第3話 静けさの泥棒

 カーテンの隙間から朝日の木漏れ日が帝王の部屋にこぼれる。


「んぁぁあ……今日は久しぶりによく眠れたのぅ」


 帝王は起き上がってカーテンを開け、朝日を全身に浴びる。帝王の鍛え上げられた筋肉質な体が日に照らされ、ギラギラと反射した。

 窓から、メイドたちが常日頃手入れをしている庭を見る。花壇に咲いている花たちは生き生きと風に揺れていた。


「嗚呼……こんなに気持ちの良い静かな朝はなかなかないからのぅ。 こんな日がずっと続けばいいのにのぅ!」


 帝王が花壇を見て安らいでいると突如玄関から男飛び出してきた。


「ウッヒョーー! 会社もないクソ上司もいない! この世界は最強最高だぜーー!」


 ワイシャツに黒いズボンを着たメガネの男が叫びながら庭を駆け抜ける。


「……………」


 帝王は開いた口が塞がらなかった。ちょうどその時、ドアがノックされる。


「陛下失礼します! 取り急ぎと言いますか緊急のご用件で!」


 部下は慌てた様子で部屋に入ってきた。


「いやもう……あれやろ……え? 生真面目な異世界者、呼んだんじゃろ?」


 帝王は現実が受け入れられず、頭が真っ白になっていた。

 外では庭を荒らされたことにブチギレたメイドたちが様々な武器を持って男を追いかけて行く。


「あの男は生かして捕らえるのよ! 生きていることが嫌になるほどの後悔を叩き込んでやるのよ!」


「「イエス!! マム!」」

 

 メイド長の掛け声と共にメイドたちが血眼になって男を追う。


「もう俺はフリーダムなんだよ! 邪魔するんじゃねー!」


 普段は温和なメイドたちが声を大きく荒げ、駆け抜けて行った。

 庭には誰もいなくなり、先ほどとは異なる静けさが戻った。帝王は部下を見つめたまま、開いた口を閉じれないでいた。


「……陛下、次はどのようなものをお呼びになりますか?」


 部下は目を逸らしつつ帝王に問いかける。額は冷や汗でぐっしょりと濡れていた。


「……一旦異世界から召喚するのは、やめにしようかのぅ」


 帝王はベットに倒れ込むのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る