第5話 生まれ変わった部下

「……陛下、ただいまお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」


 部下が帝王の部屋をノックした。


「え? 急にどうしたんじゃお主。 変わりすぎて気持ち悪いんじゃが……」


 帝王が寒気を感じていると部下はドアを開け、一礼をしてから入ってきた。


「大変お忙しいところ私にお時間を割いていただき、ありがとうございます」


「……いや、寝る前にじゃから忙しくはないのじゃが」


 帝王は寝巻きに着替え、寝る準備をしていた。


「お気遣いのあるお言葉、痛み入ります」


「……ちょっと本当に気持ち悪いんじゃが、あと今寝る時間直前なんじゃが」


 帝王が寝る時間寸前だということには全く触れず、部下は話し出す。


「今度は陛下が間違いなくお喜びいただける物を召喚致しましたので、そのご連絡をと思い参りました」


 部下は深く頭を下げ、報告を上げた。


「……また誤った召喚であればお主のクビ、メイド長に取られるんじゃぞ? それでもわしに見てもらいたいんじゃな?」


 帝王は確認した。念を押したのは生まれて初めてかもしれなかった。


「今回召喚したのはで御座います、陛下には喜びいただけるものかと……」


「本当に見ていいんじゃな? どれどれ、見てみるかのぅ」


 帝王は重い腰を上げ、寝巻きのまま自室から出た。


ーー部下は帝王を食事場の奥にある調理場まで案内した。


「……こちらの品物で御座います陛下」


 調理台に置いてあった布を取り、品物を帝王へ提示した。


「これは……なっがい包丁じゃのぅ!? こんな細くて長い包丁は見たことないのぅ! これはなんじゃ?」


 帝王は2尺3寸(約69cm)ほどある刃物を掲げた。


「申し訳ありません陛下。 異世界にある世界最高峰の切れ味を持つ武器を召喚したので名前までは存じ上げておりません」


「しかし、こんな細い包丁じゃ、料理には使えないじゃろうし……動物も捌き難くてでしょうがないのぅ」


 帝王が長い包丁の使い道を考えていると突如、調理場から休憩室に繋がっている小窓が勢いよく開いた。


「それって言うんだよ。 調理に使う代物じゃねーわ。 人体スパスパ切る武器だわ……この情弱者が!」


 調理場横の休憩室引きこもっていた警備員ガードマンがマウントを取ってきた。最後の捨て台詞は言い慣れていそうだった。


「カタナと言うのかこの武器は……あとジョジャクシャとは一体?」


 帝王が呆気に取られる。


「どうやらこの武器はカタナと言うようでそれを扱う者らをジョジャクシャと呼ぶのではないでしょうか?」


 部下は大きく飛躍した考えを述べた。


「なるほどのぅ、このカタナを持っているわしはジョジャクシャと言うことになるのだのぅ! なんかいい響きじゃのう!」


 褒められた感覚に陥ってしまった帝王は刀を振り回した。帝王の筋力と相まって振るう際にビュンビュンと音がした。


「よっ! ジャシャクシャと言えば陛下! 横に並ぶジョジャクシャなど陛下以外にはおりませぬ!」


 調子に乗る帝王とその部下。そのどちらもアホだったことに笑いを堪えられない警備員ガードマンであった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る