第八話 再捜査

 藤さんから連絡が来たのはその数日後の夜だった。


 スマートフォンの画面に知らない番号が表示され、無視を決め込んでいた俺に留守電越しに『マスク美人って知ってるか?』と告げた。忘れるはずもない藤さんの声に慌てて通話をスライドさせる。

「突然どうしたんですか?」

 なぜ番号を? と聞きそうになってやめた。自首した時に住所も電話番号も指紋も全部提出済みだった。危ない。

『いや、だからマスク美人だよ。うちの妻。今日初めてマスク姿を見たんだが、若手人気女優並の美人だったんだ。もう驚いちゃってどんな魔法使ったのかと思ったらだっていうんだ』

 言葉に詰まる。昨日今日の知り合いに突然妻自慢されても、どう反応したらいいのか全く頭に浮かばない。

「あの、ご用件は?」

『再捜査をする』

 藤さんは興奮冷めやらぬまま、つとめて声を低くする。

「言っちゃっていいんですか? 関係者は全員容疑者なんじゃ……」

『正式じゃないから大丈夫大丈夫。それに勘だけど鳥井さんが鍵になる気がしてね』

「そうですか」

『明日また証言お願いね。今度は隠さずより鮮明によろしく』

「……はい」

 それが俺の精一杯。


 スマートフォンを置いて天井を見る。

 首を横に捻るとそこに彼女との思い出が飾られている一角がある。

 もちろんそこには事件当夜に拾ったイヤリングも並んでいる。

 彼女は犯人ではない。

 それが現実味を増してするりと臓腑に染み渡る。ずっとのどにつかえていた物が取れて、大きく深呼吸する。

 少し脳の霧が晴れた気がした。


 だがまた新たに一つ何かが引っ掛かる。


 その直後、通知音と共に後輩からメッセージが届いた。

『先輩、今日も作ったので外にお弁当置いておきますね。少しでも食べてくださいね』


 最近こうして後輩がお弁当を作ってくれたり掃除や洗濯までしてくれようとする。さすがに断るのだが、そうすると今度は漫画を貸してくれと言って現れる。

 婚約者がいるのは分かっているだろうに、この押し掛け女房っぷりは完全に彼女に誤解されかねない。

『やめてほしい』ただその一言を俺は伝えられずにいる。

 彼女の厚意もあるし、彼女自体俺の世話を焼くことで葉山さんの心配や事件に対する不安を置き換えている一面があるようだった。

 彼女はよく葉山さんの真似をしていた。

 そんな彼女にとって葉山さんが捕まったのは誤認だとしてもどんな影響を与えたのだろう。


 現に彼女はあの事件以降

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