第24話 幸せになれると信じる。だが
二度目の高校生活を満喫している俺だが、先生の授業は相変わらずだるい。だが、昼休みに環奈と環奈の友達と一緒にご飯を食べるという特大イベントが控えているので、俺はソワソワしながらペン先を走らせる。
長いようで短い午前の授業が終わると、昼休みを知らせるチャイムが鳴る。
いつもの俺なら周りに迷惑がかからないように過去と同じく弁当箱を持って真っ先にここを出るが、今日に限っては、環奈と三上と立崎と一緒に行くために待機中である。
それを不審に思ったのか、クラスの男女が俺たちにバレないようにチラチラ見てくる。
いや、全然バレてるし、いっそのことじーっと見つめた方がこっちだって気が楽でいいよ。
と、弁当箱を机の上に置いてしばし待っていると、三上と立崎がやってきた。それから俺と隣に座っている環奈に目で合図する。
俺たちは頷いて教室を出た。
待ち合わせ場所である食堂の前に来ると、学と啓介が不安な表情で視線を泳がせている。だが、やがて俺たちを発見しては、タタタっと小走りに走ってきた。そんな彼らに俺は申し訳なさそうな口調で言う。
「待たせてごめん」
「ううん。俺たちもさっききたとこだよ」
学が啓介の肩にそっと手を乗せて答えると、啓介はふむと頷く。
X X X
俺たちは弁当を持ってきた人のために設けられたテーブルの椅子に腰掛けた。
もちろん、男女一緒に食事をするというのは、この学校における陽キャどもやカップルたちだけができる特権みたいなものだが、予期せぬきっかけで、俺たちは注目を浴びながら弁当箱を開ける。
三上が俺たちの弁当を見ると、興味深げに目を輝かせながら話し始める。
「3人の弁当、すごいね!めっちゃ美味しそう」
三上の反応に、立崎は目を丸くしたが、やがて大人しく落ち着いた口調で言う。
「私の両親は共働きだから、主に冷凍食品を利用するけど、このビジュアルだと、作るのに結構時間かかりそう……」
そう言えば、お母さんは朝早く起きて、俺と父さんのためにいつも美味しい食事と弁当を作ってくれているな。
いつも頑張ってくれる母さんを思い出したら、なぜか面映くなる。しかし、この気持ちはごまかすべきではないと思うんだ。
「ずっと前から母さんが作ってくれるんだ。本当にありがたい」
と、卵焼きを一口
「……お母さんに感謝しているのね……」
俺がなんぞやと環奈の方へ目をやったが、彼女は一言も喋らず、俺をドヤ顔で見てきた。三上と立崎は「へえ、そうなんだ」と感心したように呟き合う。
環奈の反応、なんなんだろう……
と、考えを巡らせていると、隣で学が恥ずかしそうに言ってきた。
「俺も……食堂で食べるのは、人多いからちょっとアレだし、そんな俺を心配してくれた母ちゃんが毎日作ってくれている」
そう。学の母も優しい類の人だ。
俺の母さんと馬がよく合うらしく、一緒にショッピングをしたり、カフェやデザート屋などに行って、話すことも多いらしい。
だが、啓介の弁当についてはあまり詳しくない。
きっと、啓介の弁当も母が作ってくれているのだろう。そう言えば、啓介の母、結構美人だったな。父も相当イケメンだったけど。
自分の番だと気づいた啓介は、俯きながら、聞こえるか聞こえないかの小声で言う。
「僕の弁当は、毎日妹が作る……」
「「っ!」」
俺含むみんなは少し驚いたように固まって、啓介を凝視した。
花音ちゃんが作るのか……
まあ、作ったとしても全然違和感ないけどな。
俺が苦笑いをしていると、三上は興味深げに前のめり気味に身を乗り出して、啓介に向かって言う。
「何それ!めっちゃいい!こんなに素敵な弁当作ってくれるなんて……妹ちゃんに相当好かれているのね……ふふ……じゅるり」
おいちょっと……三上、なんで舌なめずりすんの?アレだよね?花音ちゃんが作った弁当が美味しそうだからだよね?
なんだか三上からヤバいオーラを感じる。
と、不安げな表情で啓介を見つめていると、彼がちょっと悲しそうな面持ちで言う。
「僕……今は妹に迷惑ばかりかける悪い兄だよ……」
「え?」
啓介の自信をなくした反応に三上は目を丸くし、戸惑う。
俺は、そんな彼の肩を抱いて、当たり前のことを言ってやった。
「何言ってんだ。妹のために命をかけるようなお兄ちゃんが悪いお兄ちゃんなわけないだろ?」
「……」
俺の言葉を聞いた三上は口を半開きにし、目をパチパチさせる。
「命をかける!?近藤くん、その話について詳しく……」
「有紗、よだれ出てるわよ」
「あ、ごめん由美」
興奮気味の三上の口元をティッシュで拭く立崎は、啓介に対して頭を下げた。啓介は、少し困ったように目を逸らし、食事を再開する。
喧騒に包まれた食堂の中で黙々とご飯を食べている俺たち。
そう言えば環奈はさっきから何も言ってないな。
なので、俺は少し気になっていることを口にした。
「環奈」
「ん?」
「お前、自分で弁当作っているよな?」
「あ、う、うん。どうやって知ったの?」
「いやだって、環奈のお母さん忙しいだろ?なのに、こうやって弁当作ったり、成績良かったりすごいんだなって」
「っ!そんなことないよ!いつもやっていることだから!あはは」
環奈は手を忙しなくブンブン振って返答をした。その様子を捉えた大人しい立崎は、口の端に手を添えて、意味深なことを言う。
「やっぱり、近藤さんは環奈のことをよく見ているのね」
「い、いや!これはだな」
戸惑いつつ弁明する俺の言葉を三上が遮った。
「環奈の家の事情までよく知っているなんて……これは怪しいね♫」
二人はターゲットを俺に定めて、「ほお」とか「へえ」とか言って視線を送ってきた。そんな二人に環奈は慌ただしく捲し立てるように言う。
「い、いや!二人ともやめてよ!まだそういう関係じゃないから……」
「「まだ……だと?」」
俺と環奈を除く4人の声が見事にハモる。
「い、いや!これは違くて……うう……もう知らない!私ご飯食べる!」
や、やべ……めっちゃかわいいリアクションだ……
そんな彼女が面白いのか、三上と立崎は口角と目をかすかに吊り上げて、嬉しそうに環奈を見ている。
そして、学と啓介は……
めっちゃ俺をガン見している。
だけど、二人の視線からは悪意や負の感情は見受けられない。
どっちかというと、昔俺がジムで働いていた頃、筋肉をつけたいと強く願っている冴えない男性が向けてきた視線と酷似しているように思える。
『お、俺も努力すれば、XXさんのように格好よくなれますか?』
『はい!もちろんですよ!俺と一緒に頑張りましょう!』
『は、はい!』
そう言えば、俺が指導したあの男は見事にダイエットと筋トレに成功して、可愛い彼女を作ることに成功した。そのお礼に彼女と一緒に俺の勤めるジムにやってきては、結構高いプレゼントをくれた。
彼は高いプランを選んだため、お金を結構費やした。だから俺はそれに見合う仕事をやっただけなのに、どうやら彼は払ったお金以上のものを得たらしい。
今の学と啓介を見ていると、なぜかそんな過去が俺の頭をよぎる。
心が温まる風景。
きっとお前たちも、幸せになれるさ。と心の中で優しくつぶやいていると、冷や水を差す存在が俺たちの前にやってきた。
金髪男といつも連んでいる二人。
金髪男こと葉山は震える体をなんとか落ち着かせるように息を深く吸っては、俺を睨め付けて言葉を吐く。
「おい近藤、お前ちょっと調子に乗ってない?」
追記
始まりました……
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