第23話 二人の友達と二人の友達
真凜とのデートから一夜明けて、俺はいつものように3人で登校するために駅前にやってきた。
同じ制服を着ている男女が俺を一瞥して通り過ぎる姿を目で追っていると、学と啓介が現れた。
「よ!」
「よ!」
「……」
それぞれ挨拶を交わしてから俺たちは歩き始める。俺の位置は真ん中、左に学、右に啓介。
ふと、二人の横顔を覗き込んでみた。
背は小さいけど、レンズを着用し、スタイリッシュなブラウン色の髪を揺らして、知的でいい感じを出している学。
かたや、背は175センチとやや高めで、長くて青い髪が印象的な美少年である啓介。昔はとても暗い雰囲気を漂わせていたが、今の彼はだいぶ変わったと思う。前髪がちょっと長いので顔こそあまり見えないが、なんらかの拍子で前髪が上げられたら、きっとその美しい形の瞳を見ることができるだろう。
俺たちは過去と比べてだいぶ変わったと言える状態にある。
見た目だけでなく、人間関係においても変化があってもいいのではないのか、ふとそんなことを思う俺がいる。
なので、ちょっと心配しつつ口を開いた。
「あのな」
「ん?」
「……」
「お前たち、クラスで女子と喋ったりする?」
俺がこともなげに聞くと、二人は少しげんなりした感じで答えた。
「愚問だな。俺の相手をしてくれる女の子はネネカちゃん一人だけで十分だ!」
はいはい。わかってましたよ。
「いい加減二次元から出てこいよ」
「ふふ、無理な話だな。樹よ、一つ大事なことを教えてやろうか?」
「大事なこと?」
「二次元世界に足を踏み入れること自体は自由だが、やめるときはその限りではないぞ。つまり、脱出なんて不可能よ!!!!!」
過去の樹くんよ……なんでお前はこいつをオタクの世界に引き摺り込んだの?
俺は「こいつダメだな」みたいな視線を学に送ってから、啓介にも聞く。
「啓介は?」
俺に問われた啓介は、恥ずかしそうに身を捩りながら、小声で返事をした。
「花音以外の女の子は知らない……」
ああ、一瞬グッと来たけど、これもひどい状態だよな。
まあ、花音ちゃんはヤンデレが混じったブラコン属性だから、しょうがないところがあると思うがな。
二人の現状を把握した俺は、深々とため息をついてから、口を開く。
「ある程度、話せるようになった方がいいんじゃないの?別に付き合ったりイチャイチャしたりするわけじゃないけど、きっと二人のためになると思うよ。まあ、強要はしないがな」
俺に言われた二人は頤に手をやり、考える仕草を見せる。
「ネネカちゃん以外の女の子……」
「花音以外の女の子……」
二人はやがてコメカミに手を当ててから深刻そうな表情を浮かべる。
や、やっぱり早すぎたか。
学と啓介には楽しい学校生活を送ってほしい。もちろん、今も楽しいが、いろんな人と関わって、いろんな経験をしてほしい。
転生前の俺はそれができずにいたから。
でも、無理をさせるつもりはない。
ゆっくりでいいさ。
と、俺がこの話を切り上げようとしたが、突然後ろから誰かが指で突いてきた。なので、止まって俺は後ろを振り向く。
そこには、環奈と二人の友達が立っていた。
ちなみに二人の友達の名前は三上有紗と立崎由美。
「環奈か、あと三上と立崎も」
「おはよう!樹」
環奈が挨拶をすると、それに続くように三上と立崎も手を振る。
女子3人は学と啓介にもにっこりと微笑んだが、二人は目を合わせようとせず、俺にくっついた。
おいなんで怯えてんの?この美少女3人はお前らに危害を加えるような怖い人じゃないぞ。
だが、女子達はそんな彼らの気持ちなんか知るはずもなく、環奈が話をかけてきた。
「いつも樹と一緒にいる友達よね?」
「は、はい!そ、そうであります!」
「……」
「別にタメ口でもいいの」
環奈は二人を安心させるように微笑んだ。すると、三上と立崎も優しく笑む。
「私は三上有紗!よろしくね!」
「立崎由美よ」
学と啓介は彼女らにどう接すればいいかわからないようで、俺に視線を向けてくる。なので、俺は二人を安心させるために優しく背中を叩いてあげた。すると、学が緊張した様子で口を開く。
「細川学。樹の友達です……」
学に続く形で啓介が消え入りそうな声音で言った。
「静川啓介……」
よし。これで自己紹介という任務を全うすることができた。
俺は子供を心配する親のように二人を見守っては安堵のため息をついた。
それから俺たちは一緒に歩きながらいろんな話をした。
今日の天気とか、授業のこととか。
学は、ぎこちなくはあるけど、三上と立崎とはある程度話せている。だが、啓介の方はずっと俺の制服の袖を控えめに握っては、口を噤んでいた。
そんな俺と啓介に環奈が笑顔で話かけた。
「樹と細川くんって、仲良しだね。ふふ」
明るく接している彼女だが、啓介は口をへの字にして彼女を睨む。髪が長いせいで、多分俺しか見えてないと思うが、確かに啓介は環奈を睨んでいる。
無言を貫く啓介を不思議に思ったのか、一瞬首をキョトンを傾げる環奈だったが、やがて「あっ」と何か思いついたらしく、優しく笑んで、俺たちと歩調を合わせながら口を開いた。
「もしよければ、昼ごはん、一緒にどうかな?私、樹の友達とも話したいし」
「っ!」
一瞬、啓介が身体をビクッとさせた。
「それいいね!めっちゃ楽しそう!」
「食堂広いからそこで一緒に食べたらいいと思うの」
すかさず、前を歩いている三上と立崎がフォローを入れてやった。
いや流石にそれは学と啓介にとってレベル高すぎるだろ。
過去の近藤樹の記憶の中だと、男子と女子がつるんでご飯を食べるのはカップル同士か陽キャ集団と相場は決まっている。
そんな難易度高めなクエストを二人がクリアできるとは到底思えん。
なので、俺は気を取り直すための咳払いをして、断るために言葉をかけようとした。
「気持ちは嬉し……」
が、
「そ、それ!楽ししょうだね!!」
前を歩いている学が後ろを振り向いて興奮気味に言ってきた。
おい、お前……なに言ってるんだ?
舌思いっきり噛んでるし、どう見てもいつもの調子ではない。女の子たちと話したことでどうやら冷静な判断ができない状態に陥ってしまったらしい。
「だよね!絶対楽しいって!」
「3人には色々話したいことがあるからね」
三上と立崎は乗り気だ。
ここで俺が断るのもちょっとあれだから、最後の砦である啓介の意見を聞かなくては。
と、俺が隣で歩く啓介をチラッと見ると、困ったように視線を左右にやっては、俺を上目遣いで見てきた。それから俺の裾をもっとぎゅっと握っては、返事をする。
「怖いけど……樹と一緒なら……いい」
「あ、ああ……大丈夫だよ。ちゃんとそばにいるから」
啓介。安心しろ。昼休みにはトイレにも行かないから。
てなわけで、一緒に食堂で昼食を食べることが決まった頃にはすでに俺たちは昇降口に着いており、上履きに履き替えた後、それぞれの教室へと向かった。
過去の近藤樹が食堂を利用したのはほんの数回だけ。
キモデブだった頃の彼は、周りから白い目で見られることを恐れて、トイレで食べたり、空き教室で食べたりと、放浪者のようにあっちこっちで気の休まる暇もなく腹を満たしてきたのだ。
そん中で探したのが学校の裏庭にある穴場で、そこで学と出会ったよな。
俺は感慨深げに息を吐いて、環奈、三上、立崎とクラスの中に入ると、またもや注目が集まる。
女子たちは、すごく興味深げに俺たちを見ていて、陰キャっぽい男子たちの数人も俺に敵意のない視線を向けてきた。
しかし、中には俺のことを好ましく思わない連中もいるわけで、幅を利かせているクラスの中心人物である男の陽キャどもがそれに該当する。
もちろん、その中には
葉山もいる。
追記
倒れかけているジェンガのような平和はどこまで続くのでしょうかね。
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