第35話 ちょっとした衝突。スポーツジムの前
月曜日
啓介の家に招かれ楽しい時間を過ごしてからあれこれやっているうちに月曜日となった。
今日はちょっと遅く家を出たので、一人でお馴染みの学校の正門をくぐった。
だが、遅刻ギリギリってわけじゃないので、敷地内は制服を着た男女の姿が散見される。
その中に異彩を放つ存在がいた。
後ろ姿しか見えないが、サラサラした黒髪に細い腰、大きなお尻、そして形のいい生足。
離れたところから見れば、色気を振りまくエロ漫画のメインヒロインだが、俺は、短い間だが、彼女と関わっていろんなことを知った。
父を亡くし母と二人暮らしをしていること、立崎と三上という心優しい友達がいること、そして
一度も味わったことのない感情を俺に教えてくれたこと。
そんなことを考えながら俺は、歩いていく環奈の後ろに近づいた。彼女とキスしたから、ちょっと気まずくはあるが、ここで避けたら疎遠になりかねない。普通の高校生なら恥ずかしがるだろうが、あえてアプローチするのも有効な手段と言えよう。
なので、俺は彼女の背中を指で突いた。
「ん?っ!」
最初はなんだこいつって感じの声を出したが、後ろを振り向いて俺の存在を確認してからは、ギョッとする。だが、環奈の戸惑いはそう長く続かない。頬を少し赤色に染めては、恥ずかしそうにしているが、やがて俺にジト目を向けて言う。
「おはよう」
「ああ……おはよう」
青色の目は細められているが、若干色気のある表情で冷たく言った彼女に俺はちょっと不思議そうに首を捻って問う。
「ど、どうした?」
「別に」
「いや、いつもと全然違うっていうか」
「私はいつも通りよ」
「そうか……」
いや、全くいつも通りじゃないけど……
と、思いを巡らしてみたが、思い当たる節は……あるかも。
やっぱりキスしたこと気にしているのかな。
経験済みの女しか相手して来なかったからあまり意識しないようにしていたが、環奈からしてみれば一生に一度しかないファーストキスを俺に奪われたわけだ。おそらく気にしているのだろう。
もしかして、俺のことが嫌いになったとか。
俺が不安な顔で青空を見上げていると、腕のところにとても柔らかい感触が伝わってきた。
環奈は無言のまま隣に来て、俺と歩調を合わせてくれている。
時折、互いに腕が擦りあったり、環奈の骨盤が俺の太ももの上にぶつかったりする。
俺が当惑しつつ歩いていると、横にいる環奈が口を開いた。
「樹」
「ん?」
「ま……ううん。なんでもないわ」
「おお……」
彼女は喉から出かかった言葉を飲み込むように口を噤んだ。なんぞやと俺が彼女の横顔をチラ見したが、環奈はなぜかもどかしそうな面持ちでため息をついていた。
いつもなら冗談の一つや二つ交わして俺を困らせる環奈だが、今日はやけに大人しい。
なので、俺は気分転換に例の話をすることにした。
「それよりさ、一昨日、アインでメッセージ送ったから知ってると思うけど、今日俺、ジム行くから。環奈は?」
今の環奈はあまり調子がよろしくない。なので、この流れだと環奈はなんらかの理由を言ってジムに来な……
「私も行くわ!」
「お、おお」
即答だった。
「環奈って身体を鍛えるための知識ある?」
「……ない」
「まあ、知らないことがあれば、なんでも聞いていいぞ」
「うん……色々教えてほしい……」
彼女は言い終えると、また俺に身体をくっつけた。
真凜のような狡賢さではなく、ウブさが滲み出るような可愛い動きに俺はちょっと動揺しつつ、答える。
「わかった。色々教えてあげる」
X X X
クラス
「あの……近藤さん!ごめんさい!」
「え?」
クラスに入って環奈と立崎、三上と話していると、突然冴えない感じの男の子がやってきて頭を下げ、謝罪してきた。
突然の行動に俺と彼は一瞬にして注目の的と化す。
「えっと、なんで謝るんだ?」
俺の問いにその冴えない男子は震える声で言葉を紡ぐ。
「今まで近藤さんのこと、白い目で見てたけど、僕……悪いことしたんだなって思って……」
なるほど。
俺の記憶の中でこいつが俺をいじめた覚えはない。ほぼ全員が俺を軽蔑していたから、おそらくその中の一人って感じだろうか。
でも、こうやって、クラスのみんなが見ている前で、自分のプライドを捨てながら謝るのってなかなか出来ることではない。
こいつは、環奈や他の女の子には視線を送っていない。
だから、下心があるわけでもないようだ。
償いたいと思う人間の罪悪感を利用して自分の欲望を満たすような悪い趣味を俺は持っていない。
なので、俺は彼を赦すことにした。
まあ、彼は俺に対して直接的に被害を与えたわけでもないから、ちょっと変な気分ではあるな。
「まあ、」
だが、俺の言葉を遮る存在が現れた。
「ったく!どいつもこいつも、ちょっと変わっただけで掌返しやがって!尻軽な奴はすぐ裏切って他の人のところに行くんだよな。マジでそんなのウザくて反吐が出る」
金髪男こと葉山が冷や水を差してきたのだ。
環奈含む3人の女子は眉根をへの字にして、葉山が所属するいかにも遊んでいそうな陽キャ集団を睨んでいる。
目の前の男の子はというと、怯えるように顔を俯かせる。
クラスの雰囲気は瞬時に凍り付き、シーンと静まり返っている。
やられたからにはやり返すのが俺の主義だ。
俺は目の前の男の子に言う。
「まあ、気にすんな。そんなことで心を苦しめたんならもう十分だ。世の中には絶対謝らないバカが吐いて捨てるほどいるしな。そんな奴らと比べればお前は本当に素晴らしいと思うよ」
「近藤さん……」
目の前の男の子が感動したように言うと、突然葉山が俺のところにやってきて、胸ぐらを掴んでくる。
「くそが!今、俺に向かってバカって言った!?」
葉山は今にも俺を殴りそうな勢いで迫ってくる。
だが、奴は俺より背も小さいし、力もない。
俺は彼に返事をする。
「誰もお前だって言ってねんだよ。なにムキになってんだ。マジでそんなのウザくて反吐が出るから手離せ」
「っ!!!俺に命令すんな!」
「人の胸ぐら勝手に掴んどいて命令って、お前頭大丈夫?」
「てめえ!」
葉山は俺をぶとうとするが、走ってきた真斗とゴリラっぽいやつが彼を止めた。
「翔太!もう先生くるからやめろって!今の状況だと、お前が完全に不利だよ!」
葉山の体に抱きつく真斗の言葉を聞いて、彼は動きを止める。続いてゴリラっぽいやつも言う。
「翔太、戻るぞ」
「……」
二人に阻止される形で葉山は引き下がった。
「近藤、あんま調子に乗んな」
ゴリラっぽい奴の口から放たれた言葉が非常に耳障りではあるが、俺はスルーして、席に座る。
俺に謝った男の子は魂が抜かれた顔でブルブル震えており、いつもの3人の女子は葉山を睨め付けている。
なぜ今まで環奈と環奈の友達を除く全ての人が俺に近づこうとしなかったのか、その理由が垣間見えた気がする。
本当
葉山翔太って男は、つくづく気に入らないやつだ。
転生前の俺も、転生前の樹も
彼に対する印象はおそらく同じだと思う。
X X X
スポーツジムの前
各々の家で早めの晩御飯を食べてから、俺と環奈は駅前で待ち合わせして、一緒にスポーツジムに向かった。
すると、ジムの入り口に環さんの後ろ姿が見えて、環奈が話かける。
「あ、お母さん!」
「あら!環奈と樹!」
「……」
気まずくはあるが……まあ、人多いし、問題ないか。
追記
やっぱりどんなラブコメラノベでもサービスシーンはあるもんですよね!
閲覧注意ほどじゃないけど、ちょっと頑張って書こうかな〜
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