第8話 天藤チームの顔合わせ

岸田チームで多少揉め事も発生したが、とりあえずすべてのチームが出揃った。

クラスの人数は40人なので、5人1組のチームにわけると全部で8チーム。

この中の1チームがバトル・ロワイアル大会に出場する代表チームとして選ばれる。


「すべてのチームが揃ったというわけで、これから代表チームを選ぶためトーナメント戦を行おうと思う。みんなチームごとに列になってくれ」


中山の指示通り俺たちは列になる。


「本気の戦いになってしまって大怪我したら困るから、武器は模擬戦用の武器を使用してもらうよ。背中を取られるとノックアウトということで。全員がノックアウトになった時点で試合終了だよ。問題ないね?」

「模擬戦用の武器はどこにあるの?」

「そうだったね水原さん。それはこのあと僕が取りに行く」

「了解、任せたよ」


中山は他に異論がないことを確認すると、続けでホワイトボードにトーナメント表を書いていく。

定規もないのに綺麗な直線、相変わらず器用な男だ。


「よしっ。トーナメント表はこんなもんかな。対戦の組み合わせも僕が勝手に決めていくよ」


中山が適当に組み合わせを決めていく。

チーム名は最前列に並んでいる生徒の名前だ。

うちのチーム名はというと、天藤が一番前に並んでいたので天藤チームと書かれた。

俺たちの試合は4試合目である。

優勝候補である岸田チームは1試合目なので、順当に勝ち上がれば決勝で彼らと戦うことになる。


「今から30分作戦タイムを取る。各チームで顔合わせや戦術を考えてくれ。そのあとトーナメントを開始する」


中山の話が終わると、作戦を聞かれないようにグラウンド上を各チームが散らばっていく。

中山は模擬用の武器を借りるために職員室まで走っていく。あいつすげえ多忙だな。


さて、俺のチームも天藤を先頭に彼女のあとについていく。

他チームと十分離れたところで天藤はストップした。

5人で円を囲むようにして砂地の地べたに座る。

俺の左隣に天藤が座り、右隣に福西が座った。両隣が天藤と福西という、偶然にも寮の部屋割りと全く同じだ。


「ここまで来れば作戦が漏れることはないでしょう。私がリーダーとして仕切らせてもらっても構わないかしら?」

「いいよ〜」

「任せた」


天藤に返事したのは、俺と福西だけだ。

残りの二人はかなり大人しいタイプらしく、返事はしなかった。

警戒しているのかな。

打ち解けるのには時間がかかりそうだ。


「初日にもやったと思うけれども、もう一度簡単に自己紹介をしましょう。私は天藤紫苑。武力はBランク。得意武器は片手剣よ。魔法も得意だから、とりあえず何でもできると思ってもらって構わないから。このチームに私がいる限り、代表チームを本気で取りに行くわよ!」


天藤は志しの高い自己紹介をしていく。

岸田と同じく、彼女は自分の腕前に相当な自身があるらしい。

確かに入学初日に彼女の実力の片鱗は目の当たりにしてるからなあ。

物理攻撃も魔法攻撃もできるオールラウンダーといったところか。


「次は桜之宮君お願い」


うわ、次俺かよー。

こいつの後とかハードル高すぎていやなんだが。

まあいいや、ゆるーく自己紹介やろ。


「桜之宮幸成です。得意なことは特にありません。魔法が少しできます。よろしくおねがいします」


天藤のときとは違ってパチパチパチと拍手をもらった。

拍手をしてくれたのは、福西ともう一人の眼鏡の女子生徒だ。

どうやら意識が高すぎる天藤よりも、緩いノリを醸し出す俺の方を受け入れてくれたみたいだ。

このチームはあぶれ者の集まったチーム。

天藤のようなストイックさは好まれないらしい。


「ありがとう桜之宮君。あなたに関しては正直疑わしいところだけど、とりあえずマジシャンってことでいいわね?」

「ああ」


天藤は自分のときには拍手がなかったことを気にする様子もなく淡々と話を進める。


「それじゃあ次は月島さんお願い」


天藤は左隣に座る少女に声をかける。

白人のように肌が白く、銀髪のボブヘアーで眼鏡をかけている。

オドオドしていて見るからに気の弱そうな子だ。


「あの、月島明里といいます。戦うのはとても苦手で。あのその、攻撃も魔法も何もできません。ほんと何の戦力にもならなくてごめんなさい。どうして私、試験に合格してしまったでしょうか」


月島は申し訳無さそうに自己紹介をした。

戦うのが苦手と言っていたが、それならどうしてこの学校を選んだのだろうか。

それに銀髪ってのがまた日本人にしては珍しい。

顔は日本人っぽいので、ハーフとかではなさそうだ。

ただなんとなくだけど、このことには触れてはいけない気がする。


「ありがとう。戦いが苦手なら無理しなくていいから。次、福西君お願い」


天藤も彼女の髪のことに触れることはなく、次にプーさんを指名する。

天藤のことだから戦いのできない月島に嫌味の一つでもこぼすのかと思っていたが、女子相手にはそれなりに気を使うことができるらしい。


「はい。ボクの名前は福西健太です。好きな武器は盾かな? 生まれてからこの体型でさあ、動くのが嫌いだからいつもディフェンダー役をやっているよー。このチームの人たちとはあまり喋ったことがないから、これを気に仲良くなれたらいいなあ。よろしくねえ」


プーさんはポヨヨンと揺れるお腹を得げに叩いて見せる。

なんとも気の抜けるような自己紹介だ。

こいつ俺以上に緩いぞ。


盾役は重要なわりに人気ないから、福西のような人材は貴重だ。

普通の人間はアタッカーの役割をやりたがる。

それはこの学校でも同様のこと。

また盾役の重要さを理解していないやつも多いのも事実だ。

前世でやりこんだrpgのゲームでいかにタンク職が重要かってことを学ばされたからな。

俺が岸田ではなく彼をスカウトした理由はそれだ。

この世界では耐久力の高い傾向にある太った男子がその役割を担うことが多い。

だから俺は彼を始めてみたときから、こいつは盾職なのだろうなと予想はしていた。

まあ仮にそうじゃなくても盾職をやらせるつもりでいたが。


「見るからに運動能力低そうよね。まあ最低限ディフェンダーをこなしてくれるだけでいいわ」

「はい、がんばるよー」


天藤の言い方からするに、彼女も集団戦におけるディフェンダーの役割の重要性を認識していないようだ。


「はいじゃあ最後、上杉君。今回は自己紹介してもらうわね」


妙な言い回しで天藤は上杉を指名する。

そういえばこの男子、入学の日にクラスで唯一自己紹介しなかったやつか。

目が隠れるくらい前髪が伸びていて、暗い印象の小柄の男子。


「ちっ。上杉佐助……。以上だ」


心底うざそうに最低限の自己紹介する上杉。


「それだけじゃわからないわ。あなたは何ができるの?」


やる気のない上杉にリーダーの天藤は苛立ちを見せる。


「ふん、お前らに教える理由はない」


天藤を煽るようにペッと地面につばを吐く。


「ちょっと上杉君、流石にその態度はひどいんじゃないかなあ」


あの温厚なプーさんでさえも少し怒っている。

協力する気ゼロの上杉のせいで、チームの空気が悪い。

月島に至ってはひたすらあわあわしてる。


「集団戦はやらない主義でな。好きに単独行動させてもらう。俺は参加しない。作戦は4人で決めな」


上杉は円陣から抜け出す。

ちょっと待ってよって感じでプーさんが呼び止めようとするが、天藤がそれを阻止する。


「福西君放っておきなさい。彼にその意思がないのなら仕方ないわ。4人で作戦を組むしかなさそうね」


天藤も諦めた。

これ以上争っても無駄であると判断したようだ。


それにしてもこんな面子で岸田たちに勝てるのだろうか。

俺の思っている以上にひどいメンバーだった。

単独行動の上杉に、戦力外の月島。

5人戦なのに、実質戦えるやつは俺と天藤と福西の3人。

天藤と福西が揃った時点で岸田チームに勝てるかもしれないと思ったが、なんだか厳しいような気がしてきた。


「おーい、模擬用の武器借りてきたよー」


職員室に行ってた中山が荷車を押して戻ってきた。

武器をもらうため、クラス全員が中山のところへ集まる。

荷車の中には剣や盾といった様々な武器が積み込まれている。

どれも殺傷能力の低そうな木製の武器だ。

他のチームに自分がどの武器を使うか悟らせないため、それぞれクラスメイトは隠すようにして選んだ武器を自陣へ持っていく。

そしてあの男だけは違った。


「一番乗りだあ! おらおらおらー!」


これみよがしに岸田が大剣を豪快に振り回している。

自分が大剣使いであることを堂々とアピールしている。


「さ、私達も武器を持っていこう」


俺たちのチームも武器を選んでいく。

天藤は片手剣を、福西は盾を、月島は弓を選択した。

俺は魔法を使うことにしているので何も選ばない。

そして自陣に戻ると作戦会議を始めた。

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