第42話 葛藤は葛藤を産む
この道を歩くのは今回で二回目だ。今回も葉山の登場により逃げるようにしてあの家から抜け出したわけだが、俺は高揚感に浸っている。
人間は達成感を得た時、ドーパミンというホルモンが分泌され快感を覚えると言われている。
化学反応による作用。
つまり、有限。
行為の後は賢者モードに入るように、この感情も時間が過ぎれば、虚しいものと化す。
今が丁度そのタイミングだ。
転生した俺は、まともな人生を歩むために学と啓介とダイエットと筋トレをして、マシになった。
しかし、俺を取り巻く環境は少し変化を見せても、根本的な問題はまだ解決に至っていない。
葉山の件もそうだし、女性への対応もそうだ。
もし、俺がキモデブのままだったら、葉山は俺をもっといじめたのだろう。幼馴染の手に少し触れただけであれだけ怒り狂うやつだ。
そして女の子らも俺に近づきすらしなかっただろう。
だが、俺の外見は変わった。
健全な学校生活を送るはずだった。
けど、その度に事案が発生した。
環さんといい、環奈といい、真凜といい、俺の心を惑わす視線を向けてくる女性たち。
だから、俺はいつものように関係を持ってしまった。
また心が痛い。
環さんと初めて関係を持った後に感じた虚しさを遥かに凌駕する感情が俺を苦しめてきた。
それでいいのか
それでいいのかそれでいいのかそれでいいのかそれでいいのかそれでいいのかそれでいいのかそれでいいのかそれでいいのかそれでいいのかそれでいいのかそれでいいのかそれでいいのかそれでいいのかそれでいいのかそれでいいのかそれでいいのか
「っ!」
俺の友達である学と啓介、俺のためにいつも頑張ってくれる父さん母さん、いつも俺をねじ伏せようとする環さん、三上、立崎。
そして、一緒にいると心が温かくなる環奈、
俺は彼ら、彼女らにどう接すればいいのだろうか。
そもそも、なんで俺はこんに悩んでいるのだろうか。
解を探そうとするが、本質に迫る質問を投げかけた人が既にいる事に気がついた。
静川啓介の言葉である。
『その……本当にマシな人生を送るためだけに僕達を誘ったの?』
俺は、あえて転生前のあの記憶を思い出さないように息を深く吸って吐いてから歩調を早める。
『お前は死んだ方がマシだ。この役立たずが!地球のために消えてしまえ!あははははははは!!!』
「……」
転生前の俺でも、キモデブでも、変わった俺でも、問題は山積みだ。
X X X
真凜side
樹が帰った後、二人は何も言わないままリビングで立って向かい合っている。やがて、居た堪れなくなった翔太が眉根を顰めて言う。
「言っとくけど、あいつはろくな奴じゃないから、あんま関わらない方がいい」
「ん?なんで?樹っちってマジでいい人なんだけど」
「あいつ絶対調子に乗ってお前に迷惑かけてくるからな。もし、何かされたら絶対俺に言えよ。お灸を据えてやるから」
「そんな事しないと思うけど。だって、いいことしかしてくれないんだもん」
樹を擁護するような発言しかしない自分の妹を見て、彼は顔を引き攣らせる。
「とにかく!あいつはダメだ!俺の話を聞いた方がいい!お前は、あいつのことあまり知らないだろ!」
語気を強める翔太の焦る姿を目の当たりにした真凜は、目を細めて、小さく鼻で笑う。
「へえ、もしかして、樹っちに劣等感抱いてるとか?」
「そ、そんなわけねえだろ!!あんなキモデブなんかになんで俺が!!」
「まあ、確かに昔の樹っちは典型的な高度肥満のアニオタだったけど、今は全然違うじゃん。兄貴より背も高いし、イケメンだし、優しいし、あと……力持ちなんだから」
「……この!言わせておけば!」
妖艶な表情で言葉を発した真凜が気に食わない翔太は、急に自分の妹の胸ぐらを掴んだ。
突然のことで全然対処できてない真凜は、奇声をあげた。そして、翔太を軽蔑する視線を向けて口を開く。
「っ!兄貴……何やってるの?」
「……こ、これは」
「もしかして、私に暴力振るおうとしてたの?」
「い、いや……違う!違うから!」
「何が違うの?今、私の胸ぐら掴んでるじゃん!早く離して!」
剣幕で捲し立てる真凜に気圧されて、翔太は早速手を離してくれた。
真凜は苦しそうに咳払いを数回してから、言う。
「本当、最悪。その調子じゃどうせ今日の合コンも台無しだったでしょ?すぐキレるような男を好きになる女の子なんかいるわけないっつーの。キモい」
と、毒を吐くように言葉を吐いた真凜は、ぎこちない歩き方で自分の部屋へと歩き出す。
「くそ……全部あいつが悪いんだ。キモデブの分際で……」
小声で呟く翔太は、握り拳を作る。
部屋に着いた真凜は、外から入れないようにロックをかけて部屋中に散らばったものたちを片付け始める。
そして、激しい行為があったベッドに横になって思索に耽った。
兄と樹
どうしてこんなにも違うんだろう。
これまで多くの男子と付き合ってきた。
真凜は学校で知らない人がいないほどの美少女だ。だから、それなりのイケメンたちが彼女に近づいて、告白してきた。
だけど、その多くは、兄と似たような性格の持ち主で、子供っぽいところがあり、正直食傷気味だった。
そんな中で出会ったのが、変わった樹だった。
彼は自分がイケメンだということを鼻にかけない謙遜な性格の持ち主だ。男子高校生独特の突っ張るところもない。
だけど、その優しさに隠された獣のような男らしさを直接肌で感じた時は、普段とのギャップで彼女はなすすべもなかった。
もちろん、計画はあった。
樹を誘惑し環奈を突き放して彼と自分が結ばれること。
だけど、目的は達成されずに終わった。
自分の浅はかな策略など、樹はなんの躊躇いもなく逞しい身体で全部押しつぶしてしまったのだ。
今まで男は自分の意のままに動く駒のような存在だと思っていたが、
今回は自分が駒にされた。
さっきも言ったように自分は彼を誘惑した。
だが、彼に完全に支配されたという結果だけが残っている。
彼が織りなす未知の世界に足を踏み入れた瞬間、頭が真っ白になってしまった。
行為だけじゃない。
自分の兄が家にきた時も怯む様子など見せず、堂々と立ち向かった。兄は樹にまんまとしてやられた。
真凜は横になったまま自分が成長した証である赤いシミを見ながら決意する。
樹は絶対渡さないと。
彼とは既に関係を持ってしまった。
つまり、状況的には自分の方が環奈より上を行っている。
自分の心をここまで満たしてくれる男はこれまで見たことがない。
だからこそ、環奈は排除しないといけない人物ランキング一位とも言えよう。
真凜は環奈のことを女として結構認めている。
サラサラした黒髪、小さな顔、整った目鼻立ち。そして、自分より大きな胸。
だが、少なくとも外見なら自分だって負けていない。
真凜を不安にさせるのは別にあった。
優しい心。
こればかりは、いくら頑張っても、真似できない。
だから、真凜は自分のやり方を貫き通すことにした。
『何もしないときっと後悔するからね。私も、あの人に彼女とか、好意を抱いている女の子がいても、アタックしまくって堕とすつもりよ』
『……そんなものなの?』
『そんなもんよ。結婚した相手とならアウトだけど、同じ学校に通う男子でしょ?』
『うん……』
『だったら、我慢する必要ないじゃん』
いつかの日に自分と環奈がパフェ屋さんで会話した内容が脳裏を過った。
真凜は横にある携帯を弄って誰かに電話をかける。
相手はすぐに出てくれた。
『真凜……』
「環奈ちゃん」
『どうして電話を?』
「私、樹っちとエッチしたの」
『っ!なに?』
「処女、卒業したよ。だから、邪魔しないで」
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