第46話 彼ら彼女らの会話は何を意味するのだろうか

X X X


喫茶店


 珍しい組み合わせの4人は駅から少し離れたカフェにやってきた。ここは普段高校生が通わないことから、噂話するにはもってこいの場所だ。


 各々注文を済ませてから、飲み物を持ってテーブルに座り、ひと心地ついたところで(立崎)由美が口を開いた。


「やっぱり三角関係ね」


 由美を見た(三上)有紗もふむと頷いて追随する。


「そうね。それ以外あり得ない!」


 すると、学と啓介も首肯した。


「樹のやつ、いつも間にもてやがって……」


 学が一瞬悔しそうに握り拳を作ったが、冗談で言ったことは3人とも把握済みだ。


「これは、あくまで私の個人的見解に過ぎないけれど、あの葉山くんの妹と樹って結構やばい関係じゃないかしら?環奈の反応もなんだか胡散臭いし」

「ああ!確かに思った!女の感ってやつ?」


 二人はうんうん言いながら学と啓介を見ている。


 啓介は思案顔でずっと何かを考えていて、学は眉間に皺を寄せながら話した。


「今日の樹のやつ、いつもと違ったよな。なんか切れ味が足りないっつうか」

「環奈もそうよ。だとしたら、事件が起きたのは最近のようね」

「そう……だな」

「細川さんってさっきあの女の子に対してマリリンって言ってなかったの?」

「ああ、あの子は俺と樹がよく通うメイドカフェで働くからな。葉山の妹と聞いてびっくりしたけど……」

「ふん〜だとしたら、樹はあの子が葉山の妹であることを知って親しくしている可能性もあるわよ」

「知っていたとしてもかなり最近だろうな。俺と樹はずっと前からマリリンのいるメイド喫茶に通い詰めていたんだ。今までの樹のマリリンへの態度や言動を考えると、やっぱりマリリンの正体を知ったのは割と最近だとみなした方が理に叶う」


 学年1位と学年2位の頭脳を駆使しての会話には鬼気迫るものがあって、有紗はギョッとしながら目を丸くした。


「なんだか二人ともすごい……」


 息をついて感想を言う有紗。


 すると、由美が申し訳なさそうに言う。


「ごめんなさい。二人でばかり喋ってて……」

「そうだな……俺と立崎さんばかり……え?俺、うまくしゃべれた!?」

 

 学が目を大きくして自分に驚く。


 それもそのはず。


 学は女の子とろくに喋ったことがない。この前、6人で食堂でご飯を食べた時だって緊張してあまり言葉が出てこなかった。

 

 なのに今の自分の喋りっぷりはまさしく立て板に水。


 不思議な気分を感じながら3人の顔を見ていると、今までずっと思案顔だった啓介がサムズアップしてくれた。


 有紗と由美は二人の反応が理解できないらしく小首を可愛く傾げた。学は誤魔化すためにまた口を開けようとしたが、啓介が塞いだ。


「あの子は危険」

「啓介?どういう意味?」

への恨みを晴らすため、その男の妹を誘惑、NTR」 


「「っ!」」


 口数少ない啓介から想像を絶するキーワードが出たことで3人は口を半開きにして驚いた様子を見せる。


「い、いや……啓介よ。いくらなんでもそれはちょっとな……」

「そ、そうよ!だとすると、近藤くんの方が危険じゃん!」

 

 学と有紗が手をブンブン振って抗議するが、啓介の表情は揺るがない。


「ううん……あの女の子の性格と考え方とやり方は破滅をもたらす。そして樹は危険じゃない」

 

 離れたところから聞いていたらめちゃくちゃな話だが、長い青い髪から覗くその鮮やかな瞳には嘘偽りなどが存在しないことは誰が見ても分かる。だから啓介の言葉は妙に説得力があった。


 彼の言葉に反応したのは、由美だった。


「ふん……もし、静川さんの言っていることが事実だとしたら細川さんはどう思うのかしら?」

「ん……難しい質問だな」

「言いたくなければ言わなくていいわよ。ごめんなさい。変なことを聞いて……」

「ううん。いいよ」


 頭を下げた由美を落ち着かせてから学は目を瞑って考えこむ。


 自分が今まで歩んできた人生を振り返ってみると、突然名状し難い感情が込み上げてきた。


 これを言ってもいいのかどうか少し悩んだが、彼は口にする。


「もし、啓介の言ってることが事実なら、樹のやっていることは確かに批判されるべきだけど、俺はものすごくスッキリすると思うんだ」

「「え?」」


 二人の女の子がちょっと意外そうに目を大きくして続きを促す。


「えっと、ちょっと恥ずかしい話だけど、俺って中学の頃、めっちゃいじめられてた。特に理由もないのに、葉山が樹にやっているようなことされてて……今でも、あいつらのことを思い出すと、本当にはらわたが煮え繰り返る気分で……」

「……そういう過去があったのね」


 悔しい顔で唇を噛み締める学を見て有紗と美由は悲しい表情を浮かべた。


「葉山ってやつは、ずっと樹にひどいことをしてきたんだ。先生たちも周りの人たちも見て見ぬフリをして……俺たちにもとばっちりがかかったりもしたんだ。まあ、要するに俺は近いところであいつを見てきたってこと」

「「……」」


 もちろん彼女らも翔太が樹に何をしたのかよく知っている。


「目には目って言葉があるだろ?やられたらやり返す。俺は中学時代には勇気も力もなかったからやられっぱなしでずっと泣き寝入りしてたんだ。樹が犯罪に手を染めるようなことをするならば極力止めるけど、やり返す分なら別にいいんじゃないかな?って、なんか俺クズになった気分だわ。ごめん。忘れてくれ」


 と、学がニマッと笑っていると、向かい側の由美が感極まって口を開く。


「やっと、パパの話が理解できたわ」

「パパ?」

「ええ。言葉と行動一つが他人に与える影響は絶大だから、家族と友達を守りたいなら誰に対しても優しくしなさいって。パパは弁護士だから難しい事しか言ってなくて、ずっと聞き流したけれど、細川さんの話を聞いて納得したわ。ありがとう。スッキリした」

「い、いいや……こっちこそ、暗い話だったのに、聞いてくれて……」

「こんな話ができるなんて、細川さんは勇気ある人だと思うわ。ふふ」

「……俺が勇気ある奴なら、それは樹のおかげかな」

「えっと……さっき細川さんが一位取りたいって話した時、その……ひどいこと言ってごめんなさい」

「いいって!いいって!気にすんな!」


 二人が仲睦まじく話していると、有紗が突然二人にジト目を向けてきた。


「あのさ、二人の話って、静川くんの話が事実だということ前提で成り立ってるじゃん!静川くん、なんか証拠とかあるの?あ、もしかして、私たちに隠れて近藤くんとを交わしたりして……」

「有紗、よだれ、だらしないわよ」

「ん……ジュル……ごめん!」


 と、有紗が唾液をティッシュで拭くと、視線を啓介の方にやる。彼は恥ずかしそうに身を捩り、話した。


「小説だと、このような話って結構あるから……」



「「……」」





追記



次回か次次回あたりで樹と環奈復活するかも!?

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