第47話 環奈の懺悔
樹に関する話が終わった後も4人は色んな話をしながら和んだ。
意外と馬が合う彼ら彼女らはまた4人で集まることにして解散した。
X X X
樹side
環奈と無言のままひたすら駅まで歩んだ。俺の腕を掴んだ環奈の手は離れずにいる。
駅に着いた頃、俺は環奈からやっと解放された。
「樹」
「ああ」
「今日はジムで色々教えてもらうからね」
「おう!環奈の体が元気になれるようなフォームいっぱい教えてあげるよ」
と、俺はいつもの口調で答える。
ずっと動揺するわけにもいかない。
俺は俺だ。
環奈は納得顔でうんうんして手を振った。俺もまた手を振って、反対側の改札を通る。
X X X
夜
ジム
家に鞄を置いて、お母さんが作ってくれた早めの夕飯を食べてからジムに行ったら、薄いピンク色のレギンスにスポーツ用短パンを履いて、ハーフトップにスポーツカーディガンを羽織った環奈がジムの入り口の前で俺を待っていた。
遠いところから見たら本当に美人でスタイルもいい。体を鍛えて大人になればきっと環さんのような大人になるのだろう。
だが、美味しい花に虫が群がるように、環奈の美貌に見惚れた脳筋野郎が近づいた。彼女は迷惑そうにその男を適当にあしらって周辺を見渡す。すると、俺と目があって、環奈は隣の男を鼻で笑って俺の方に近づいてきた。
「樹!」
「環奈……結構早いな」
アインでやりとりしながら決めた待ち合わせ時間まで20分くらいあるが、環奈は俺よりもっと早く来て待っていたということだ。
「ううん。私も来たばかだよ」
「そうか」
「中入ろうね」
「ああ」
気のせいかもしれんが、環奈の顔は普段より大人びている。
俺は環奈に一生懸命体の鍛え方を教えた。転生前の俺を彷彿とさせるほど、彼女の太ももと腹筋を限界ギリギリまでやってあげた。
それからは俺も邪念を取っ払って絶賛筋トレ。
不思議なのは、時間が経つに連れて環奈が俺に向けてくる視線だ。
俺はなるべく気にしないようにして運動に集中したが、目が合うたびに彼女は初めて見た時の環さん顔をしていた。
運動を終え、シャワーを浴びてから俺はジムの入り口で環奈を待っている。環奈に限った話ではなく、女性には色々あるから、この時間を楽しもう。
と、しばしぼーっとしていると、私服姿の環奈がやってきた。普通のTシャツに短パンだが、色気が感じられる。
俺は気になることを口にした。
「環さん来なかったな」
「うん。お母さん、今日は仕事で忙しいから」
「なるほど」
俺たちは自然な流れで歩き始める。
「あのさ、樹」
「ん?」
「ちょっと、寄り道しない?」
というわけで、俺たちは駅の方ではなく、商店街を経て、住宅街近辺を歩いている。
すっかり暗くなった道を照らすのは月光と街路灯だけ。残業から解放されたサラリーマンらしき男性たちがちらほらいるだけでここは静かだ。
時々俺の鍛えられた腕と環奈の細い腕がぶつかったりするが、俺は正面を見て歩く。すると、近くに小さな公園が見えてきた。
俺たちは図ったように目で合図して子供の遊び場の横に設けられたベンチに向かって腰掛ける。
周りには体を動かすお年寄り、塾帰りの高校生らが数人いるが、基本閑散としている。
「んで、どうした?」
俺は探りを入れるように聞いてみる。
すると、彼女はもどかしそうに形の良い生足をしきりに動かして色っぽく息をついてから、真面目な顔で口を開いた。
「私はね。自分がまだ子供だなって思う」
「子供?」
「ずっと、翔太と一緒だったから、他の男子と真面目に話したこともあまりなくて……」
「……」
あいつの話か。
俺は視線を月のところにやって短いため息をついた。
「でも私、翔太にすごく怒っているの。ううん。もう諦めた」
「諦める?」
「もし、あの子が私の幼馴染じゃなかったら、私はもっとマシな人生を送っていたんじゃないかなって思うの」
「マシな人生ね……」
「自分の心を異性に伝えられて、私を守ってくれそうな彼氏を作って……恋をして……充実した毎日を送りたかった」
「まあ、それが普通だよな」
俺がこともなげに言うと、環奈は急に声を震わせて続ける。
「でも……私はその普通を全然味わえなかったわ……翔太の話を鵜呑みにして、私はずっと心の扉を閉じていたの……」
「環奈?」
「だから、樹がイケメンになって、私を守ってくれて、私と……キスした時も、気持ちを伝えることができなかったの……きっと樹なら大丈夫だと、いつか良い日が来ると、そう自分に催眠をかけて、ただ待っていたの」
「……」
「だから、こうなったのは、全部私が悪い。私が未熟だから……子供だから……樹みたいな男、他の女がほっとくわけがないことくらいは知っていたのに……私、樹の昔の姿を思い浮かべて、ちょっと甘えていたのかもしれない……昔の自分を呪いたい気分よ……」
彼女の青い瞳の周りには既に充血しており、俺を切なく見つめる環奈に俺は本音を言う。
「いや、環奈は何も悪くない!」
でも、環奈は問題の本質に迫る言葉を俺に投げかけた。
「ううん。私が悪いの……だって、樹と真凜、エッチしたでしょ?」
「……」
やっぱり知っていたのか。
いくら大人の余裕というスキルを持ってしても、悲しむ環奈の前で誤魔化すことはできない。
目を逸らした俺。だが、環奈は俺の手を自分の巨大なマシュマロに埋める。極上の触り心地だが、伝わる感覚は俺の心を苦しめた。
「っ!環奈!?」
「一つだけ教えて……」
「なんだ……」
「本当に、真凜のことが好き?」
「……」
シャワー上がりの彼女から発せられるいい匂いはそよ風によって運ばれ、俺の鼻をくすぐる。そして公園のLED照明に照らされた彼女の顔は薄暗い風景と相まって実に儚くも美しい。
シャツと短パン。地味な服装だが、それらを身に纏っている彼女は綺麗だ。まとわりつく視線と、俺の姿を写している鮮明な青い瞳からは逃れることなんかできない。
なので、俺はまた、自分の本音を言ってあげることにした。
追記
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