』

『あ、遊び!?』

『ああ。遊びだよ』

『ちちち……ちなみにどんな遊び?』


 環さんがジムでシャワーを浴びている間に交わされた会話は今でも鮮明に思い出すことができる。


 期待と不安が交差する表情で問うてきた環奈に俺は耳打ちした。


『知りたい?』

『っ!!』


 低いトーンの言葉が俺の口から発せられた途端に、彼女は急に上半身をのけぞらせ、身震いした。


 それから、色っぽい息を吐いて、潤った青い目で俺を捉えては話す。


『……恋人なのに遊びなの?そんなの……やだ』

『っ!!!!!!!!』


 揶揄うつもりで言ってみたが、あまりにも環奈の反応がピュアで可愛すぎたので、浅はかな策略でいっぱいだった俺の頭は一瞬にして真っ白になった。

 

 やば……


 正直こんな表情を向けられたことも初めてだったし、こんな俺の心を刺激するような言葉を言われたこともなかった。


 だから、俺は……


『そんなわけねえだろ……ちゃんと恋人として環奈と色んなことがしたいんだ』


 すると、環奈は前髪を指で掻き上げてからふいっと顔を逸らして返事した。


『樹は一人だけだとダメになりそうだから……私がいてあげる……』


 と言う彼女の頬は微かに赤みを帯びている。


 確かに昔の近藤樹なら一人になったら生命活動が不能になるくらい廃人になったことだろう。


 でも、今の俺は一人でもうまくやっていける。転生前の俺はずっと一人だったし。


 だが、俺はわざとらしく咳払いをして、答える。


『そうだな。環奈がいないと、ダメになるかも』

 

 これは、環奈に俺が合わせている面もある。が、それ以上に、

 

 




 本当に環奈がいないとダメになりそうだったから、ああ言ったのだと今は思う。


 そんな最高に可愛い俺の彼女は今、ソファでお茶を飲んでいる。結構大きいな二つのマシュマロは、ちょっとだけ動くだけでも揺れ動き俺を目を惹きつけており、細い腰と大きなお尻、そして短いスカートから伸びた生足。横の姿も本当に綺麗だ。


「樹……なんだか目がエッチ」

「あ、ああ……すまん……いや、俺は謝らないぞ!」

「はあ?どういう意味?」


 俺の言葉が理解できないのか、環奈が小首を傾げて、続きを視線で問うてきた。


 なので、俺はドヤ顔を浮かべ、力説し始める。


「彼女をエッチな目で見ることのどこが悪いんだ?」

「樹……」


 俺にジト目を向けてくる環奈だが、俺は気にせず、ほくそ笑んで続けた。


「いや?」

「……ずるいよ。わかるくせに……」

「ちゃんと言葉にしないとダメだよ」

「……」


 環奈は、口をもにゅらせ、唸り声をあげる。微かに漂う環奈独特のフェロモンの匂いが俺の鼻を優しく刺激してくる。


 これはもうちょっと攻めれば出来上がりかも。


 そう思った瞬間だった。

 

 環奈は俺に向き直って、自分の大きな胸に俺の頭を埋める。頭に回された環奈の柔らかい腕と、シャツ越しではあるが顔全体に伝わるふわふわとした感触とが相まって極上の気持ち良さを俺に与えた。


「っ!!」

「言ったでしょ?私が受け入れるって……他の女じゃなく私にだけ全部解放して」


 やっぱり、この子は、


 俺のことをよく知っている。


 こんなこと言われると、もう我慢なんかできるはずがない。


 俺は、筋肉まみれの自分の腕を使って環奈から離れてから言う。


「全部、ね」

「……」

「手加減なんかしないから……する余裕もない」

「……」


 彼女は無言のまま顔だけ上下に振った。


 なので、


 俺は

 

 彼女の深海より深い青色の瞳を見て、


 接吻



X X X


樹の部屋


2時間後


 行為は言うまでもなく激しさを極めた。エロ漫画のメインヒロインたらしめる彼女の身体の全てを思う存分貪り、ありったけの力を出し切って行為に及んだ。


 不思議だった。


 彼女と関係を持つときは、力が漲ってくる。だから、普段より数倍以上、行為は激しかった。


 だけど、


 彼女は


 嬉しそうな顔で俺の全部を受け入れてくれた。


 これがもし環さんだったら、早速壊れてえらいことになっているはずだが


 環奈は、


 最後まで、俺を幸せにしようと努力してくれた。


 身体の相性も抜群で、ここまでがあう女性は今まで見たことがない。


 お互い欠けたところを埋め合わせるように、細マッチョの鍛えられた俺と、エロ漫画のメインヒロインは






 お互いを貪り尽くした。




「環奈、大丈夫か?」

「……樹こそ、大丈夫?」


 と、行為が終わった俺たちはベッドの上で息を弾ませ、言った。


 思えば、環奈と関係を持ったのはこれで2回目だ。なのに、むしろ俺の身体を心配する環奈の態度に俺は若干戸惑っている。


「大丈夫……だよ」

「樹」

「ん?」

「ぎゅってしてあげる」

 

 と、裸の彼女は横で息を切らしている俺に向かって両手を伸ばしてきた。


「……」


 だけど、俺は彼女から目を逸らし、恥ずかしそうに言う。


「いいよ。そんなの……俺、ベット片付けるから」


 そう言って俺はいそいそとベットの上に散らばっている色んなものを片付けた。

 

 環奈は名残惜しそうにため息をついたが、


 


 口角は微かに吊り上がっている。


 やがてベッドが綺麗になると、俺は安堵のため息をついた。しかし、俺たちの匂いが混ざったこのフェロモンの匂いは数日経っても消えそうにない。それほど強烈だった。


「そういえばご飯まだだったな」

「そ、そうね……私、お腹空いたかも」

「なんか出前取ろうか。今日は俺が奢るから」

「ううん。折半よ」

「いや、俺が奢るから」

「半分」

「……」


 環奈のやつ、こういうときは頑ななんだから。


 と、俺たちが(いい意味の)言い合いをしていると、玄関のチャイムが鳴った。


「ん?宅配か。この間通販で運動器具買ったから多分それだ。行ってくる」

「うん。まってるから」


 と、裸姿の環奈を背に、俺はいそいそと着替えて玄関へと向かう。 


 時間的にもう夜だし、宅配業者さんもこのエリアでも配達業務が終われば、晩御飯を食べることだろう。


 そんなことを考えつつ、ドアを開けると、




「師匠……」



 目を光らせてドヤ顔を浮かべている花音が両手に野菜やら肉やらが入った袋を持った状態で、俺に羨望の眼差しを向けてきた。


 


「……」

 

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