第51話 隠れて撮る写真と危機

 俺たち4人がクラスに到着し、談話を交わしてから俺はトイレに行った。すると、そこには葉山が用を足していた。


 俺は少しやつから離れたところで済ませると、葉山は俺をチラッと見てわざとらしく舌打ちをした。


 タイミング的に葉山が先なので手を洗ってから彼はトイレを出る。


 すると、


「っ!」

「だめ!」


 外で誰かとぶつかったようだ。扉は開いた状態だから声や音は鮮明に聞こえる。


 どうやら葉山とぶつかったのは、男の子で、結構な量の紙みたいなものを落とした音がする。


「ご、ごめん……」

「くそ……」

 

 ぶつかった子は謝るが葉山は素気無くあしらってから歩き始めたようだ。手を洗った俺が外に出ると、大きなメガネをかけたちょっと根暗っぽいクラスメイトの男子が多くの写真を拾っていた。


 こいつは確か、西川だっけ?写真部に所属していることくらいしか知らんが、とりあえず助けよう。


 と、しゃがんで散らばった写真を一枚一枚集めると、西川が口を開いた。


「ありがとう……近藤くん」

「いいって」


 主に部活をやっている生徒や先生たちが写っている写真が大半で、どれも素晴らしいアングルだ。


 写真を見て感嘆していると、西川がまた口を開く。


「あのさ……」

「ん?」

「近藤くんは陽キャになったのに、その……優しいね」

「別に普通だろ?」

「……葉山くんみたいな感じじゃないから」

「……まあな」

「変わりすぎたから、もっとこう……僕みたいやつに対して威張ったりすると思ったけど、近藤くんは全然違うというか」

「?」

「ご、ごめん!変なこと言って……忘れてくれ」


 と、西川が散らばった写真を集めることも忘れてブンブン手を振った。そんな彼に対して俺は、ありし日に想いを馳せるように返答をする。


「ちょっと前までクラスの連中に迷惑かけまくったキモデブだったのに、ちょっとマシになったくらいでそんなことするかよ。威張るくらいなら、筋トレしといた方がよっぽど人生謳歌してる」


 言ってクスッと笑った俺を西川は興味深そうに見ては、嬉しそうに言葉を発する。


「そういう生き方、いいと思うよ。なんか羨ましいな」

「いや、俺は西川の方が羨ましいけど」

「なんで?」

「写真、めっちゃうまいだろ。これくらいの実力だと、金もらっても全然いけるとレベル思うよ。素人目線だけと。てかこの写真に写ってる人、表情すげーじゃん。シュート決めようとする瞬間をよく捉えたな」


 俺に褒められたのが恥ずかしかったのか、目を逸らして、嬉しそうに返事する。


「僕、ありのままの姿を撮るのが大好き。やらせだとこんな表情は撮れない。だからいつも

「盗撮!?」

「ううん。悪い目的で撮るわけじゃないから。先生たちも褒めてくれるし……」

「なるほど」


 写真を全部拾った俺は、西川にそれを渡した。


「ありがとう!」

「じゃな」

 

 手を振って俺は再びクラスに向かった。


X X X


 俺と環奈が付き合うようになっても、学校での俺たちに何か変化が現れたわけではない。


 むしろ周りにバレないようにいつもの自分を演じるまである。


 これが変化か……


 とまあ、こんな感じで授業を受けると、昼休みが始まり、学と啓介といつもの穴場でご飯を食べている。


「樹よ」

「ん?」

「俺は、一つ学んだ」


 さっきから何も喋らずに黙々とご飯を食べていた学が悟ったような顔でなんの脈絡もなく言った。なので、俺も学に合わせることにした。


「学びは大事なよな。んで、何を学んだ?」

「女は怖い!」

「え?」

「だって、あのマリリンが葉山の妹だぞ!外では猫かぶりまくって男を甘い言葉で垂らし込むけど、その中身はあのクッソ陽キャ集団と混ざって遊び呆けるクソビッチだったってわけさ!クッソクッソ!」

「クッソ多すぎだろ……」

「ちっと俺の心をときめかせたリアルの女の子だったけど、もう俺は無理。一生童貞でいいよ!ネネカちゃんオンリーで俺は幸せになれる!」

「……」

 

 学は息巻いて力説していたので、俺はドン引きしつつ、啓介の方に視線を送った。すると、彼は無言のまま深刻そうな表情で卵焼きの味を吟味していた。

 

 しょっぱいかな?


X X X

 

 放課後


 環奈は今日家の大掃除があるから、ジムには来ない。環さんからは一緒に運動しようというメッセージをもらったので、おそらく、二人きりで体を鍛えることになりそうだ。


 真凜からも連絡が来て、環奈と一緒にジムに行くのかみたいなニュアンスで聞かれたけど、今日は来ないというふうに返した。すると、たまにはメイド喫茶にも顔を出してくれよと言われ、渋々OKした。


 とりあえず、今日はジムで平穏な時間を過ごせそうだ。


「そんなわけあるか」


 俺は絶望に打ちひしがれながら環さんにどう接すらばいいか、それっぽい言い訳はあるのか、必死に頭を働かせて考える。

 

 あの人、勘が良すぎるからとてつもなく不安だ。


 でも、なんの理由もなしにまた休んだら絶対怪しまれる。


 複雑すぎる人間関係。


 俺がもし大人だったら、このしがらみから抜け出すことは簡単だが、今は絶賛青春満喫中だ。


 家族というしがらみ、学校というしがらみ。


 ある意味当然すぎると言っていいしがらみだが、俺にとっては何もかもが新しい。というのも、転生前の俺は違う学校生活を送っていたから。


 俺は深々とため息をついてから家に一旦帰って準備をしてからいつものジムへと向かった。ちなみに、母さんは家にいなかった。


 ジムの中に入ると、環さんがすでに運動をしている。


 男除けとしても環さんは俺を重宝しているので、環さんは俺をみるや否やタタタっと駆け寄ってその紫色のレギンスとハーフトップを身に纏った妖艶な姿を見せる。


 だけど、俺を見るエメラルド色の目はいつもと違う雰囲気を漂わせていた。


 簡単な挨拶を済まると、環さんまは俺を睨んで口を開いた。


「ちょっと樹に話したいことがあるの。運動終わったら、お茶でもしよう」

「……」


 超絶気まずそうに目を逸らしていたが、環さんは拳で俺の胸をちょっと強めにぶった。なので視線を元に戻すと、彼女はキリリと口をひき結んで、腕を組んでいた。おかげでただでさえ大きすぎる巨乳がさらに強調され、目のやり場に困る。


 いや、今回に限っては胸だけが原因ではない気がする。


X X X


 ジムからちょっと離れた高そうなカフェ


「環奈とやったわよね?」

「……」

「私が気づかないとでも思った?」


 学校卒業するまで秘密にしようと約束したのに、一日目でバレた。

 



追記



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