6話 アングレット港内の戦い
王国歴216年 11月6日02時59分
戦艦フィーア 指揮所内
「左舷方向に艦影視認!」
出航しドックを出た直後、見張り員から報告が入った。
急いで首からかけていた双眼鏡を手に取り、艦影を確認する。
「あれは…さっき軍港で見た…」
巡洋艦ヘイルダムと駆逐艦ディアナ。
ヘイルダムは王国海軍の象徴とされ、艦隊旗艦を務めている艦である。
ディアナもヘイルダムの僚艦として哨戒任務を行っており、海軍の中ではヘイルダムに次いで優秀と言われている。
「まさかこんな形であの二隻と艦隊行動をすることになるとはな…ってラース?」
「クルト……俺は今猛烈に感動している。このフィーアでヘイルダムと共に航海できる日が来るなんて!」
そういえばコイツは女好きである以前に軍事オタクでもあったな…。
目を輝かせながら双眼鏡でヘイルダムを見ているラースを注意しようか悩んでいると
見張り員から今度は緊迫した様子で報告が入る。
「後方!要塞からの砲撃です!」
「何だと!」
オルリック艦長の驚き声の後、少しして砲弾の風切り音がし始めた。
「回避行動!面舵一杯!」
操舵手が急いで舵を切る。
風切り音が更に大きくなり、砲弾はフィーアの左舷前方に着弾した。
大きな水柱が上がり、水が激しく跳ねる音が聞こえる。
ヘイルダムとディアナも砲撃されたのか、回避行動を取っていた。
「どうやら陸軍は本気で沈める気らしいな」
アングレット要塞は帝国の陸からの侵攻防ぐ目的のほか、海からの脅威に対しても無数の要塞砲と海岸砲が目を光らせている。
しかしその砲は今、友軍であるはずの王国海軍に向けられていた。
「第二射来ます!」
「取舵!」
今度は艦の前方で砲弾が着弾した。
「流石はカルステン将軍。針路を塞いで俺達を湾内から出さない気だ」
「うちの艦長も負けてないけどな。フィーアの大きい船体でよくよけてる。これは実力を隠してたな」
「普段の昼行灯ぶりをみると想像もできないよな」
「お二人とも!戦闘中ですよ!」
「ヘイルダム後部に被弾!」
「「「!」」」
ヘイルダムは後部の第二砲塔に砲弾が直撃したらしく、炎上しながらも航行を続けていた。
このままではやられる。誰しもが考え始めていた。
戦況を打開するにはもはや…。
「艦長!自分に考えがあります」
「……続けてくれ、クルト少尉」
「艦隊が離脱するまでの時間を稼ぐ為、【アクアストライダー】を使用した敵砲台の攪乱を具申します」
【アクアストライダー】は先月フィーアに搭載された、自立水上4脚滑走機と呼ばれる4つの脚先に付いているフロートで海面に浮き、海上を自由自在に滑走することが出来る新兵器だ。
アメンボのようなその見た目は機動性と重量の軽量化に設計の重きが置かれ、搭乗員の安全性や機体の強度を引き換えに脅威的な運動性能を実現している。
「よせクルト!。あの欠陥試作機を使うのかよ…。命がいくつあっても」
「大丈夫だラース。ただでさえ暗い夜の海だ。アクアストライダーの機動性なら敵もそう簡単に照準を合わせられない」
「砲弾直撃コースです!」
「ッ!取舵一杯!衝撃に備え!」
フィーアの艦首付近に砲弾が着弾する。直撃は免れたが艦が激しく揺れる。
「艦長。俺にやらせてください!」
「……リスクはありすぎるが他に妙案はないか。クルト少尉…頼まれてくれるか」
「了解!」
俺は指揮所を飛び出し、急ぎ後部甲板へ向かった。
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