第16話 変わるもの、変わらないもの

明日


学校の正門


 俺と学と啓介はいつものように一緒に登校している。


「んでさ、クラスの女の子たちが勉強教えてって言ってくるから……」

「へえ、学は勉強だけは得意だったもんな」

「おい、その言い方は失礼だろ?ネネカちゃんの攻略もうまいっつーの」

「まだやってたのかよ。そのゲーム」

「樹よ、お前が紹介したゲームだぞ」


 啓介が見ている前で学と俺が本当にどーでもいいことを話しながら進んでいる。


 それにしても、ガリ勉の学にもいよいよ春が来るのか。


 俺はクスッと笑って、冗談混じりに学に話た。


「興味持たれてるってことだからいいじゃん。早くイケメン風吹かしてクラスの全男に一発かましておけ」


 きっと普段の学なら、わらけて「現実世界はクソだからそんなのできるわけないじゃん。I LOVE異世界」とか気持ち悪い表情で言ってくるだろうが、今日の学は一味違った。


「……なんだか、急に態度変わるから嘘っぽい」

「……」


 暗い顔で呟く学。そんな彼を啓介が興味深く見つめている。


 まあ、確かにそうなるよね。


 俺はわざとらしく大きな咳払いをし、説く。


「学よ、よく聞いておけ。それが現実っちゅうもんだ。見た目一つ変わるだけでも、周りの人たちのお前への態度も変わるものさ。それが人間の性ってやつだよ」

「なんだか嫌だな……」


 学はげんなりした表情を俺に見せる。


 そこへ珍しく啓介が突っ込んできた。


「でも……僕たちは、昔も今も、ずっと同じ……」

「……啓介」


 短い言葉だけど、俺の過ちを悟らせる珠玉の言葉。


 上から目線で説教じみたことを言った俺は啓介に完全にしてやられた。


 転生前の俺の持論を学に伝えたつもりだが、それと矛盾する言葉を啓介は俺に対して言ったのだ。


 キモデブ、ガリガリガリ勉、不登校のコミュ障と、学校におけるネガティブな要素の集合体だった俺たち。


 そして、すっかり垢抜けしていい感じになった俺たち。


 学校の連中が俺たちに向ける視線は軽蔑から好奇心へと変わった。


 けど、


 俺たちが築いてきた絆は、変わらずにずっと残っている。


 それを思うと、なぜか心が温かかくなる。


「確かに、啓介の言う通りだな」


 と、自虐まじりに啓介に言うと、長い青い髪に隠された彼の鮮やかな瞳に俺の姿が写っていた。


 とまあ、こんな感じで話しているうちに、昇降口に到着した俺たち。上履きに履き替えて「昼休みにいつもの穴場でな」と言って、各々のクラスへと向かう。


 最近の俺は充実した毎日を送ってる。


 だが、時折昔感じていた気持ちが湧いてくることがある。


 昨日がそうだった。


 俺は雑踏の中で、暗い顔で階段を上った。すると、背中に妙な感覚が伝わってきた。誰かが俺をつついているのだろう。なので、振り返った。するとお馴染みのメインヒロインがその美しい顔と制服姿を出し惜しみせず見せてくる。


「おはよう!

「環奈か。おはよう」


 明るい表情で挨拶を交わす環奈に手を振って返事した。彼女の顔を見るとなぜか心の靄が一気に吹っ飛ぶ気がする。


「ん?」


 俺は頬を緩めて安堵していると、環奈の隣に立って歩いている二人の存在に気がついた。


 いつも学校で環奈と行動を共にする女友達である。顔と身体は環奈ほどではないが、綺麗な方だと思う。


 二人は控えめに俺をチラチラ見ては、小さく息を吐き、俯きがちに歩いている。しばし経つと、二人のうち一人が首を左右に振り、俺に話しかけた。


「あ、あの……近藤くん。私……近藤くんにひどいこと言っちゃったこと……申し訳ないと思っているの……周りに流されて……」


 すると、他の女友達も意を決したように続いた。


「私も!今の近藤さんを見てると、人を見た目で判断したらダメだなと思い知らされたわ……近藤さんが私を軽蔑しているとしてもそれは当然の反応だよ……」


 二人は足を止めて礼儀正しく頭を下げた。


「「ごめんなさい!」」


 通りすがりの生徒数人がなんぞやと野次馬と化して俺たちのやりとりを見ている。


 俺は止まって彼女らに対して返事をした。


「そんな顔するなよ。ただでさえ俺がクラスの中に入ると、ギスギスした雰囲気になるのに、廊下でもそんな顔向けられたら、悲しくなるさ」


「「え?」」


 二人は顔を上げて口を半開きにしたまま、キョトンとしている。


「俺を直接いじめた男子は正直気に食わないが、君たちが俺にキツイこと言ったのは俺にも非があるからな」


 そう。女の子は匂いや見た目に敏感に反応する生き物だ。多くの女性を相手してきた俺だからわかること。


 みんながいる学びの場で、清潔という要素がこれっぽちもなかった俺にも落ち度ってもんがあるわけさ。


 イジメは許されないが、大勢の前で頭を下げた女の子二人を頭ごなしに怒るのは間違っていると思う。


 なので、俺は優しく微笑んでサムズアップして二人に言葉をかけてやった。


「これからは、仲良くやってこうぜ」


「近藤くん……うう……」

「近藤さん……あふ……」


 二人は目を潤ませて可愛く俺を上目遣いしてきた。


 快楽に飲み込まれる時に見せるメスの顔じゃなく、俺の心のどこかをくすぐるような顔。


 俺は感動してしまった。

 

 込み上げてくる感情を誤魔化すべく目を逸らしたが、そこには透き通った青い目を俺に向けている環奈がいた。


 彼女はドヤ顔で頷いている。


 それから、俺たち4人は他愛もない話を混ぜながらクラスへと向かった。


「そうそう!近藤くんわかるじゃん!」

「まじ近藤さんリスペク……ん?」


 和気藹々と会話を楽しんでいたら、ドア付近である男とバッタリ出くわした。


「……」


 そいつは、俺たち4人を見ては当惑する様子を見せる。


 辺りに静寂が訪れること数秒。気まずさに耐えかねた環奈がその金髪男に明るい表情で声をかける。


「翔太、おはよう」

「あ、ああ……環奈……おはよう」

「どこ行くの?」

「ちょっとトイレにな……」


 翔太こと葉山翔太は、そう言って、俺と3人を交互に見ては、急に走り出した。


 あんなに急ぐところを見るに、おそらくでっかいやつだろう。


 教室に入っても環奈と俺の会話は止まることを知らない。


 席が隣同士なので、予鈴が鳴るまで、この賑々しい教室で人目を気にせずに喋ることができるのだ。


「ありがとうね。あの二人、すごく悩んでいたの」

「いいよ。むしろこっちこそありがたい。いい子たちだね」


 俺があの二人に対する印象を伝えてたら、彼女はそうでしょと相槌を打ってくれた。


 それからしばしの沈黙が流れると、椅子に座っている彼女は急に顔を俺から逸らしてモジモジしていた。


 何か言いづらいことでもあるのだろうか。


 体を少し揺らしているおかげで、白いシャツを押し上げている巨のつくマシュマロはこれ見よがしにその存在を主張し、細い腕と腰、短いスカートから伸びた象牙色の形のいい美脚は、男の本能をそそる。


 心があったまる場面があったからあまり意識しなかったが、環奈はエロ漫画のメインヒロインだ。


 そんな彼女は恥じらう乙女のように言葉をかける。


「あのね……」

「ん?」

「恩返しの件なんだけど」

「ああ……」

「樹を私の家にお招きしてご馳走したいの」 

「そ、そうか」


 まあ、いつか言われるんだろうとは思ったがな……


 俺が思案顔で色々考えると、彼女は握り拳をし、前のめり気味に俺の方へ身を乗り出す。


「私、料理得意だから食べたいものなんでも言ってみて!」

「直接作るの?」

「うん!」


 そういえば、エロ漫画の中だと、催眠にかかった環奈に料理をさせながら裸エプロンプ……やめよう。


 俺が食べたいものか……

 

 真っ先に思い浮かぶメニューを俺は口にした。


「肉じゃが……」

「ん……できなくはないけど、もっと高いものでもいいよ」

「ううん、肉じゃががいい」

「樹がそう言うなら……わかったわ。最高の肉じゃが、作ってあげる!」

「そいつは楽しみだ」

「お母さん仕事忙しいから樹くんのことまだ言ってないけど、言ったら絶対喜ぶと思う!ちょっと驚くのかな……へへ」


 子供のように無邪気な笑いを浮かべる環奈。俺たちたは早速日付を決めるための会話を始めた。


 ずるずると引きずるのは俺も環奈も好きじゃないので、今週の日曜日に環奈の家にお邪魔して夜ご飯をいただく事と相なった。

 

 俺もその日は予定ないし、環奈と母もフリーだという。


X X X


 日曜日


 環奈の家


「ほお……結構立派な一軒家だな」


 環奈の家はお金持ちだろうか。そう思わせるビジュアルだった。


 俺がベルを鳴らすと、玄関チャイムカメラで俺の様子を見たらしい環奈がドアを開けてくれた。


 開かれたドアからは可愛いデザインの半袖とショートパンツを身に纏っている環奈が俺を歓迎してくれた。


「こんばんは!」

「おお。こんばんは」


 こいつの私服姿を直接見たのは初めてだな。漫画では飽きるほど見たがな。


 さすがはメインヒロインってところか。


 俺が嘆息を漏らしていると、奥の方から綺麗な女性が現れた。


 スカートにシャツという落ち着きのある格好。


 見た目はこいつのお姉さんだ。


 




 な、






 な、







 なにいいいいいいい!?



「っ!!!!!!!!!!!!」

「っ!!!!!!!!!!!!」



 俺と環奈の姉らしき女性が目を丸くしていると、異変に気づいた環奈が後ろを振り向いて嬉しそうに明るく口を開く。


「お母さん!この人が私を助けてくれた近藤樹くんだよ!へへ」

「お、お母さん?」


 そこには、この前、ラブホテルで激しい夜を共に過ごしたスポーツジムのマドンナがいた。



 



 

追記


ラブコメ部門日間週間月間ともに一位になりました!!!!


おおおおおおおおおおおおおお!!!!!!ありがとうございます。


おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!ありがと!!!


おおおおおおおおおおおおおお腹すいた



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