第9話 代表チーム選抜戦
それから10分ほど話し合いをし、俺たちのチームは簡単な陣形を決めた。
まず最前線は《ディフェンダー》の福西。
耐久力の高い彼に敵の攻撃を集めてもらう。
その後ろに《オールラウンダー》の天藤。
天藤は敵陣への攻撃を中心に行う。また状況に応じて、福西のカバーや遠距離からの魔法攻撃と幅広い役割をこなす。彼女は自ら志願して、この一番大変な役割を引き受けた。
そして《マジシャン》の俺と《アーチャー》の月島は遠距離から天藤、福西の援護に徹する。
一匹狼の上杉のことはわからない。
あいつはいないこととして陣営を決定した。今の4人の陣営に足りないポジションは機動力と攻撃力に優れた《アサシン》。もし上杉の得意な役割がそれであるなら、この上なくラッキーなのだがな――まあそんな都合のいいことは起こらないだろう。
「それでは作戦タイム終了だよ。みんな集合してくれー」
中山の呼びかけにクラス全員が再度グラウンド中央のホワイトボード前に集合する。
見たところ、作戦会議以外にも実戦の練習をしているチームもあったようだ。グラウンドの砂利でジャージが汚れている。
「この戦いで優勝したチームに代表チームを任せようと思う。みんなぜひとも全力で戦ってほしい!」
中山が力強い言葉でクラス全体を鼓舞する。
それに呼応するようにクラスメイトたちはおおっーと盛り上がる。
何せポイントが関わっている。
夏までに最低でもポイントを+10ポイント以上の状態にしておかないと、エアコンなしで夏の授業を乗り越えなければならないからな。
次のバトル・ロワイアル大会はF組にとっては重大な問題。
入学式試験のような失態は許されない。
危機感のようなものをクラスメイトたちはしっかりと感じているのだろう。
「それでは第1試合。岸田チームVS高木チーム。該当するチームメンバーはそこのエリアに集合するように」
どうやらホワイトボードの裏側の空いたエリアで試合を行うらしい。数十メートル四方なので、遠距離攻撃も問題なく活かせる広さだと思う。
観戦者は邪魔にならないようにホワイトボードの近辺に集まる。
そしてまもなく第1組目の両チームが整列する。
「よお高木。悪いがオレたちが勝たせてもらうぜ」
「俺も岸田のチームに入りたかったのによお」
高木という中肉中背の男子は岸田グループの一人だ。
彼のチームの男子は3人とも岸田グループで結成されているらしく、岸田チームに次ぐ優勝候補のチームだ。
1組目から実質的な決勝戦だ。
「オレ、吉野、中山。そして女子は沢村に水原だぜ。今回はガチで選りすぐりのメンバーを集めさせてもらった。このチームならA組を倒すことだって夢じゃないぜ!」
岸田はフンフンと鼻をならす。
「あれが岸田君チームね。なるほど、見事に優秀なアタッカーが揃っているわね」
バトルエリア入りしたことで出場者の使用武器化明らかになったところで、隣りに座る天藤が冷静に岸田たちのチーム分析をはじめる。
前衛は両手剣を使う岸田と、素手の沢村、短剣使いの吉野か。
3人とも汎用的な《アタッカー》だ。
中衛には天藤と同じく《オールラウンダー》の中山。槍使いか。
後衛は《マジシャン》の水原。
5人中4人が《アタッカー》と《マジシャン》の攻撃職に偏っている。
「あー。こりゃ中山大忙しだろうな」
そんな言葉も出てしまう。
「天藤さんはあのチームの中で最も警戒すべきなのは誰だと思う?」
後ろに座る福西が天藤にそう尋ねる。
「そうね。やはり中山君ね。彼がチームの司令塔として動くだろうし、聞いたところによると補助魔法も習得しているみたいだから。真っ先に叩くとすれば彼だろうけど、中山君は1on1もそれなりにできるから」
「1on1のできるサポーターは強いよねえ。天藤さんとは違った強みのある《オールラウンダー》ってことだね」
「あなた彼の友達なのよね? 何か彼の弱点を知らないの?」
「ごめんわからない、中山君は凄すぎるから。優しすぎるところが弱点?なのかなあ」
「なるほど参考になったわ、つまりその優しさに付け入る隙があるというわけね」
天藤と福西が中山対策について白熱した議論をしている。
どうやら福西は天藤と打ち解けたらしい。
さすがプーさんと呼ばれるほどの愛嬌を持った福西だ。
まさかこんなに早く天藤とコミュニケーションをとれるようになるとは。
そんな一方で、福西の隣で気まずそうにうつ向いている少女が。
月島はうまくチームに溶け込めないみたいだ。
上杉と違って自分の意志で孤高を貫こうとするタイプではないことは、一緒にこうやって観戦してくれているところからもわかる。
引っ込み思案なせいで、うまく他人と話せないタイプ。
俺と似たような人種だ。俺も岸田チームに放り込まれたら、彼女のようになる自信がある。
チームの結束を深めるためにも、ここは彼女に気を利かせよう。
「そういえば月島は弓を選んでいたな。普段から弓を使っているのか?」
「え、あ、ううん、使わないですよ。そもそも戦わないですし」
正確なコントロールが難しくかなりの技術を要するため、弓もどちらかといえば少数派の武器なんだがな。
ということは天藤の邪魔にならないように遠距離攻撃ができる弓を選んだというだけか。
「苦手なことでも向き合うことは大事だ。はっきり言うとお前は成長するチャンスを逃しているように感じる」
「ご、ごめんなさい!」
月島は反射的に頭を下げる。
「いや、怒ってないが。ただチームとして戦う以上精一杯頑張って欲しいだけだ。それがきっとお前の成長になると思う」
「あ、ああ、ありがとう。頑張ってみます!」
月島に少し笑みがこぼれた。
「ふーん、桜之宮君って月島さんには優しいのね」
隣から嫌味が飛んできた。
「事実を言ったまでだ」
上杉が制御できない以上、月島が戦力になってくれるかどうかでうちのチームは大きく変わる気がする。
確証ではないが彼女には隠れた才能があるのではいかと思っている。
そうでないと、ここまで戦いに消極的な彼女がこの学校の門をくぐることができるはずないからな。
さて、そうこうしているうちにいよいよ第1試合が始まったわけだが。
試合は5分とかからなかった。
結果は岸田チームの圧勝だった。
中山の補助魔法を受けて強化された岸田と沢村が敵陣に突っ込む。
誰一人ノックアウトされることなく、圧倒的な武力で敵陣を殲滅した。
「よっしゃああ! 勝利いい!」
「アタシたち最強じゃああん!」
勝者の岸田、沢村がワッハッハと元気な雄たけびを上げ、負けた側の高木はガックリと肩を落とした。
そんなこんなで試合は進んでいき、いよいよ俺たちのチームの番だ。
「第4試合。天藤チームVS瀬田チーム」
チーム名が呼ばれると、俺たちは戦場へ移動する。
相手は瀬田チーム。
瀬田チームも俺たちと同じく、どこのグループにも属さない無所属たちだけで構成されたチームだ。
リーダーは瀬田希という女子。
クラスの女子の中でも沢村に次ぐ背の高さと、ウェーブのかかった長めの黒髪が特徴だ。
彼女とは話したことがないのでどんな戦術が得意なのかはよく知らない。
ただ目の前で整列している彼女はどこか気だるげそうにしている。
「対戦よろしく、瀬田さん」
「ん、ああ。こちらこそよろしくね」
天藤が握手を求めると、瀬田は眠そうにふわあと口に手を当ててあくびをしながら、反対の手で握手を返す。
俺は相手のチームメンバーに一通り目を通す。
瀬田に限らず、全員やる気がなさそうだ。
メガネ率も高くいわゆる勉強だけできて運動は苦手そうな典型的なオタクの集まりといったチームだ。
「これはもう勝負は見えたな。どうやら細工する必要はなさそうだ」
第1試合は問題なく勝利できると確信する。
相手チームのメンバーは誰一人として武器を所持していない。
沢村のような武道で戦う面子でもなさうなので、5人とも俺と同じ《マジシャン》だ。
学力の高いやつは魔力に優れているため、《マジシャン》に就くのが一般的だからな。このチームも例外ではないらしい。
マジシャンは近接戦に滅法弱い。
前衛が敵を引きつけてくれているからこそ輝くポジション。
ゆえに、近接戦も得意な天藤に一掃される未来が見えた。
そして、その未来通りの結果となった。
天藤が一人で瀬田チーム全員をノックアウトさせた。
500年後の日本に転生してしまった、クラス対抗ポイント制度の実力主義な学校で最下位クラスから成り上がろうと思う。 @SX48430
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