第28話 心は同じキーワードを言い続ける

 葉山と一悶着あってから一日が過ぎ、俺たちはいつものように学校に向かっている。

 

 いくら平気そうにしていても、あんなことを言われたのだ。二人はしばらくは安静にした方が良かろう。


 ちなみに啓介とは昨日アインでメッセージのやりとりをした。真凜の家で彼女の体を犯しそうになっていたところ、彼が絶妙なタイミングで電話をかけてくれて、家に俺を招きたいと言ったのだ。日付は決まった。今週の土曜日にお邪魔する事になる。


 まあ、出来れば学と一緒に行きたかったが、啓介は内気な上に謎が多すぎるので、学にこのことがバレてもおそらく文句を言ったりはしないだろう。


 「昼休みはいつもの穴場でな」って言ってから俺たちはそれぞれのクラスへと足を動かした。


 昨日あんなことがあったけど冷静を心がけていつも通りに振る舞おうではないか。


 と、考えながら戸を開けて中に入った俺は自分の席目掛けて移動する。


 すると、そこには三上と立崎が環奈と楽しそうに話していた。

  

 彼女らはどのカーストにも属しない類の女子だ。


 葉山らとその友達であるギャルからなる最上位カーストも3人にちょっかいを出したりはしない。


 3人はギャルのように髪を染めたり、着崩したりといった所謂「遊んでいる感」はないものの、その綺麗な容姿が放つ雰囲気には他者を踏み込ませない何かがある。それに、勉強めっちゃできるし、先生からの信頼も厚いし、本当にすごいよな。


 特に立崎は学校一位だ。


 啓介は例外にしろ、学も勉強においてはトップクラスだし。


 あれ?もしかして一番ダメなのは俺?


 と、自嘲気味に笑っていると、俺の存在に気づいた3人が俺に挨拶をした。なので俺は「うす」と小声で言って頭を下げる。それから席に座った。


 3人の表情はさっきと違って多少暗い。


 おそらく昨日の出来事を意識したようだ。


 俺は小さく咳払いしてから、それとなく3人に言う。


「今度は、人いないとこで一緒に飯食べようぜ」


 すると、立崎が安心したように胸を撫で下ろし、三上が目をキラキラさせる。特に三上の顔がやばいほど輝いていた。


「うん!今度は学校内じゃなくて、いっそのこと、どっか遊びに行こうよ!その方が、見れそうだし!腐っ腐」

「有紗、本性隠せって」

「あ、ごめん」


 捲し立てる三上を落ち着かせる立崎。


 やっぱり、三上はちょっとやばい子かも……


 俺が苦笑いを浮かべていると、三上にカツを入れた立崎が、俺に向かって意味深な表情を浮かべては話しかける。


「ところで、近藤さんって今日の放課後暇かしら?」


 含みのある言い方に釣られたのは俺だけではないようだ。


 今までずっと顔を俯かせていた環奈も立崎のほうに視線が釘付けた。


「まあ、今日は……学校終わったら家で筋トレするだけだから暇っちゃ暇だな」

「そう……実は、私、急用があって……放課後の日直の仕事ができないの。だから環奈と二人でしてもらえないかしら?」

「か、環奈とか……」


 よりにもよって環奈と一緒にやるのか……


 俺がちょっと困ったような表情で環奈の方を見たが、彼女はなんだか普段より色気のある顔で不安そうに視線をあっちこっちやって俺と目を合わせないようにしていた。


「今日登校してる時に話してたよね!お母さん病院行かないといけないから一緒にって」

「うん……」


 三上は最初こそ元気いっぱいな感じだったが病院あたりから遠慮がちになっていた。


 なるほど。


 つまり、母の体が心配で一緒に行くわけか。


 なかなかできた子だ。


 そういうことなら代わりにやってくれるのにやぶさかではない


 俺は明るい表情で口を開く。


「わかった。日直は気にすんな。それより立崎のお母さん、元気だといいな」

「うん。ありがとう。あとで必ず埋め合わせするわ」

「いいよ。理由が理由だしな」

 

 大人しい感じの立崎は軽く頭を下げてから、環奈の方に顔を向けて、微笑んだ。


 環奈はというと、しきりにモジモジしながら少し顔を赤らめて俺と立崎を交互に見る。


 三上はというと、「あ!」と何か思いついたように目を丸くし、和んでいる俺たちに話しかける。


「それよりもさ、連絡交換しようよ!6人で遊ぶわけだから!」


 すると、今日、挨拶以外一言も話さなかった環奈が口を開く。


「そ、そうね。私、の連絡先知っているからグループチャット作って、招待すればいいと思うわ」

「うん!オッケー」


 環奈の返事に満足げにふむと頷いた三上。


 そして鳴り響く予冷。

 

 三上と立崎は名残惜しそうに自分らの席へと戻った。


 なので、俺は自然と座っている環奈へと視線を向ける。


 いつも、俺を見るとニコニコ笑って絡んでくる環奈は今日に限ってやけに静かだ。


 頬は相変わらず赤いままで、熱があるのではないかと疑いたくなるくらいボーっとしている。

 

 いつもは、キリッとしていて、俺のダメなところを色々指摘してくれる彼女だが、俺が守ってやりたくなるほど無防備だ。


 ちょっと心配になったので、俺は声をかけてみる。


「環奈?」

「っ!う、うん!」

「今日、一緒に頑張ろうな!」


 俺はサムズアップして、ドヤ顔を作った。


 すると、彼女はふいっと顔を逸らして、ボソッと言う。


「うん……私、頑張るから」


 どうしたんだろう。


 環奈の反応が変だ。


 全体的に色っぽい。


 気のせいかもしれないが、環さんが漂わせる匂いと似たような類のものが俺の鼻腔を刺激している気もする。


 もしかしたら、昨日、葉山と会ったことが原因だったりするのだろうか。




 環奈は葉山に一体何をされたんだろう。




 別に俺と環奈は付き合っているわけでもなければ、なんなら幼馴染でもない。


 なのに、名状し難いもどかしさが俺の心を締め付けるようで胸のどこかが痛い。


 俺は顰めっ面でカバンから教科書を取り出し、授業を受ける準備を進めた。


 冷静を装っているが、心は俺に同じキーワードを言い続ける。


 環奈、葉山、何があった、環奈、葉山、何があった、環奈、葉山、何があった、環奈、葉山、何があった、環奈、葉山、何があった、環奈、葉山、何があった、環奈、葉山、何があった


 環奈は、転生前の女たちがくれなかった気持ちを俺にくれた。


 俺はバレないようにカースト最上位集団である葉山達を睥睨してから拳を握る。






追記



樹の心に変化が!?

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