第3話 同窓会
十一月初旬。
俺にとっておなじみとなった突然の声。
『もしもし、成仁―?』
五年ぶりの声に、よく五年も経ってから気軽に電話できるものだと思う。そのガラガラした感じの声は俺の中では一人しかいない。
細川という男は人見知りなんて全然しない、良くも悪くも空気の読めないやつなのだ。だから細川からの突然の電話も、俺にとっては「おなじみ」である。
「あぁ。久しぶり」
細川や恵とは専門学校でたった一年という短い期間ではあったけど、毎日のように顔を合わせていた仲だ。俺の昼食でファーストフードに行っていた六人の中にもよく混ざっていた。
『今何してんの?』
それは現在進行形なのかそれとも職業なのか名詞をつけてくれ。多分職業だと思って答える。
「今は無職だよ」
『えー、マジ? 俺はパチ屋のスタッフやってんだよー』
あ、性格的に似合いそう。ってか普通にやってそうだな。
「逆にはまったりしてないよな?」
『今は大丈夫』
今はってなんだよ?
『成仁君出たー?』
電話の向こうから高い声が聞こえる。この声にも覚えがある。
「保土ヶ谷君も一緒なの?」
保土ヶ谷君も以下同文だ。六人の中にほぼ必ずいた男子。緊張しやすいのかよく噛むことが多くて、それもあって専門学校入ったのかと思った。
俺たちの通っていた専門学校は「東京アニメーション学院」の声優タレント科。有名な専門学校だが、養成所に入る前の基礎を学んでいた感じだった。中にはそこからデビューした人もいるし、基礎を積んで養成所やジュニアになった人もいる。最近では学院発の声優ユニットなんて活動もしているみたいだ。
俺たちはその学院の仙台校の同級生、というわけだ。
『あぁ。でさぁ今はどこにいんの?』
「今は実家だよ」
『岩手だったよな?』
「そうだよ。二人は仙台だっけ? どうかしたの?」
五年ぶりに話したんだ。昔みたいに今年はコミケ行くの? じゃないよな?
『同窓会しね?』
同窓会。卒業してちょうど十年経つし、やってもいい。けど、たった一年の付き合いでそこまで深く繋がっていたのかなぁ? と疑問には思う。
とはいえ東京校なら全国から人が集まっていただろうが、仙台校だった俺たちのほとんどはもともとが東北の人が多い。
「うーん。やりたくないわけじゃないけど、人集まるかな?」
電話の相手が保土ヶ谷君に変わった。
『成仁君ならみんなの連絡先知ってるし、大丈夫だよ』
その大丈夫はどこから来るんだ。俺だってあんまり得意じゃない人くらいいるぞ?
ま、今のみんなの状況ってのも気にはなるな。それにいろんな人と話すというのは気持ちがいいって恵や桜沢さんと話したことでも思ったし。
「とりあえずクラス委員に連絡してみて、協力してもらえるか確認してからでいい?」
『さっすがー! あ、日程とかどうする?』
同窓会したい、だけだったのか? もうちょい案を決めてからにしてくれ。
「じゃあ、みんなに一度連絡して、ライン登録させてもらえるかと、日程アプリで希望の日にち入力してもらえるように頼んでみる。まずは日程アプリ落としたらそっちに連絡する」
『了解。流石クラス委員だね』
そんなの時だけ持ち上げられてもうれしくないわ。
とりあえず電話を切り、ラインで同窓会のグループを作る。そして使える日程管理のアプリをダウンロードする。細川と保土ヶ谷君にはライン登録をさっきしたのでそれを送った。
とりあえず、クラス委員に連絡だな。
「とりあえず佐藤君だけでも連絡お願いしていいですか?」
同じくクラス委員をしていた永井さんは今やトラックのドライバーだった。似合ってる。
『わかった。仕事中だからまた連絡するけど日中じゃないかもしれないからな』
「お願いします」
歳は七つ離れていて、当時は俺が生意気言ったけど、さすがに社会人経験して十年。敬語くらいは使わないとな。
ちなみに佐藤君とは上昇志向は強いんだけど蹴落としてでも、ってタイプだったので協調性をもってやろうって感じでやってた俺とはあんまり合わなかった。いや、クラスメイトの一部には練習中、掛け合いになってなくて嫌になる気持ちもわかる人はいたけどさ。
次はそういう人と掛け合いをよくやっていたクラス委員の阿久津さんか。
『ただいま電話に出られません、ご用件の方は発信音の後にメッセージをお願いします」
仕事かな。阿久津さんにはとりあえず留守電に入れたし、あとは飯田さんでクラス委員は全員だ。
電話するのもそれなりに緊張するんだけどな。
「もしもし、飯田さんですか?」
『え、三澤ですけど?』
えええぇ~電話変えたの?
『あ、成仁君?』
ん?
『ごめんねぇ』
そういや聞き覚えがある特徴的な甘ったるい感じの声。そういえば当時三澤君と付き合ってたな?
「三澤君と結婚した?」
『そうそう。六年くらい前に』
びっくりしたー。別人だったら連絡困るとこだった。
「じゃあ三澤君にも連絡してほしいんだけど、今度同窓会をしようってなって……」
とりあえず日程アプリのことを伝える。
『クラス委員で何かしたりするの?』
「特には……あぁ、でも受付とか当日は手伝ってほしいかも。あと、女子にも連絡するけど連絡つかないような人いたらお願いするかも」
『えぇ~、私卒業してからあんまりみんなと連絡とってないよ?』
あ、それじゃ仕方ないか。
『コユキさんなら連絡とってそうだけどね』
あぁ、あの陽キャな割にBL同人大好きで自分も描いてた奴な。しかも上手い。ビッチそうに見えてそうでもないんだよなぁ。小林有希が本名なんだけど、昔からのあだ名を専門学校でも引き継いでコユキって呼んでる。あいつデビューしてなかったっけ?
「わかった。連絡とれない女子はコユキに頼ってみるよ」
これで留守電に入れた一人を除いてクラス委員に連絡はついた。
「とりあえず、足笠君からかけてみるか。あ、足笠君も結婚してる可能性あるな」
クラスでも特にかわいい子はすぐ付き合ってたなぁ。よくわかんないけどモテる奴は違うんだろう、うん。俺にはわかんねぇな。
『ぉう成仁じゃん! ひさしぶりやなぁ~』
関西弁の速水君。二つ上だけど仲良くさせてもらってて君付けもさせてくれる。通学も一駅しか違わないからよく一緒に行ってた。
「今度同窓会するんだけど、今ってどこにいるの?」
『東京の大塚や。橋田も近所におるで』
遠いけど大丈夫かなぁ?
『日程アプリに行ける日入れればえぇんやろ? それでいけなかったら仕方ないし、行けたら行くわ!』
「うん、ありがとう。よろしくね」
あの関西弁コンビが来れば面白いし、嫌いになってる人もいないと思うから助かる。
と、クラス委員のつながらなかった人からも返信が来てOKだった。
あと数人。
『同窓会でしょ? 行く行く!』
留守電だったコユキからはすぐに返事が来た。
「仕事は大丈夫なの?」
『声優の仕事あんまりないんだよ? あとはアルバイトだからまぁ、声優側の仕事がない日に設定入れとくね』
確かに、アニメ見てても滅多に名前見ないもんな。モブやガヤで出たりするのかもしれないけど。
「場所、仙台になると思うけど大丈夫?」
『その辺は何とかなるっしょ』
コユキも東京だったはず。交通費とかどうなんだろ? まぁ、俺がとやかく言ってもしょうがないか。
「あと、岡本さんと廣井さん、電話変えたのか連絡つかなかったんだけど、わかる?」
『うん。じゃあこっちから連絡しとくねー』
「助かるよ」
『成仁は仕事とか、どう?』
声優になったか、なのかなぁ。どちらにしてもうまくいってないことを話す。
『あー、成仁真面目過ぎるんじゃない?』
成績表が年二回あったのだが、後期の成績表では個性が下がって協調性とか授業態度的なことばかり評価されてたから、みんなもそう見てたのか。
『でもまぁ何とか元気そうだね』
「本当何とかって感じだけどね」
苦笑しつつ他に同期でデビューした人がいないか聞いてみる。
『えー、私もそんなに知らないけど、在学中にデビューした子いたじゃん? その人くらいかなぁ』
あぁ、あのカードゲームの作品に出た人ね。名前は忘れたけどぼんやり覚えてる。
「そっか、わかった。じゃあまた後で日程決めたらラインで報告するから」
『うん、よろしくー』
コユキとの通話を終え、現在のライングループは二十人。三十人いたクラスで、途中退学したり、転籍したり、連絡先が分からなくなった人を除けばこれくらい。十年経っても結構連絡がついた方だろう。
「さて、人数が多い日はっと」
十二月に入ると忘年会シーズンでみんなの予定が合わなくなるため、十一月中にしておいたのだが、動き出しがよかったせいか十一月後半の土日に殆どの人が合わせることができそうだ。勿論有休申請をする前提の人もいる。土日が休みとは限らないからな。
全員分は集まっていないので、パソコンを開いて名簿作成をする。なんか勝手に自分一人でやってるけどいいんだろうか。突っ走ってないか?
こういう時はクラス委員に聞くのが一番。メンバーにだけ確認をとったが、三人とも仕事をしているので、当日頑張るから準備頼む、と返信が来た。
「場所どうしよ?」
そういえば考えていなかった。ほぼ東北なだけにやるなら仙台がいいだろう。実際仙台にいたわけだし。
しかし、仙台の居酒屋に行ったことがないわけではないが、あまり知らないうえに団体になる。今回は地元住民の力を借りよう。
「浅野さんだな」
彼女もよくファーストフードに行ってた以下略。というだけでなく、アパートが彼女のバイト先の近くでよく値引き品を買いに行ってた(たまには通常の値段のものも買ってたけど)ため、話しやすい人だ。背丈は恵よりもさらに低いが二つ年上で頼りになる姉御的な感じだった。
電話をかけると、自信はないけどと言いつつも了解してくれた。保土ヶ谷君たちも一緒に当たらせればよかったかもしれないが、あの二人だとかえって不安になるから一人に任せることにした。
仙台も雪がちらつく十一月十九日。土曜日である。そして同窓会当日。準備に漏れがないか不安になるのは、仕事でミスがないか心配になるのと変わらないな、と思う。
日程等決まった後、恵から待ち合わせをしようと誘いがあったが断った。幹事たちの仕事に付き合わせたり、外で待たせるのも悪いしな。北上からきて迷うだろうか、多分大丈夫? かな?
「よっ」
最初に来たのは永井さんだ。
さすがに社会人も長いと、こういうことに対しても余裕を持ってくるのかな。
「成仁結婚したかー?」
開口一番にそれかよ。酔っ払いじゃないんだから。
「してないですよ。永井さんは?」
「全然だわ」
仕事が忙しくてそれどころではないらしい。ここから十分ほど永井さんの愚痴に付き合わされた。
「永井さん、成仁君ひさしぶりーっ」
三澤夫妻がやってきた。夫妻ってつけるとなんか別次元の人間に感じるのは気のせいか?
「おう」
「お久しぶりです」
続いて阿久津さんも来た。
十六時半にお店に入り、段取りを組む。三澤夫妻に受付を担当してもらって、阿久津さんには連絡、道案内役をしてもらい、永井さんが仕切る感じだ。予定では俺は何もしない、はずだ。
硬い言葉を使うことになるけど、十七時から開場、十七時半開会。二十時一次会終了予定。二次会はバラバラになると思ってるから決めてない。
段取りが決まってすぐ東京組がやってきた。言い出しっぺの細川あたりかと思ったがフライング気味で来た。
「もう受付大丈夫?」
コユキが確認する。
「大丈夫だけど、みんな同じ新幹線とかだったの?」
「いや、俺の車で」
見ると後ろから橋田君が速水君とほかにも一人連れてきた。
「免許とってたんだ」
「ボロイけどなーアハハ」
聞けば四時間ほどかかったらしい。高速を使ったとはいえ早いな。
「何時に出たの?」
「昨日みんな仕事終わってから打ち合わせて、朝一に出たから昼時やな」
休憩も入れてだからそんなもんか。
「速水君も久しぶり!」
「やーマジで久しぶりやな! 元気しとった?」
「ぼちぼち」
精神状態はぼちぼちと言えないかもしれないが、久しぶりの再会に心躍っているのは本当だ。なんかそれだけで俺の健康状態がよくなる気さえしてしまう。
「この時間までは何してたの?」
「こっちなかなか来ぃひんからみんなで眺めて回っとった。懐かしの母校も見てきたで」
そっか。俺も見てきた方がよかったかなぁ。また今度にするかな。
「特に席なんか決めてないから好きなところでいいよ」
「OK」
その後も徐々に懐かしいクラスメイト達がやってきては挨拶をする。
「柏木は喘息酷くて欠席だって」
「あいつ肺鍛えるとか言ってタバコ吸ってたよなー」
懐かしいばか話も出てくる。
意外にも遅れてくる人は一人もいなかった。欠席が二人いた程度だ。
「それじゃあちょっと時間早いけど同窓会を始めまーす」
飲み放題のコースを頼み、注文を阿久津さんがとってくれる。
届いたグラスをみんなに配ったら開始だ。
予定通り永井さんが司会をしてくれる。
「みんな飲み物頼み終わった? 持ってるー?」
三澤さんが確認する。どうやらみんないきわたったようだ。永井さんに合図を送るとコクリと頷く。
「まず最初に乾杯の音頭を成仁に」
「えっ⁉」
速水君の予定じゃなかった? と目くばせをしたが、ニヤニヤしながらこちらに目を向ける。図ったな。
「よっ、幹事!」
話があったはずの速水君は煽るし!
「えぇと、今回はこんなに久しぶりの集まりにたくさん集まっていただいて恐縮です」
冷や汗が出る。早めに切り上げよう。
「みんな積もる話もあると思うし、ね! 前のグループとか関係なく、楽しんでいきましょう! 乾杯!」
『かんぱーい!』
グラスのいい音が鳴り、みんな一口目をいただく。中にはもうお代わりしそうな人もいるけど。
「永井さん? 幹事だからあんまり酔わないように」
「大丈夫だ、成仁いるし」
何の根拠にもなってないっすよ!
俺も席に座り、といっても席の端っこで空いたグラスをまとめたり追加のメニューとってたりする。うぅ、職場での下っ端時代を思い起こさせる。
「成仁君も飲んでいいんだからさ。幹事とかあんまり気にしないで」
廣井さんと恵が声をかけてきた。
廣井さんも以下略なメンバーで、眼鏡をかけて少しぽっちゃり気味な女性だ。昔はポニーテールだったが、今はショートにしていて暗めの茶に染めている。
「ありがとう。でも飲んでるし、一次会は飲まれないように気を付けないといけないしね」
恵はちょっと膨れたが、結局廣井さんと一緒になって席を移動させられた。
そこには保土ヶ谷君に細川、浅野さんもいる。大体ファーストフードでのメンバーだ。
「とりあえず飲もう」
俺の注文を聞いた浅野さんが、店員さんに注文してビールを持ってくる。
「ほぼ当時のメンバー集合にかんぱーい」
「かんぱーい」
グラスを少しずついただく。一気に行くとやばいからな。
それぞれに今どんな仕事をしているか、どんなアニメ見ているかを話したりする。恵もキャンプの時は話さなかったが相変わらずアニメを見ているらしい。ここでもうそんなの卒業しましたなんて聞いたら恵がもっと遠い存在に思えてしまう。
「今ってどんなのやってるの?」
最近あまりアニメは見ていなかっただけに情報収集する。異世界モノやほのぼの日常系、俺が見そうなものも教えてくれた。
「東北もある程度見れるようになってよかったよな。昔は宮城とか福島が強かったけど」
「BSがあって本当たすかるー」
昔はブラウン管調節したり天候に左右されて見れたり見れなかったり、なんてこともよくあったものだ。
すぐそばには速水君、橋田君たちがいて天然の漫才をして笑わせてくれている。この雰囲気、なんだか懐かしいな。
「そういえばみんな仕事は?」
浅野さんはバイトしてたとこにそのまま就職、廣井さんは実家の温泉宿に、保土ヶ谷君はコンビニのアルバイトらしい。勿論俺のことも話したが、鬱になって辞めたとまでは言わなかった。なんか鬱って言うとネガティブにとらえられやすいから。
「そういや成仁君彼女とか結婚は?」
向こうから混じってきたコユキと岡本さんが聞いてきた。唐突だなぁ。そしてそれ今日二回目。
「まだだし彼女もいないよ」
聞いてた女子がえーーーっと反応している。は?
「いや俺イケメンじゃないし」
「わかってるけど」
いやいやそれはそれで傷つくんだけど?
「成仁君優しいし、できてもおかしくないなーってね」
「いつもいい人止まりで終了お疲れさまでしたー、だよ」
ため息が出てきちゃうじゃないか。
それでも女子たちはきゃいきゃい楽しんでいるようだ。単純に恋バナが楽しいんだろうなぁ。
俺はしばらく遠慮したい気分。好かれたいとは思うけどさ。好かれる訳ねーんだな、これが。
「この中で結婚してるのってどれくらいいるの?」
手を挙げるのがまぁちらほら。七人くらいか。三澤夫妻、足笠夫妻はクラス内だからカウントがかぶってくる分人数少ないよな。
だからといってじゃあここでカップル作っちゃおうとは誰も言わなかったけど。
「なんだよ成仁彼女も出来てねーの?」
速水君と三人で練習組むこともあった山田君が絡んできた。
「だってさぁ、いつも俺からアタックかけてもフラれるだけだし、好かれることもないしさぁ」
やべ、言わなくてもいいこと言っちゃったかも。
「うっわ」
超ドン引きされたんですけど。
「お前気づかなかったの? マジかよー」
額に手を当て天を仰ぐ。そこまでオーバーなリアクションしなくてもいいだろ。
ってか気づかなかったのってなんだ? まさか滅茶苦茶嫌われる要素があるとか言わないでよ?
「それじゃ彼女もできねーわ」
「じゃあ山田君は?」
「同じジャンルのコスプレ仲間で彼女出来たぜ」
あぁ、山田君コスプレ得意だったからなぁ。
「成仁君も同人やってたじゃん。そう言ったつながりでは?」
コユキが話に入ってくる。
「いやぁ、過疎サークルだったしなぁ。二次創作してるころはそこそこ人来てくれてたけど、オリジナル小説やりたくなっちゃって。で、そしたらちらほら前のジャンルの時に来てくれた人もいたけど、あんまり来なくなっちゃった」
「世知辛いねぇ」
「そんなもんですわ」
保土ヶ谷君が終わりそうな会話に突っ込んでくる、
「これからは活動しないの?」
周りから期待されてるわけではないが、なんか注目されてるな。
「まぁ、ネタがあったらね」
「じゃあ、何かあったら手伝うね」
恵が言ってくれる。ありがたいか自宅まではちょっと遠いぞ? いやそもそも小説だったら手伝うことあんの?
「パケモンとかで本やってよ」
保土ヶ谷君のリクエストでやってるわけじゃないからな。
「いやー、見てたけどストーリー浮かばないと何にもかけないからさぁ」
そういえばコミケに来てくれたこともあったっけ。
保土ヶ谷君と浅野さんがパケモンのコスプレして、俺は俺で自分のやってた作品のコスプレしてたんだよな。
「そういや当時コミケに恵も来たよな?」
「うん、初めてで大変だったけど成仁君のコスプレも見れたし楽しかったよ」
確か本も買ってくれた気がする。
「あの時の本ってまだ持ってたりする?」
「持ってるよ」
恵がにんまりと笑顔を作る。恥ずかしい。
「下手だからあの、」
「大事にとっとくね」
ぐへぇ。取っておいてもらえるのはうれしいけどやっぱり恥ずかしいな、おい。
「話し戻すようだけどさ、最近声優の結婚多いよな」
細川が戻してきた。
「まぁ、隠してて後で落胆させてもよくないし、お似合いの人もいない?」
廣井さんも話す。
「まぁ隠してても何かあって報告したときに受け入れられるのがファンかな?」
個人的にはそう思う。
「あー、でも人としてどうかと思うようなことしちゃったらアウトだよ? 不倫とかダメ、絶対」
そりゃ当然だよーと特に女子から聞こえる。
「じゃあ成仁君は今はどの声優さんが好き?」
「男性は相も変わらず阪尾さんだけど、女性は阿隅さんかな」
ほうほうと男性が反応する。微妙だなぁ。
「俺は女性は伊澤さんだな!」
「あ、俺もーーー!」
あ、なんか同盟組んでるわ。
「じゃあ、成仁君の女性のタイプは阿隅さんなの?」
廣井さんが聞いてきた。
「いや、純粋にファンとしてだなぁ。あの人が結婚する時もなんかその少し前から雰囲気があったし、幸せになってくれたらいいなぁって思ったよ」
「やきもちとかフラれたとか無かったんだね」
恵が言う。あれ、いつの間にこの二人に挟まれてたんだろう?
「うん。あー、もしかしたら好きな人には幸せになってもらいたい的な気持ちはあったかも」
そうだねーと向かいに座ってた浅野さんが頷いて、
「で、成仁君の好みの女性って?」
関係なくねー? とは言わないけど、特にないんだよなぁ。
「ホント特にないんだけどな」
無さ過ぎて頭をかく。
そうなの? と両脇の二人の肩が落ちた気がした。まるで気があるようなそぶりだがそんなわけはないはずだ。
「成仁君モテモテだねー」
保土ヶ谷君はそう言ってるが全然そんなことはない。俺なんてモテたりしないからさぁ。この二人がここにいるのも、あくまでよく集まってたメンバーの中にいたってだけなんだから。
「んなことないよ、細川とか保土ヶ谷君は?」
そろって首を横に振る。うん、なんていうか、理由は想像つくんだけど、言うのはやめておいた方がよさそうだよなぁ。
「柏木もそんな話ないよなぁ」
細川がそう言って、ハッとなる。
「だれか合コン組んでくれない?」
「そういうのは自分で頑張って」
廣井さんから強く言われてゴメンゴメンと笑って返してる。うーん、ここにも女性がいるんだからアタックしてみればいいのに。
「コユキは仕事とかでそういうのは?」
「無いない」
そう言って首を横に振る。そういう付き合いは意外と無いらしい。
「男性向けゲームの仕事が多いからあんまり出会いが無いんだよねー」
そんなもんか、と思う。流石にファンと付き合うようなことは奇跡に近いレベルだろうしなぁ。
「女性ばかりの職場、みたいなもんか」
「そんなとこ。でもさ、この仕事ができるだけいいって人も多いよ」
確かに。デビューできるのはほんの一握りだ。ギャラやら何やらで生活していけずに結局引退してしまう人だって少なくない。そんな中、十年もバイトをしながらでもやっていけるのはすごいことだろう。
実際俺たちが目指していたのはそんな大変な世界なのだから。
「コユキは結婚願望とか、そういうのはないの?」
「経済的にも大変な、こんな相手でもいいなら考えちゃうかな」
「見た目とか性格は気にしないの?」
「二の次三の次かな。ま、それ以前に今の生活でいっぱいいっぱいで考えもしてないんだけどね」
なるほどな。声優としてやっていくことが第一になるとそうなるのか。
「成仁はまず目の前に気づくことが大事だと思うよ?」
コユキに言われたことはよくわからないが、廣井さんと恵が眉間にしわを寄せていることはわかった。
「成仁君、コユキさんに興味あったの?」
「え、そういうわけじゃないけど」
恵はすねるような態度でつぶやく。
「じゃあもうちょっと見てくれてもいいじゃん」
何をだ?
向かいの浅野さんは苦笑いをしている。なんだってんだ。
「成仁、二次会どうする?」
「バラバラになると思って決めてないよ」
細川から聞かれて当初の予定をこたえる。
「じゃあさ、久しぶりにこのメンバーでカラオケいかね?」
「いいよー。でも一応みんなの予定も聞いてからな」
クラス委員で少し話し合い、時間も来ているのでここは一旦お開きにし、各々二次会や帰宅することにした。
「じゃあここはとりあえず解散にしまーす。極力残さないようにしていってくださいねー」
みんな元気に返事をし、残ってるグラスを空けたり外に出ていく。
「カラオケ行く人はこっちに集まってー」
俺が手を挙げると約半数の人が集まった。かなり意外だ。
帰るのは結婚している人と、佐藤君のグループで、他はもともとカラオケに行くつもりだったのだろうか。佐藤君は別に居酒屋に電話している様子だった。
「じゃあ、みんな気を付けて。またいつかね」
「また同窓会開いてね」
こっちはこっちでカラオケの場所とらないとな。
「呼び込み捕まえる?」
「私電話してみるよ」
浅野さん頼りになるわー。保土ヶ谷君とは正反対だとは口が裂けても言えないけどな。
ほどなくして二部屋でいいなら、ということで場所が取れた。
二次会という名のカラオケに集まったのは俺にとってのいつものメンバーに東京組と数人だった。
「意外とみんな来るね」
「せっかくの同窓会なんだし、勿体ないじゃん」
こうやって気軽に話せる間柄が集まってるというのを実感できる。
「これも成仁の人望だぞ」
速水君はそう言ってくれるが、俺なんて大したことないと思うんだけどなぁ。なんでそう持ち上げるんだ。金はないぞ。
「とりあえず適当に男女混合で別れよう。入替するときボッチにならないように」
「せんせー、入替は適当でいいですかー?」
「好きな時に代わってー」
多少ふざけあいながら部屋に入っていく。
と、その前にコユキから袖を引っ張られ、小声で会話する。
「ね、クラスで気になる人とかいなかったの?」
「んー? いなかったなぁ。目の前のことでいっぱいだったよ」
正直に答えたが、恵のことは多少気にしてる。でもハードル高いよ。
コユキがため息をつく。
「じゃあ、今も誰もいないのね?」
「そうゆうこと」
「あーあ、勿体ない」
そう言ってコユキは部屋に入っていった。勿体ないって誰のこと?
俺の入った部屋はコユキに橋本君、岡本さんなど。そういや全体的に女性の比率高いな。
「じゃあ早速だけど私から入れてくねー」
コユキが最新のアニソンから入れていく。タッチパネル式のリモコンを時計回りに回していくようだ。
「なんかこのメンバーでカラオケ入ったことないから新鮮」
いつものメンバーでしかカラオケに行ってなかったせいか、ちょっと緊張する。
俺はちょっと昔のアニソンを入れていく。
「あー、これすごい流行ったよねー」
などと、その当時の流行ややっていたことなどを振り返ったりしながらも途切れることなく進んでいく。
メンバーは違くとも気疲れしないってのはいいな。
「私、渡×友派だったよ」
「わかるわかる! 渡が攻めじゃないとねー」
うん、こういう話ができるのもこのメンバーだから、だよね?
一人二曲ほど歌うと少しずつ入替が発生してくる。
「成仁はこのままね」
全員が入れ替わると元通りになってしまうので俺とコユキはそのまま残り、他のメンバーが入れ替わってくる。こちらにも入れ替わりで人が入ってくる。殆どいつものメンバーになった。
「成仁、久しぶりにあれ歌おうぜ」
細川が入れたのは、当時のメンバーでよく笑わせていた曲だった。あー懐かしいな。単純でいいわ、こいつ。
「俺も入れていい?」
保土ヶ谷君からもリクエストがあって一緒に歌う。うん、女性からのリクエストがあればうれしいとこなんだけど全然ないね、はっはっは、はぁ。
人数がいると歌える曲数に限度があるので、ついつい何を入れるか悩んでしまう。
誰も選曲がない間にコユキが話す。
「そういえば成仁、キャンプ行ったんだって?」
誰からそんなことを、と言おうとしたが一人しかいない。恵か。
「あぁ、ちょっとやりたくなっちゃって」
その話に乗っかるように保土ヶ谷君も話し出す。
「それってあの漫画の?」
「まぁ、もともと興味があったところで、きっかけになったのがそれだね」
「楽しかった?」
「あぁ。恵とも二人でキャンプして、いろいろ話したり料理も美味かったしな」
「ふぅ~ん、そうなんだぁ」
浅野さんが意味深な視線をしながら言う。
料理を褒められてうれしいのか恵が顔を赤くする。
あ、二人でって言ったからそう思われたのか。
「あ、でも別に他意があって二人で行ったわけじゃない。なんか話の流れでそうなった感じ」
それを聞いた恵がカクテルの入ったグラスを一気に煽る。
「え、大丈夫か?」
「大丈夫だよぉ。カラオケのカクテルなんてどうせ薄いからぁ。それよりおかわり!」
なんかやけみたいな感じだな。どうした?
「いいなぁ、私もキャンプしたいな」
廣井さんも話に混ざってきた。なんだか話が中心になって歌ってる人いないんだけど?
「成仁君、僕もキャンプ行っていい?」
保土ヶ谷君まで混ざってきた。
「待って待って、みんな道具とかある?」
恵以外が持っていないようだ。
別に一見さんお断りとは言わないが、ある程度買おうとすると高くなる。まして冬用装備ならなおさらだ。
「あれ、最近ってグランピングとかない?」
コユキが助け舟と思ってか、発言する。
「あれめっちゃ高いよ。キャンプしてる気になるかも怪しい気がするなぁ、豪華すぎて」
「たしかに、カタログで見ただけだけどすごいよね、中身も値段も」
廣井さんが残念そうにするので何かないか考える。
「あぁ、そういえば冬季でもやってればなんだけど、コテージとかどう? それならホテルに泊まるくらいの値段で済むと思うよ。テントもいらないし、ご飯とかは自分たちで作るから、キャンプというかわからないとこだけど、自分たちで何かしらやるからね」
「それなら冬だし、初心者にはいいかもね」
恵も同意してくれる。
「仮にコテージ泊やるとしたら、どれくらい来る?」
試しに聞いてみただけだが七人もいた。あまり積極的でなさそうな宮川さんもいる。
「柏木も来ると思えば八人じゃねー?」
確かに行きそうだな。明日になったらラインしてみるか。
「じゃあーこのメンバーでグループ作っちゃうか」
「そだねー」
浅野さんがグラスとかを片付けてくれる。
「あ、ごめん」
「いいのいいの。それより幹事さんご苦労様ってことで、もうちょっと飲んでもいいんだよ?」
「調子に乗って飲んじゃうと寝ちゃうからさぁ」
恵とのキャンプが記憶に新しい。
「男手はあるよ?」
保土ヶ谷君が細川をさしていう。自分じゃないのかよ。
「ホテルは多分ばらばらだからね。ホテルに帰れるくらいには何とかするよ」
カラオケを出ると恵はふらついていたので浅野さんと二人でホテルに連れていくことにした。
「恵、ホテル名覚えてる?」
「ぅんと~、コンポートホテルの503」
俺が肩を貸し、浅野さんが補助をしながら連れていく格好になっている。
「それにしても飲んだね、今日は」
キャンプの時には俺がつぶれたが、今回は恵が。何か酔いつぶれてしまうようなストレスでも抱えていたか。
「だって全然気づいてくれないんだもん~」
「何を?」
と、質問する俺と恵の顔が近い、近い! 緊張しまうよこれは。
恵はガクッとうなだれて
「何でもない」
とだけ答えた。何だったんだろう。
浅野さんはよしよしと恵の頭を撫でながらたどたどしい俺たちを導いていった。
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