第7話 立て篭もった2人

「失礼いたします陛下。 宴の準備が整いました」


 部下が帝王の自室に入り、報告を入れる。


「やはりお主、頭とか打ったんじゃないかのぅ?」


 部下が以前とは違い、素晴らしい態度すぎて気持ちが悪い。何かやらかしたのかと、勘ぐってしまう。


「男はもう食事場かのぅ?」


「いえ、その、ただいまはあのお方は……」


 何故か部下は口を閉じ、表情を曇らせた。やはり何かやらかしたのかと思い、帝王は怪訝そうな表情になる。その表情に部下は気が付き、口を開いた。


「治療が済んだため、異世界の男を食事場まで案内したのですが……治るやいなや立て篭っていた異世界者と言い合いになりまして……」


「何じゃと? それで、今どうなってるんじゃ?」


 調理場横の休憩室に立て篭もってる警備員ガードマンは基本、川屋以外で外に出ることはないのだ。そのため、帝王は驚いていた。


「……何故か2人で休憩室に立て篭もってしまわれました」


「……は? 何じゃと? 意味がわからんのじゃが?」


「どうやら彼らの故郷は同じところだったようでして……意気投合した後、休憩室に2人で入ってしまいました」


 部下は申し訳なさそうな表情でボソボソと帝王に伝えた。


「それはお主のせいではないのぅ。 どれわしが一度、話してみるかのぅ」


 帝王と部下は食事場横の休憩室に向かうことにした。


ーー部下と帝王は休憩室入口の前まで来た。部屋からは物音がしなかったが帝王は声をかけることにした。


「わしじゃ帝王じゃ。 先日わしらの召喚によって呼ばれた者よ、挨拶をしたいのじゃが」


 帝王はドアの前で声をかける。ドアについている小窓が少しだけ開いた。


「あなたが帝王様ですか? この度は私をこの世界に呼んでいただきましてありがとうございます」


「お主が先日召喚された者じゃな? 名前を聞いてもよいかの?」


「私は剣一起けんかずきと申します。帝王様のお名前頂戴……お聞きしてもよろしいでしょうか?」


 剣一起は丁寧な口調で帝王に自己紹介をした。


「お主はケンカズキと言う名じゃな、よろしく頼むのぅ。 わしはこのディスピカボー帝国の帝王、名はテイオウ・イデオットじゃ」


「私は陛下の右腕の部下、名はブカ・ストビットと申します。 ケンカズキ様はこの帝国のために異世界から召喚したのでございます」


 帝王に続いて部下も名乗り、召喚したことを説明した。


「この帝国のため……それは戦争のためですか?」


 剣一起の声は震えていた。異世界から召喚された理由が戦争のためだったと言う事実。それに対し、帝王は少し反省していた。しかし召喚した以上、帝国のために働いてもらわなければならない。そのため帝王は慎重に言葉を選んで話しかけようと考えていた。


「おい! 早くその部屋から出なさい! 陛下がお前らのために食事を用意してくれたのよ!?」


 いつの間にか帝王の後ろに立っていたメイド長が部屋に向かって怒鳴りつけた。


「あ? この前のパワハラメイドコスプレじゃねーか!? それなら早く俺たちに飯を寄越せよ!」


 ドアの奥から剣一起ではない声が聞こえた。立て篭もっていた男の声だった。


「毎日毎日! 掃除を手伝えだのなんだのって、うるせーーんだよ!」


 立て篭もった男は苛立ちを見せ、それに伴いメイド長の眉が吊り上がる。


「お主は一番最初に召喚した者じゃな? 名は何と申す?」


 メイド長が大きい鉈でドアを壊そうとするのを止めつつ、帝王は優しく話しかけた。


「てめーのせいで俺の生活がパーになったんだよ! おめーなんかに名前なんて教えてやんねーよ! 検索して探せよ情弱者が!」


 もう1人の男は憤慨し、話にならなかった。


「これは困ったのぅ……そうじゃいいことを思いついたのじゃ!」

 

 そこで帝王が秘策を思いつき、実行することにする。


「お主ら、何か欲しいものはないのかのぅ?条件を設定すればお主らの欲しいものを召喚することができるやも知れん」


 帝王は先日、異世界の物を召喚したことを思い出したのだ。


「私たちの欲しいものですか……安寧の日々ですかね〜〜」


 剣一起は答えた。なぜかその言葉には重みがあった。


「俺は早く元の世界に戻してくれよ!! 元の居場所が俺は欲しいんだよクソが!!」


 警備員ガードマンは懇願していた。


「わかった、わかったのぅ……それではお主らの代わりに魔王軍にも引けを取らない、屈強な兵士がいたら教えてくれんかのうぅ。 そうしたら元の世界に戻せるように術式を考えるように召喚術者たちに伝えるとするからのぅ」


 帝王はこの二人には愛想を尽きていた。魔王軍と戦わせられるほど強くはないことがわかってしまったのだ。


「魔王軍にも引けを取らない屈強な兵士!? んなもんもわかんねぇのかよ!」


 警備員ガードマンは声を荒げ、ドアに近づいてきた。


「お主、そんな兵士を知っておるのか! 詳しく教えて欲しいのぉ!」


「その代わり、教えたら俺を元の世界に戻すことが条件だ! いいな!」


「わかったから、できるだけ細かく教えて欲しいのぅ」


警備員ガードマンはドア越しに屈強な兵士の特徴を述べるのだった。

 

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怪異転醒 マインドフルネスERA @gennki1031

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