第40話 悪い子

X X X


葉山家

 

 はやる気持ちをなんとか抑えて彼女とやつが住む家にやってきた。


 ベルを鳴らすと、図ったように「はい〜」という間抜けた声が聞こえたのち、玄関扉が開く。


「樹っち!は〜い」


 少し濡れた金髪を靡かせエメラルド色の瞳の奥には、俺の姿が映っている。白いブラトップと短い黒色のパンツ。


 全体的に露出は多めで、健康美溢れる薄い小麦色の肌が印象的だ。


 美脚には光沢があり、太ももは結構鍛えられている。そして吸い付くようなお腹の肌はブラトップの生地越しでもよくわかるほどのインパクトがある。細い腰とそれに見合わない巨乳。俺はあのマシュマロの感覚をよく知っている。


 環奈よりサイズは小さいが、高校生にしては実に素晴らしいものを持っていると思う。


 この様子だと風呂上がりのようだ。俺ももちろん、家を出る前にシャワーを浴びた。


 彼女の身体を視界に収めていると、真凜が微かに口角を吊り上げて口を開いた。


「入って」

「ああ。お邪魔するよ」


X X X


真凜の部屋


 葉山の服を渡した俺は真凜の部屋に案内され、デリバリーの人が来るまで他愛もないは話をした。


 食べ物が届くと、俺たちはキッチンのテーブルへと向かう。


 そして食事タイム。


「んでさでさ、樹っちと学っちが変わりすぎて、二人が帰った後も他のメイドたちめっちゃ驚いてて!本当受ける!」

「そんなにかよ」

「本当!本当!んで、最近樹っちたちあんまこないからずっと気にしてるって感じ?」

「それは悪いな。ジムとか色々あるから」

「わかってるって♫」



 真凜のおかげでピザと飲み物をただ同然の値段で買うことができた。なので制服姿の俺と部屋着姿の真凜は雑談しながらピザを食べている。


「それにしても驚いたよ。まさか、環奈ちゃんと同じクラスだったなんて」


 あの口ぶりだと環奈とある程度情報交換はしているっぽい。


「俺も真凜が葉山の妹だと知って、驚いた」

「兄貴と環奈と樹っちが同じクラスだなんて、めっちゃ運命じゃん!」

「そうだな。運命だわ」

「兄貴とは仲いいの?」

 

 と俺に質問して、炭酸が入っている紙コップに口をつける真凜。


 俺は天井を見上げて少し考えてから口を開いた。


「いや、そんなこと全然ないよ」

「ふん……やっぱりね」

「ん?」


 含みのある表情で納得する真凜に俺は視線で続きを促した。


「兄貴と樹っちが仲良くしてる姿って想像つかないもん」

「そう?」

「もち!だって、兄貴って子供っぽいから」

「ふっ」

「なんなの?反応は?」

 

 俺が葉山の言動を思い出して思わずクスッと笑ったのが気になったのか、真凜はテーブルに手をついて前のめり気味に俺を見つめてくる。お陰様で胸のところが丸見えになってしまった。


 ブラに包まれる巨大な脂肪の塊に一瞬目がいったが、俺は再び彼女の顔を見て返事する。


「なんでもないよ」

「なんでもなくないっしょ?きっと兄貴、他校の女の子と合コンするって聞こえよがしに自慢しまくったんでしょ?」

「ぷふっ!」

「あら、図星?」


 環奈はほくそ笑んで、俺の胸を人差し指で突きながら面白がっている。俺は無意識のうちに胸に力を入れて硬くさせた。彼女の細い指の感覚。それを味わうたびに、この前の出来事が蘇る。


 そして、目の前の彼女は


 色気のある表情で頬を紅潮させ、口角を吊り上げている。


 やがて彼女は手を止め、口を開いた。


「だから、兄貴には環奈ちゃんが必要かもしれないね」

「っ!」


 俺は目をはたと見開いて、真凜を見つめる。


 真凜の言葉を聞いただけなのに、頭を鈍器で殴られたような衝撃が感じられた。


「ああ、お腹いっぱい!!樹っちはどうする?全部食べてもいいよ」

「い、いいや。俺ももういい。ご馳走様」

「んじゃ、一緒に手洗いに行こっか」

「あ、ああ」


 真凜に誘われ、俺は立ち上がり、洗面台へといく。そして二人して仲良く手を洗ってから、リビングへとつながるドアを通る。


 このまま後片付けをしてから二階にある真凜の部屋へ戻る流れになると思うが、彼女は突然止まった。


 そして、ターンと踵を返し、俺を見つめてきた。


「ねえ、樹っち」

「なんだ?」

「環奈ちゃんのことだけど」

「……」

「兄貴は、ずっと環奈ちゃんを狙っているの」

「……」


 それは知っている。最近は環奈にあまり絡む様子はないが、エロ漫画での彼は虎視眈々と環奈の身体を貪ろうと躍起になっていたのだ。もちろん彼と環奈が結ばれることはなく、ずっとデブの近藤樹に催眠をかけられ、身も心も堕ちてしまう結末で終わるんだが。


 俺がストーリー通りに行動をすれば、なんの問題ない。だが、俺はあんな犯罪に手を染めるようなやつじゃないから、催眠アプリを使わずに封印。その結果全く予測不可能な展開が広がりつつある。


 今回もそうだ。


 俺は一体なんの選択をすればいいのだろう。


 思い悩んでいると、真凜が透き通ったエメラルド色の目で俺を捉え、また口を開く。


「兄貴って結構執念深いかんね。だから環奈ちゃんと関われば関わるほど、樹っち面倒ごとに巻き込まれちゃうと思うよ」 

 

 いや、お前と関わっても面倒ごとに巻き込まれると思うんだが。葉山の妹め。


 だが、俺に抱える事情なんか知るはずもない真凜は、俺を試すような表情で続ける。


「だから、私と付き合ってよ」

「え?」

「その方が、お互いにとってウィンウィンでしょ?環奈ちゃんは


 この子は、俺に提案してきた。取引を持ちかけたのだ。視線は獲物を狙う蛇のように鋭く、何かを奪わないと気が済まないと言いそうな暴君のようだ。


「真凜は何を得る?」


 と、俺が問うと、彼女は蕩けきった面持ちで、口を開いた。


「樹っち……めっちゃ私のタイプだから、経験できるんだよね」

「っ!!」


 油断した。


 真凜は女子高生だが、エロ漫画のヒロインだ。


 その迫力たるや、転生前の女たちとは比べ物にならない。


 手が震えてきた。いや、手だけじゃない。全身が震えている。


 転生してまもない頃の俺なら、きっとこの甘い坩堝にハマったことだろう。


 だが、今は違う。


 彼女は一つ看過していることがある。


 家族、友達、環奈の友達との絆。


 そして環奈が俺にくれた気持ち。

 

 それらは、真凜の言葉によって否定されるべきものではなく、育んでいかないといけない尊いものだ。


 だから、真凜には……


 俺は、まだ試すような視線を送り続ける真凜に真顔で迫った。

 

 彼女は戸惑ったように後ずさるが、やがて壁と背中が密勅する。


 俺は逃すまいと、左膝を彼女の股間に当てた。そして、真凜の頭を押さえて、その艶のある口の中に、











 俺の舌を躊躇なく入れてやった。


 キスを終えた俺は、彼女の耳に俺の生声を流し込んであげた。


「真凜は学習能力がないね。悪い子にはしちゃうって言ったろ?」


「っ!!!!!!!!!!!!!」


 そして、俺は彼女を持ち上げた。

 

 彼女は息を弾ませるだけで、なんの抵抗もしないまま、俺に自分の身体を預ける。


 俺を邪魔するものは存在しない。


 俺は彼女の部屋に向かって歩き出した。




追記



次回は内容的にターニングポイントになると思います。










 




 


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