第7話 5人1組
この日の午後の授業は《戦闘2》。
500年後の世界で新しく追加された単元だ。戦闘の授業は、数学1、数学2があるように戦闘1、戦闘2という風に区切られている。
戦闘1では対魔物の分野に特化している。そしてこの戦闘2は対人間の分野に特化している。
戦闘の授業は体を動かすいわゆる体育に近い授業体系だ。俺たちはジャージに着替えグラウンドに集合し三崎先生が来るのを整列して待つ。
「よっしゃあああ! 戦闘だ、戦闘ぅ!!」
岸田グループがはしゃいでいる。
特に岸田のテンションが高い。余程楽しみにしてたのだろう。午前のレポート課題のときの死にっぷりとはまるで正反対。
「はーい。それでは戦闘2の授業を始めるよー」
三崎先生がホワイトボードを体育倉庫から運んできた。先生はホワイトボードの横に立つと俺たちを見渡す。欠席者がいないことを確認すると改めて口を開く。
「戦闘2は、対人戦の授業よ。一対一のタイマン戦よりも、複数対複数の集団戦を重点的に学ぶわ。基本的に5人1組で授業を受けてもらうことになるから。今日はみんなでそのチーム分けをしてもらいます」
集団戦から始めるのか。
一般的にタイマン戦より集団戦の方が難しいとされている。先に一対一で戦いの基礎を抑えるのが定石だと思っていたが。国内でもトップクラスである本校の生徒のレベルなら基礎は不要というわけか。
「マジか~。タイマンやりたかったぜ〜」
岸田が少し残念そうにぼやいている。
戦いにかなりの自信があるようだな。岸田はあの頭の悪さなのに入学試験をパスしている。運動能力に長けていると見て間違いないだろう。
「みんなー。さっさとチーム分け終わらせて、バトルしようぜー!」
チーム分けに1日もかけるのがバカらしいと言いたげに吉野が提唱する。彼に以外にもその意見に賛同する生徒も数名ほどいる。
「吉野くーん、ホントにそれでいいの?」
「どういうことだ、ミサミサ先生?」
含みのある言い方をするミサミ……三崎先生。どうやら入学式のときと同じようにこのチーム分けにもなんらかの学校側の意図があるらしい。
「入学式試験に次ぐ試験が来月に行われるの。通称――バトル・ロワイアル大会。各クラスから選抜された代表チームで戦い合う。今日結成するチームの中の1チームがその大会に出場してもらうわ」
ここで2つ目の試験の内容が明らかになる。
バトル系の試験か。
これまた難しそうな試験を出してくるものだ。代表チームにはクラスのポイントがかかってくるので、チーム分けは非常に重要だ。
「今言ったことを意識して5人組を決めてください。期限はこの授業が終わるまでよ。ここまでで何か質問はあるかしら?」
「はいっ!」
いち早く挙手したのは中山だ。
「次の試験のルールを教えて下さい。その内容によってチーム分けの方針が変わってくるかもしれないので」
「ふふっ、心配しないで中山くん。ルールについてはこれから説明しようと思っていたところだから」
先生がにこやかに返すと、安心したように中山はほっと一息つく。そして三崎先生はホワイトボードにルールを書き出していった。
【バトル・ロワイアル大会:試験要項】
・開催日:5月18日
・各クラスの代表チーム(5人)によるバトル・ロワイアル形式の集団戦を行う
・制限時間は30分
・開催場所は円形闘技場――コロッセオ
・戦いの末、ノックアウトまたはギブアップした選手は退場扱いとなる
・試験結果のポイントは以下①〜③によって算出される
①30分経過後、各クラス残っている選手の人数✕10ポイントを獲得する
②競技時間中、他クラスの選手をノックアウトさせた場合、一人につき10ポイントを獲得する
③競技時間中、他クラスからノックアウトされた場合、一人につき10ポイント失う。
・代表チームは本日中に登録すること
・代表チームは男子3人女子2人、または男子2人女子3人で構成されていること
・登録後、代表チームを変更することは原則不可能である
・例外として、登録後代表チームの選手が何らかの事情で負傷した場合、代替のチームを再登録すること
「ルールはざっとこんな感じよ。チーム分けに私は一切口出しはしないので。あとは自由に決めてください。それじゃ私は職員室に戻るわね。あっ、ホワイトボードは自由に使っていいからー。バイバーイ!」
そう言い残すと、三崎先生は小走りで校舎の中に消えていった。
さて、ここからは俺たちだけで代表チームを決めなければならない。
「みんなホワイトボード前に集まってくれー」
第一声を上げたのはやはりイケメン貴公子の中山だ。
中山はいつにもまして真剣な様子で、クラス全員に呼びかける。
「僕達F組は他クラスに比べて、大きく出遅れてしまっている。だから次の試験では絶対に追い上げたいと思っている。そして代表チームの出来によってポイントが左右される。代表チームはきちんと選ぼう!」
「どうやって選ぶの? まだ入学から1週間しかたってないのに誰が強いかなんてわからないよ」
クラスの女子が怪訝そうに言う。
彼女は沢村の取り巻きの一人、名前は確かに水原千里だったかな。中山グループ所属の性格キツそうな茶髪ショートヘアの女子だ。
「そうだね。男子、女子でそれぞれトーナメント戦を行って上位になった人に代表をお願いするとか?」
「それだと日が暮れるんじゃない? 時間足りないよ」
「うーん、それもそうだね。それにただ強い人たちを集めたところでチームメンバーのバランスが悪ければかえって弱くなるからね」
中山グループはあーでもないこーでもないと唸り声を上げている。
チーム決めは責任重大。ゆえにいくらでも難しくしようと思えばできる。もうすでに第2の試験は始まっているということだ。
「これはいくら考えても仕方がないね。時間も迫ってる。とりあえず好きなように5人組を作ろう! 8チームできあがるから、その中でトーナメントをしよう。優勝したチームが代表チームということで。これなら試合数も少なく済むし、時間内に決めることができる」
「まあそれならいいかな」
「ありがとう水原さん」
水原も他の生徒も大方賛成のようだ。チーム分けの方針はこれで決まりだ。
「それならオレが優勝してみせらあ!」
ここぞとばかりに岸田が立ち上がる。
「もちろん岸田君は強いんだと思うけれど、これは集団戦だから。以外な伏兵がでてくるかもしれないよ」
「ふん、そんな可能性1%もありはしねえって。そうと決まればさっさと5人組作ろっと。中山、もう作り始めていいんだよなあ?」
「あ、う、うん。はいそれじゃあみんな5人組作ってー」
5人組作って……か。
体育の授業のときの「はい、2人組作ってー」のシチュエーションに通ずるものがある。前世のトラウマが呼び覚まされるぜ。
中山が呼びかけると、クラスメイトは各々立ち上がる。
すでに友達グループに所属できているやつらは、そのグループ同士で固まりだす。
一方でどこのグループに所属しない無所属者は、特に自分から動くことなく、たまたま近くにいた無所属同士でチームを作っていく。
「桜之宮君、わかっているわね?」
「わかっている。一緒のチームになれってことだろ」
俺とてもうボッチではない。先の昼休みに天藤と友達という名の協定を結んだからな。
「あと3人だな」
どうせあぶれたやつがどこかのタイミングでうちに来る。
それまでは周囲の様子を観察しながら待つことにしよう。
……あれ?
なんか岸田と吉野と沢村と水原がこっちに来るんだけど。
「よう桜小路。お前魔法使えるって言ってたよな? オレたちのチームに入ってくれよ!」
まさかの優勝候補の岸田チームからの誘いであった。
「桜之宮なんだが」
「愛称だよ、愛称。どうだ、入ってくれるか?」
おい岸田顔が近い。
それにどうだって言われても。
こんなイケイケのチームに地味な俺が溶け込めるのか? いやいや無理だろー。
それに後ろのお二人が……。
「おい岸田ー、こんなやつでいいのかー? 頼りなさそうだぜー」
「桜之宮君って印象薄いし。何考えてるかわからないから、他の人がいいんだけど」
吉野と水原が嫌そうにしてる。
「おめえらわかってねえなあ。桜小路は案外できるやつだぞ?」
さっきのレポート分担のことを言っているのだろうか。
「私もさんせーだけどなあ。うちのチーム脳筋ばっかだし、千里ちゃんしか魔法できる人いないからさあー。それに桜之宮君って喋ってみたら意外と面白いタイプだと思うー」
沢村も俺の加入に賛成らしい。
勉強はできないが運動はできる傾向のチーム。
脳筋とは言い得て妙だ。
あと沢村、俺は全く面白くないぞ。前世では漫画とゲームが大好きなオタクだったしな。
「岸田、沢村。俺はすでに天藤と組むことになっている。悪いが他を当たってくれ」
「あーそういうことね? あらあらウフウフ〜」
「天藤を落とすとはおめえただものじゃねえなあ、おい〜」
やっぱからわれるかー。
男女2人組って学校内でもそういないからなあ。
「それはきっぱりと否定させてもらうわ。仕方なく友達になることにしただけ」
仕方なくだと、天藤?
俺が岸田たちと仲良くなることに焦って友達になろうと言ってきたくせによく言うぜ。
「ふーん。それならしかたねえか。魔法が使える男子……そういえば中山も使えるって言ってたよな。おっしゃ、次は中山のところに行くぞー!」
脳筋岸田チームはターゲットを切り替えた。
岸田はクルッとターンし、反対方向にはしりだす。
メンバーも彼のあとを追っていった。
「行ったようね」
「だな、俺にあのチームは重すぎる」
◆
それから10分ほど経ち、5人揃ったチームが増えていく。
俺たちのチームもなんだかんだで4人まで揃った。
あと一人でチーム完成だ。
そして現在、岸田チームが揉めている。
「チームが勝つために大事なことなんだ。福西が一番戦力外だ。抜けるのは福西であるべきだ!」
「それは駄目だよ吉野君! 福西君は僕の大事な友達だ。彼がチームから外れるようなら僕が抜けさせてもらう!」
「おいおい、中山が抜けたら貴重な戦力が削がれちまうじゃねえか!」
なんと岸田チームが6人になってしまったのだ。
チームは5人1組なので、一人追い出さなければならない。
岸田チームのチームメンバーは、岸田、吉野、中山、福西、沢村、水原だ。
男女比の制限から、女子2人を追い出すことはできない。
よって岸田、吉野、中山、福西の男子メンバーから追い出すことになる。
「ボク太ってるし、戦うの好きじゃないから。ボクが抜けるよー」
「駄目よ! プーさんは面白いもん。そんなこと言う岸田か吉野こそ抜ければー?」
「私もエミィにさんせー。それにプーさんは貴重なディフェンス係だから」
岸田と吉野がこの中でダントツで戦力にならなさそうな福西を追い出そうとしている。
自分のことをよくわかっている福西自身も自分が抜けることに納得している。
しかし、中山、沢村、水原が反対しているせいで面倒なことになっているみたいだ。
「大変なことになっているわね、岸田君たち」
「ああ。ちょうど3対3だから多数決でも決着がつけられないからな」
もうほとんどのチームが出来上がっている。
決まっていないのはあそこの6人とうちの4人。
つまり、岸田たちの中であぶれたやつが俺たちのチームに流れてくるというわけだ。
「あの様子だと彼らだけじゃ決めきれられないわね。私達からアクションをした方がよさそう」
「それはどういうことだ?」
「あの4人の中から一人をスカウトするのよ」
「マジで言ってるのか……」
そんな目立つ行動取りたくないのだが。
まあでも仕方なないか。
「あの中なら誰が欲しい?」
そりゃ一番欲しいのは、指揮が得意で槍と補助魔法もこなせる中山だ。
集団戦では彼のようなタイプが一番強い。
でも、だからこそ彼をスカウトするのは至難の技だと思う。
吉野はチャラい男子だ。スカウトしたところで俺たちのようなあぶれ者チームに来たがるとは思えない。吉野のリア充としてのプライドが許さないだろう。
「天藤。ここで必要なのは誰が欲しいかじゃない。誰が戦力になるかだ」
この中で選ぶとすればあいつ一択だな。
俺は勇気を出して修羅場ってる岸田チームに割り込んでいく。
「話し合ってるところすまない」
「なんだ桜小路か。今忙しいんだよ! 用があるなら後にしてくれ」
不機嫌な岸田のことは今は無視する
岸田の隣で棒立ちしている男子に声をかける。
「福西、うちのチームはお前をスカウトする」
「桜之宮君!? それは本気なのかい?」
「ああ本気だ。中山」
「そんな気を使ってくれなくても」
中山、お前は少々誤解している。
気なんて使ってない。
代表チームの戦力維持のために運動能力の欠ける福西を引き取ろうなんてこれっぽっちも思っていない。
ただ、福西がこの集団戦においてあの4人の中で最も戦力になると判断しただけだ。
「決めるのは福西自身だ。来てくれるか?」
「う、うん。わかったよ。はじめから僕が抜けたほうがいいと思っていたしね。よろしくね、桜之宮君」
「ああこちらこそ」
そうして俺は福西を連れてチームのところに戻った。
これでクラス内の全チームが出来上がった。
代表チームを決めるトーナメント。
岸田チームの優勝は濃厚だが、ここは一つ俺たちのチームが波乱を起こしてやる。
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