第39話 笑顔の意味
数日後
学校
「翔太!他校の女子との合コン今日だよね?」
「ああ。今回はマジでスタイル良すぎる子しかいないからよりどりみどりだぜ!」
「それは楽しみだな!」
クラスのヒエラルキーの頂点に君臨する葉山ファミリーの声がやけに大きい。3人の男子と3人の女子。
6人からなる集団はいつもこんな感じで喋ることが多い。
鼻の下を伸ばす男性陣に女子3人は顔を引き攣らせている。うち一人が喋り出した。
「あーしももうすぐ大学生たちと合コンあるんだよね」
ギャルっぽいあーしちゃんがムンと胸を逸らして自慢げに言う。
この手の話は嫌でも耳に入ってしまうのが世の常だ。俺以外のクラスの男女も耳をそばだてている。
憧れの視線を向けるもの、怨嗟のこもった眼差しを向けるもの。
普通の高校生はあいつらのように遊び呆けたパリピではない。だから、よりあの集団は目立つのだ。
「なんか嫌な感じ。大声で話さなくてもいいのに」
「そうね。ああいう話はちょっと苦手よ」
腐の匂いがする三上と落ち着いた感じの立崎が陽キャ集団を見て、感想を言った。
「まだ高校生だし、経験少ないから自慢したくもなるさ」
俺がほぼ無表情で言うよ、環奈が俺にジト目を向けてきた。
「なんか、経験豊富な人みたいな口調ね、樹」
「っ!いや、俺は……」
環さんとの関係を知っている環奈から言われると全く反論できね……三上と立崎が若干困っている俺に意味深な表情を向けてきた。うち立崎が俺に問うてくる。
「近藤さんはともかく、細川さんと静川さんはどんな感じかしら?」
「学と啓介?」
「ええ。あの二人も結構変わったから、彼女……とか、いないかしら?」
「彼女ね……」
問われた俺は、二人を思い浮かべてみる。
学は昔の俺に毒されて、相当なアニオタ、ゲームオタに成り下がって3次元はメイド以外は興味なし。勉強においては学校2位の座を許したことがないからリアルに目を向けたらモテると思うが、ちょっと残念である。
啓介は、よくなりつつあるが、まだコミュ障がある。敏感で繊細な性格の彼を理解し、支えてくれることのできるレベルの女子は……うん、わからない。
俺は明後日の方向を見て自嘲気味に言った。
「見てくれは昔より結構マシになったと思うけどよ、中身は以前とあんま変わんないからな。そういうのいないよ。全然」
「ふん〜そうかしら」
立崎は含みのある言い方をしたもので彼女の顔に目を見やる俺。
立崎は、女王様ばりにクスッと笑っていた。
うん……なんかこの子も三上同様危ない匂いがぷんぷんする。
と、思いながら、無意識のうちに葉山集団をみるともなく見ていると、彼と偶然目が合ってしまった。
葉山はまた俺を見下すような視線を送ってきた。さっきの合コンの話をしたから良い気になっているようだ。
本当わかりやすいタイプだな。
自分を高く見せてマウント取りたがる連中は、大人の中でも掃いて捨てるほどいる。
俺は、鼻で笑った。
すると、予鈴が鳴り、やがて先生がやってくる。
X X X
放課後となり、俺は学と啓介と挨拶をしてから家に帰った。そして、洗濯済みのヤツの服が入った紙袋を手に持って家を出る。
数日間、環奈と環さんと一緒にジムで体を鍛えたが、今日は神崎親娘がショッピングするとのことでこない。
もちろん俺も用事がある。
道を歩きながら俺は携帯を取り出して真凜とのやりとりが記録されているチャットルームを開いた。
3日前
『兄貴の服、いつ返してくれる?』
『ごめん。忘れてたわ』
『全然大丈夫よ』
『三日後くらいでいいか?』
『いいよ』
『どっかで会う?』
『構わないけど、私の家に来ていいから』
『おっけー』
2日前
『樹っち!』
『ん?』
『また家に来てくれるのめっちゃ楽しみ!』
『いや、平日だからお兄さんとご両親もいることだし、服だけ渡して帰るよ』
『兄貴、あの日は合コンで遅いし、母とパパもデートあるから家に誰もいないよ』
『マジか』
『もち!あと結構お得なデリバリー割引クーポン持っているかんね!私の家で美味しいものいっぱい食べよう!』
『美味しいものか。そいつは楽しみだ』
『うん。めっちゃ楽しみ』
単なるテキストに過ぎないが、このメッセージを初めて見た時は、興奮が収まらなかった。
『お前、キモいんだから、俺の幼馴染に触れるんじゃねーよ』
『え?俺はただ単に……』
『キモいんだよ。クソデブが。一緒にいるだけでも吐き気がする。消えてくれればいいのに』
『……』
『もう一度言う。俺の環奈に触れるな。もし、さっきみたいなことがまた起きたら、お前、ただじゃ済まされないから』
転生したての俺に人格を否定するようなむごいことを言った彼女の兄
転生前の近藤樹にもここでは言い表すことのできないひどい事を数えきれないほどしてきた彼女の兄
今もなお俺と学と啓介を軽蔑する彼女の兄。
そんな奴の妹と二人きりになるわけだ。
もちろん、二人きりになるのは今回が初めてというわけでもない。
『生意気な子だな』
『っ!!!!!!!!!!!!!』
やっぱり、美味しいものはじっくり時間をかけて食べるに限る。
おそらく真凜も俺と同じ考えだろう。
葉山と一緒に育てられ、ずっと一緒に過ごしていた真凜。
葉山のやつと血が繋がっている葉山真凜。
今日、俺は彼女の家に訪れる。
「服を貸してくれたお礼になんか買って行くか……」
そう呟いた俺は、色んな物を売っている量販店へと向かって、買い物を済ませてから真凜の家へと向かう。
商店街を通る際に、ショーウィンドウのガラスが俺の姿を照らした。
制服姿で紙袋とビニールを持っている俺は
笑っている。
追記
次回も絶対見てね〜
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます