第29話 エロ漫画のメインヒロインのパワー
別に女の子が他の男と寝ようが寝まいが、昔の俺はあまり気にせずに生きてきた。昔の俺は実際多くの女性たちと関係を持ってきたし、この世界に転生してからも、不本意ではあるが、環奈の母と関係を持ってしまった。
だからいつもの俺なら、知り合いやセフレと呼ばれる女性が経験豊富だとしてもそれは別に気にならない情報の一つに過ぎないのだ。
なのに、なんでこんなにも心がもどかしんだろう。
葉山の今までの振る舞いと環奈の変化。
「……」
俺は勉強がそんなにできる人ではないが、今日はいつもと比べて先生たちの授業に集中することができなかった。
そして気がつけば、放課後である。
「今日ゲーセンいく?」
「またね〜」
「駅近に美味しいデザート屋できたけど寄る?」
色めき立つ教室だが、しばしたつと、人の影の数が減って行く。
「近藤さん、悪いけど頼むね」
「ああ、任せとけ!」
「じゃ、また明日。あ、お母さん。今終わったからすぐいく」
立崎、母から電話がかかってきたのか。
俺が手を振ってから、しばしボーっとしていると、クラスには俺と環奈二人だけになった。
環奈はというと、黒板を見つめながら何かに取り憑かれたようにボーッとしている。
「環奈」
「ふえっ?あ、うん!一緒に日直の仕事やるんだったよね?」
「ああ」
「じゃ!私が椅子の片付けとゴミ捨てやるから、樹はカーテン閉めるのと黒板の掃除お願い!」
早口で言う環奈の表情には落ち着きがない。
「普通逆だろ?」
「え?」
「椅子の片付けとゴミ捨ては力がいるからな。俺がやる」
そう言って、俺は立ち上がり、早速椅子を片付け始める。
「う、うん……」
後ろから小さい声が聞こえるが俺はあえて無視して作業を進める。
椅子の片付けは意外と時間がかかるので、俺がこの作業を終えた頃には環奈は自分のやるべき全ての仕事を終わらせた。彼女は無言のままゴミ袋を拾おうとしている。
俺は後ろ髪をガシガシしながら彼女の方へと向かう。そして彼女の手がゴミ袋に触れる前に後ろからそのゴミ袋を持ち上げた。
「い、樹!?」
「俺がやるって!」
「っ!」
無愛想な言い方で言い放った俺の言葉に、おそらく環奈は驚いたのだろう。謝った方がいいのだろうか。
だけど、俺は謝らずに悠々と教室を出た。
俺らしからぬ態度だ。
落ち着いたら謝罪した方がいいだろう。
ため息まじりに、廊下を歩いていると、後ろから足音が聞こえてくる。なので、振り返ったら、
環奈がついてきている。
「え?どうした?」
「べ、別に……いいでしょ」
「……」
彼女は顔を逸らして震える声で言った。
環奈の表情は見えないが、肩まで伸びる黒髪と爆か巨か見分けがつかないほどの胸を包む白いシャツ、そしてすらっと伸びた彫刻のような美脚は、彼女がエロ漫画のメインヒロインであることを如実に表している。
それに、
このフェロモン……
俺は無事にゴミを捨てて、クラスへと戻った。
日直の仕事は終わった。このまま鞄を持って鍵をかけると終わり。このもどかしさからやっと解放されるわけだ。
解放
されるのか?
やっぱり、気になる。
「あのさ……」
「樹!」
不思議なことに俺と環奈の声が見事にはもってしまった。
「お、お先にどうぞ!」
「い、いや……環奈こそ先に」
「ううん!私は後でいいから樹くん言って!」
手をブンブン振っている環奈の目はぐるぐる回っているようだった。
俺は気を取り直すためのため息を一つついてから、気になることを口にする。
「昨日……葉山と何があった?」
「え?」
「いや……今日の環奈、いつもとだいぶ違ったから。何かされたかなって」
やっぱりこういった会話は苦手だ。
転生前の俺も、そして過去の近藤樹も。
俺が環奈を直視できずにいると、彼女は驚いたように目を丸くし、返事をする。
「実は、私もそれを言おうとしてたけど……」
「本当か?」
「う、うん」
彼女はちょっと恥ずかしそうに俺から目を逸らし、前にかかった髪を掻き揚げてから口を開く。
「翔太のことは……もうどうでもいいの。全然反省してないし、いくら幼馴染だからといって、もうこれ以上甘やかしたらダメだなって思って……だから別に何もされてないよ」
「そうか」
「うん。何もされてない」
俺は肺に溜まった空気を全部吐く勢いでため息をついて、胸を撫で下ろした。なぜこんなに俺は安堵しているのだろうか。
溜まっていた疲れが取れるような気分を味わっていると、急に環奈が申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんなさい!」
「え?なんで謝る?」
突然すぎる彼女の行動に俺は戸惑いを覚えつつ問うてみる。すると、環奈は頭を上げて、その訳を話してくれた。
「私、翔太の幼馴染なのに、樹がいじめられるのずっと傍観して……」
「いや、昨日の三上の話だと、俺がいないところでずっとあいつを止めようとしてただろ?」
「でも、止めることはできなかった……だから、それがずっと気になってたの」
「いや、環奈は悪くない」
「……」
俺の言葉を聞いた環奈は相変わらず暗い表情のままである。だから、俺は必死に頭を働かせて彼女を安心させる言葉を考える。
数えきれないほどの言葉の中で、彼女に安らぎを与えることができるのは……
それを俺は口にした。
「別に、環奈と葉山は付き合ってるわけでもないし、家族でもないだろ?赤の他人だから、そいつが何をしようが別に環奈がそれを重荷に感じる必要はないと思うよ」
俺の口から発せられた言葉が環奈の耳に届いた時、彼女は目を見開いて、ちょっと驚いたように口を少し開ける。それから何か悟ったように頷いて言葉を紡いでいった。
「そう……よね。そうだわ……幼馴染だからといって、別に特別ってわけでもないわよね?」
環奈は頬を緩めて嬉しそうに俺に訊ねてきた。
もちろん、転生前の俺に幼馴染なんて存在しない。
でも、俺の考えを伝えること自体は可能だろう。
嘘偽りない俺の考え。
「ああ。昔からの知り合いってだけで、それ以上もそれ以下もないと思うよ」
「やっぱり他人からだとそう映るのね……ありがとう。お陰様でスッキリした」
「どうしたしまして」
俺は彼女にサムズアップして、笑顔を向けると、彼女は微笑んで、体を少し揺らした。
そして、
「あのね……実は私、もっと樹と仲良くなりたいなとずっと思っていたの。だからその……学校とジムだけじゃなくて、もっといろんなところで一緒に遊びたいな……」
俺の顔色を伺いながら言う環奈はなかなか可愛い。
濡羽色の髪に、真っ白だけと少しピンク色を帯びる肌。そして、シャツによって隠れている二つの巨大なマシュマロに彫刻品のような生足。
これは、
「ああ。いいよ。時間あれば付き合うさ」
「本当!?やった!」
年をとった大人の女性みたいに俺を試すような表情ではなく、無邪気な子供のように喜ぶ環奈の姿を見た俺は頬を緩ませたが、彼女と共に動く二つのマシュマロを見た瞬間、俺の心が熱くなる。
興奮を鎮めるために俺が肩をすくめていると、環奈は手を後ろに組んで、急に俺の瞳を見つめてきた。
「あの……一つ聞いていいかな……」
「何?」
「樹って、この前、私を助けてくれたよね」
「ん……あ、あのナンパ男」
「うん……もし、私が男に絡まれたら、樹はどうする?」
不安と希望が混じっている青い瞳は潤っており、俺を的確に捉えている。
「まあ、普通の男と話すだけならいいんだけど、変なやつだったらまたあの時のようにすると思うよ……」
「ふ、普通の男と話しても樹はその男に怒らないの?」
「いや、なんで怒るの?怒らないよ」
「樹はそんな人なのね……その上で……はあ……」
「え?」
環奈は色っぽく息を吐いて、少しよろめいた。
「大丈夫か?」
「え、ええ……大丈夫」
机に手をついてから俺に向かってあははと笑う環奈。そんな彼女の肌は前よりもっと濃いめのピンク色である。
そして、漂ってくる甘酸っぱいフェロモンの匂い。
鼓動が激しくなっていく。
「ねえ、また一つ聞いていい?」
「あ、ああ」
「昨日、お母さんとエッチなことしたよね?」
「っ!!」
「お母さん……また幸せな顔してたから」
「そうか……」
環さん!表情には気をつけてくださいよ!
てか、この子、勘良すぎだろ!
と、心の中で思いっきり叫んでいると、環奈は少し目を吊り上げて口を開く。
「私ね、お母さんと似ているとよく言われるの……だから……だから……」
「……」
「私と一緒にいるとエッチな気持ちにならない?」
どうして、処女なのにこんな官能的な表情ができるんだろう。
どうして、こんなにも俺の心をくすぐるんだろう……
これがエロ漫画のメインヒロインのパワーってわけか。
俺は……
爆発寸前の胸を抑えて、彼女の体を抱きしめた。
そして、その豊満な胸を揉んでから、彼女の耳を覆っている髪を指で払って、俺の声を届けた。
「環奈、男の前でそんな顔は見せちゃダメだよ」
「っ!!!!!!!!!」
電気が流れるように体をひくつかせる彼女の柔らかい体を堪能していると、やがて、環奈は俺の方に顔を向ける。
彼女の顔を見た瞬間、ふと、とある場面が俺の脳裏を過ぎった。
エロ漫画に出てくるあの場面が。
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