第45話 嵐がやってきた

 放課後

 

 学校が終わり、俺はいつもの二人(学、啓介)と正門に向かって歩いている。


「今日の授業だるかったな〜」

「学年2位様の余裕かよ」


 あくびをして気だるげに言う学に俺がツッコミを入れてみる。


「一位取りたいけど、立崎さんマジで強いから……」

「身近に学年1位と2位がいるなんて、すごいな。俺の知り合い」

「その割には樹、全然勉強できてないけど」


 学がひひひっと笑って俺を揶揄う。


「まあ、そうだよな」

「え?樹?」


 学が驚いたように目を丸くし俺を見つめてきた。


 無言のまま進んでいると、後ろから誰かが声をかけてきた。


「近藤さん」

「ん?」

 

 後ろを振り向いたら、立崎が俺の肩を突いていた。立崎のさらに後ろには環奈と三上が並んで歩いている。


「駅まで一緒だから、一緒に行きましょうか」

「あ、ああ。いいよ」


 と、いうわけで、俺たち6人は一緒に歩く。

 

 位置は啓介、学、俺、環奈、三上、立崎。

 

 俺のすぐ隣を歩いている環奈をチラチラ見つつ、重い息を吐きながら歩いていた。


 まあ、一緒にご飯を食べた仲だから(葉山のせいで台無しになったけど)、並んで駅まで行っても問題ではなかろう。


 俺は無難な話題を切り出した。


「立崎」

「ん?」

「学のやつ、1位狙っているってよ。もうすぐ中間テストだろ?」


 俺が探りを入れるように立崎にいうと、彼女は学の方へ視線を送った。


「ま、まあ……立崎さん強いし、勝てるとは思えないけどな」


 学は後ろ髪をガシガシしながら返事をした。


 すると、立崎は試すような口調で話す。


「ふん〜細川くんが私を蹴落として一位になろうとするのね」

「……」

「面白そう……やってみなさい」


 急にドSの女王様みたいに手を口の端に添えては、学を睨め付けてくる立崎。


 い、いや……俺が望んだのはこういう流れではないんだけどな……


 今日は本当に色々ついてない日だ。


 と、心の中で自分を戒めてから、学をそっと見てみた。


 彼は、急に頭を下げて顔を赤らめた。


 やっぱり学のやつ、立崎に挑発されて落ち込んでるな。学はネネカちゃん以外の女の子を知らない。ネネカちゃん自体もデータの塊ではあるが。


 これ言うと、学に殴られちゃうよな。


「わ、悪い……なんか余計な競争促しちまって」


 俺が申し訳なさそうに言うと、学が俺にフォローを入れてきた。


「ううん。樹……なんかありがとう」

「いやなんで俺、お前に感謝されてるんだ!?」


 もう何がなんだかわけわかめだぜ。


 今日は本当に調子狂うから、ジムで筋トレしながら心の落ち着きを取り戻そう。


 と、思いながら歩いていると、正門の前に誰かが立っていた。


「なんなのあの子?めっちゃ俺のタイプだけど」

「隣校だろ?なんか彼氏でも待ってるんじゃないの?」

「すっげ可愛い……」


 と、女の子の一部に嫉妬の視線を向けられ、殆どの男たちに下心ありありの視線を向けられるあの子は、


 俺たちを見るなり


 猛ダッシュで走ってきた。


「樹っち!!!!!」

「っ!!!!!!」

 

 ま、真凜!?

 

 多くの男子と女子が歩いている学校近くに、金髪の美少女がやってきては、俺の腕に抱きつく。


「「っ!」」


 俺を除く5人は目を丸くして、数歩後ずさる。ことに環奈の顔が圧巻だった。彼女は口をポカンと開けたまま呆気に取られている。


「ま、真凜!何やってる!?」

「今日学校早く終わったから、バイド行く前ちょっと時間あるんだよね〜だから樹っちの顔が見たくて、きちゃった!あ、学っちもいるじゃん!」


 と、真凜は自分の豊満な胸に俺の腕を埋めて擦りながら学を見て挨拶した。


「まさか……マリリン!?」


 学は当惑した声音でメイドカフェにおける彼女の名を口にした。


「環奈、ちょっと樹っちと距離近くない?」


 マリンは空かさず、環奈に敵意を向け、警戒するように睨んでくる。


「真凜……」


 と言った環奈は目力を込めて、真凜を睨み返してきた。


「ね、ねえ……誰なの?」


 三上が小声で言って環奈の脇腹を突いた。


「翔太……の妹」


「「えええええ!?!?」」


 彼女の返事に学と三上と立崎が驚いたように大声を出した。啓介は、ほぼ無表情で図々しいほど堂々と振る舞う真凜を観察するように見ている。


「ふふっ、葉山真凜で〜す。てなわけで、ちょっと樹っちを借りますので、悪しからず」

「お、おい……真凜」

「今日、めっちゃ美味しいデザート屋のクーポンゲットしたけど、一緒に行こう」

 

 いまだに俺の腕は真凜のマシュマロの極上の触り心地を堪能している。引っ張られながら、後ろを見ていると、


 環奈が





 悲しんでいた。


 

 なんとかしないとって思っても、頭が真っ白だった。


 すると、



「樹くん!」


 啓介が俺の呼んだ。


 とても鮮やかな彼の声に釣られる形で、制服姿のマリンは足を止め、後ろを振り向いた。


「樹くんは、が、学校終わってすぐジムに行っくよね……?」


 ぎこちない話し方だが、彼は何かを強く訴えているようであった。


「ああ。俺、今日はジム行くよ」

「だ、だから……女の子と……遊ぶ時間……ないよね?」

「そ、そうだな。悪い、真凜。俺、ジムいかないといけないから」


 啓介の声は小さいが、この場にいる全員の耳にちゃんと届いたようだ。


「はあ?何それ!?」


 明らかに俺と真凜を引っぺがそうとする啓介の態度が気に入らないのか、彼女は目を細めて啓介を睥睨した。


 一個下ではあるが、葉山の妹だ。


 おそらく大学生だとしても、彼女と対等な立場で会話ができる人間はそういないだろう。


 啓介は身震いしながら、動揺している。


 症状が良くなりつつあるとはいえ、敵意を向けられるのは彼にとって相当なプレッシャになりかねない。 


 だから、俺はこの場を収拾するため、口を開こうとするが、


 啓介は、ビビりながらも、長い前髪に隠れたその鮮やかな青い目で真凜を見つめていた。


「静川くんの言う通りだわ」

 

 戸惑っている俺の耳に届いたのは環奈の声だった。


 環奈は自信満々に俺と真凜のいるところに歩いてきて、真凜のマシュマロに埋まっている俺の腕を取り上げ、自分の手で掴んだ。


「樹は、にジムで運動をしないといけないの。だから邪魔しないでもらえる?樹が迷惑しちゃうじゃない」


 彼女の声には重みがあった。不思議なのはそこに悪意や軽蔑の要素はなく、落ち着いた一人の大人の女性を彷彿とさせる雰囲気が漂っているところだろうか。


 その謎のオーラに真凜も当てられ、口を半開きにしつつ、歩き去る俺と環奈を見つめるだけだった。


 啓介たちのside


 二人がいなくなると、真凜がずっと開いていた口を噤んで、また啓介を睨んできた。

 

 彼は学の後ろに隠れて怯えている。


 すると、ちょうど後ろから葉山からなる集団がやってきた。


 ご機嫌ななめだった真凜は急に明るい顔になり、彼ら彼女らに接近する。


「あ!兄貴!」

「真凜!?なんでお前が!?」

「ちょっと暇だから遊びにきちゃった!」

「お前な……」


 翔太がげんなりしていると、ゴリラっぽい男の子がにやけながら口を開いた。


「真凜ちゃん!これから一緒にカラオケ行くけど、ついてくるか?」

「あ!行く行く!でも、バイトあるから長くは付き合えないよ」

「いいぜ!全然!全っ然大丈夫だから!」


 と言って真凜をいやらしい目で見るゴリラ。そんな彼の背中を思いっきり叩く野球部の真斗。


 一緒にいるギャルたちも彼女を歓迎する雰囲気である。

 

 真凜は葉山集団に吸収されるようにして去っていった。


 残るは学、啓介、三上、立崎。


 嵐が去ったように疲弊し切った4人はお互いを見て微苦笑を浮かべる。


 うち、腐女子と疑われる三上が興味深そうに目を細めて口を開いた。


「ねえ、4人で話がしたい。このままバイバイはちょっとね……」


 彼女の言葉を聞いた三上は明るく頷いた。


 女子二人は学と啓介を見る。


 放課後、女の子に誘われたのは初めてだ。


 嫌な感じはしなかった。


 でも、嬉しいかというと、それは違う。


 別に女の子だから緊張するわけでもない。


 不思議な気分を味わっている二人は


 彼女らを見て、


 頷いた。


 


追記


 この4人の組み合わせも悪くないかも

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る