2話 世話焼き幼馴染おねえちゃん

王国歴216年 11月5日19時00分

アングレット要塞自治領 中心街


アングレットの中心は歓楽街となっており、ここには戦闘が終わった兵士や取引が終わった商人などでなかなかの賑わいをみせていた。

軍港から出る際にラースからナンパの協力を頼まれたが失敗する未来しか見えなかった為、優しい顔で断ったのだがラースは哀れみの成分を感じたらしく、

「俺をそんな顔で見てんじゃねーよ!」と言って一足先に歓楽街へ消えていった。

俺は比較的空いている酒場を見つけ、入店した。


「いらっしゃいませ。何名様ですか?」


「1名です」


店員の案内に従い窓際の席に座る。


メニューを見ていると店の奥からブロンドの髪をなびかせたウエイトレスが他の客の注文を取りにやってきた。なかなかに可愛い。

目を奪われていた直後、背後から聞きなれた声。


「クルトってブロンド髪がタイプなんだ…お姉ちゃん残念だなぁ」


振り向くと近衛の制服を着た茶髪の美人がいた。


「ミアか。脅かすなよ。あと俺の女性の好みについて勝手に解釈するな」


「じゃあクルトはあのウエイトレスの娘と付き合いたいと思わないの?」


「別に…」


「そうだよねクルトは昔から私の事が好きだったもんね」


「あのなぁ」


ミアは昔から俺の言うことを自分の都合のいいように解釈する困った奴だ。

ここは話題を変えるか。ミアが向かいの席に座ったと同時に俺は話題転換を試みた。


「そういえばミア、近衛の仕事はどうした?」


「今日の仕事は終わったよ。団長がカルステン将軍と晩餐会に行ってるからね。」


「なるほど。道理で忙しい近衛の団員が数多く出歩いているわけだ。」


「そういう訳だからクルト、今晩は私に付き合ってよね。」


そう言ってウインクしてきたミアの顔を脳裏に焼き付けながら返答を考える。

一度言い出したら聞かないのもミアの困ったところだ。

断って酒場で泣かれようものなら近衛の美女を泣かした海軍軍人としてアングレット中に噂が広まることだろう。


「分かったよ。久しぶりに会えた訳だしな」


「ありがとうクルト‼️」


突然抱き着いてくるミア。直後に感じる店内の男連中からの嫉妬・羨望の眼差しに耐え切れなくなった俺は頼んでいたビールを一気に飲み干し、ミアを引き剝がす。


「離れてくれミア…。今日の帰りに俺は夜道で刺されて死ぬかもしれない」


「大丈夫。クルトは私が守るよ。この剣に誓ってね」


ミアは低い声色で呟くように言い、近衛騎士団の証である剣の柄を撫でる。


「おいおい冗談だよ」


相変わらずの過保護ぶりに嘆息しているとミアがいきなり決意した表情で目線を合わせてきた。


「クルト…私はやっぱりクルトのことが…本気で」


「お待たせしました!。ザワークラウトとソーセージの盛り合わせです。」


ミアが次の言葉を紡ごうとした直後、タイミング悪く料理が運ばれてきた。

シュンとした感じで肩を落としながらソーセージを食べ始めたミア。

かくいう俺も言葉の続きを聞くのに躊躇いがあり、その後は他愛のない話をして酒場を出ることとなった。

酒場を出た俺とミアは繁華街の表通りをゆっくりと歩く。


「…クルト、これから私の部屋に来ない?」


ミアはもう一度勇気を出したのか、俺の顔を見て先ほどと同様の決意した顔で言った。


「ミアの部屋にか?」


俺は驚きつつもどこか期待している自分がいることに気づき、不思議な気分になった。

行きたい。行こう。返答しようとした矢先。


「ミア中尉!」


後ろから息を切らせた近衛団員が走りながら声を上げた。


「どうしたの少尉」


ミアは今までの姉の表情から近衛団員の表情に変わる。


「2番街の酒場にて近衛団員と陸軍兵が一触即発の状態でして、中尉にも仲裁にご助力頂きたく」


「全く何をやって…。至急現場に向かいます。少尉案内して」


「了解しました」


「ごめんねクルト、今晩はダメみたい。また今度にしよ!」


ミアは振り向きざま名残惜しそうにそう言い残すと少尉と共に走り去って行った。

1人残された俺はその場で溜息をつくと、少しでも期待していた自分を忘れるべく軍港へ駆け出した。

軍港にある海軍宿舎へ戻ると、1階ロビーのソファーでラースが突っ伏して寝ていた。

近くに酒瓶が転がっているのを見る限りナンパにことごとく失敗しヤケ酒した末にソファーで寝てしまったのだろう。

一応親友だし、こいつに風邪をひかれると俺が2人分の仕事をやる羽目になる。


「仕方がない奴だ」


俺は自分の部屋から予備の毛布を取ってきてラースに掛けてやってからロビー内の空いてる椅子に座り今日の出来事を振り返りながら悶々と夜を過ごした。

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