第2話 入学式試験
隣席が天藤という不運に学校生活の初っ端の出鼻をくじかれながらいると、まもなくチャイムが鳴る。
それと同じタイミングで、スーツ姿の若い女性が教室に入ってきた。
「みなさんはじめまして。この度は国立先端高等学校へご入学おめでとうございます。私はこれから3年間君たちのF組の担当を受け持つこととなった三崎と言います。よろしくね!」
にこやかな笑みで三崎先生は挨拶してくれた。
年は20代後半くらいだと思うが、それ以上に若く見える。ふんわりとした明るい茶髪で、メイクもバッチリ決めている。
こんなカワイイ先生が担任なのはついている。
他の男子たちもヒューヒュー叫んだり自席で小躍りしながら喜びをあらわにしているようだ。
「ふん、男って相変わらずバカね」
舞い上がる男子たちを見て、天藤が呆れため息をつく。
「まあ男とはそういう生き物だ」
「そうね。ところで極力関わらないようにすると言いながら、話しかけにくるのね」
まるで私に話しかけてこないでと言わんばかりに言葉を吐く天藤。
「まさかの同じクラスで隣の席同士という関係だからな。今後も隣の席でペアになることもあるかもしれない。そのときのためのことを考えて、最低限のコミュニケーションは築いておいたほうがいいだろ?」
「ふん、勝手にしなさい」
三崎先生とは打って変わって冷たい女子だ。
見てくれだけは言い分、もったいない気がする。
三崎先生は教科書や資料諸々を配布し、今後の簡単なスケジュールなどを一通り簡単に説明した。
そうしてホームルーム活動が終了すると、次は入学式である。
「入学式は10時に始まります。それまでにメインホールに集まるようにしてくださいね。席は自由ですが、今日仲良くなったお友達と一緒に座ってくれると嬉しいな。遅刻は《減点》なのでしないでね。それではホームルームを終わります。はい起立、礼!」
そう言い残すと三崎先生は一足先に教室を出る。
残されたクラスメートのうち3分の1が言いつけどおりグループになって廊下を進む。
見たところグループになっているのは、体育会系やイケメン、ギャルといったいかにも社交的そうなやつらだ。
それ以外の人間は初日に打ち解け会えるはずもない。これといって誰とつるむこともなく各々一人でポツポツと会場に向かう。
「席が自由というのは妙にひっかかる。それと減点……か」
一人で歩きながら、2メートルくらい離れた隣で歩いている天藤に聞こえるように独り言を呟く。
「それに普通の学校ならこういう入学式の場合、先生の引率のもと会場へ行くものよ。それにすぐさま教室を出ていったのは三崎先生だけではないみたい。あ、これも私の独り言だから」
廊下の窓から遠方にあるメインホールに視線を向ける天藤。
メインホールの入口には三崎先生を含め田6人の先生が集合していた。おそらくAからF組の担任だろう。
「そういえば誰かと一緒に参加してほしそうな物言いだったよな」
「この学校は実力主義の校風として国内でもかなり有名。普通の学校と同じ枠組みで考えると痛い目にあうと確信している」
「つまり?」
「この入学式の間だけつるんであげても構わないってこと」
俺と天藤は独り言を辞めることにした。
◆
校内の中央にそびえ立つメインホール。
天藤と一緒に入場する。会場の入り口には三崎先生がいた。
「桜之宮くんと天藤さんね。どうぞ、中に入ってください。1年生は一階席です」
言いながら、先生は名簿の俺と天藤の名前欄にチェックを入れる。
そして先生の言うように一階席の開いてるところに腰を下ろす。10時まであと10分。
これといって天藤と話すネタもなく気まずさを感じながら開始時間まで待った。
「時間になりましたのでこれより入学式を行いたいと懐います」
そんなアナウンスが耳に届く。
「ふう、遅刻したぜえ」
「岸田が迷子になるからだろ〜?」
「わりい吉野、オレ方向音痴でよお」
「先生遅刻するなって言ってたじゃん〜」
そう言って一階席に登場したのは同じクラス男子数名。
岸田という大男を中心とした体育会系のグループか。
遅刻したことに悪びれる様子もなく堂々と空いている席に座る。
「あんな輩と3年間を共にしないといけないなんて。先が思いやられるわ」
天藤はまたしても深くため息をついた。
さて、俺はというと岸田たちにも入学式にも興味はない。
そういうときは眠って時間を過ごすに限る。
それから30分程眠っていただろうか。
俺は隣の人間に起こされ、目を覚ました。
「起きて桜之宮くん。点呼が始まるのよ!」
「そうか、点呼か。うっかり忘れていた。助かったぞ、天藤」
状況を確認してみると、どうやら校長先生の挨拶や校歌斉唱といった項目も終え、式もいよいよ終盤に差し掛かってるところだった。
「マズイわね、うちのクラスの生徒。かなり居眠りしちゃってるみたい」
天藤に焦りの表情が見える。その発言で俺もある程度事態が飲み込めた。
「このままだと俺たちのクラスの大半が点呼を無視してしまう。確かにF組の体裁が悪くなるな」
岸田や吉野たちに至っては爆睡しているようで起きる気配がない。
「起こしに行きたいところだけど、席が遠いから無理」
もし固まって席に座っていれば、こんなことにはならなかっただろう。
「自由席というのは意図的なものだった?」
「私はそう思う。といっても引き返そうにももう遅いけれど」
どうやらこの入学式、何かを試されているらしい。
「A組から点呼を取ります。安藤くん――伊賀さん――王さん――」
A組の生徒は自分の名前が呼ばれると、すぐさま返事し起立する。席順に起立していく様子を見ていると、おそらくA組は固まって着席していたように見える。
「A組、全員起きていたわね」
天藤が悔しそうにぼやく。
「ああ、多分眠っていた生徒の数はうちのクラスともそう変わらなかったと思うが、近くの人間が起こしたのだろう。ちょうど俺と天藤のようにな」
「一方で私達のクラスは点でバラバラ」
「岸田のように遅刻するやつもいるわけだしな」
「もしこれが何かしらの試験であるとしたなら――」
「俺たちはダントツで最下位だろうな」
そうこうしている間にB、C、D、Eと順に点呼が進んでいった。
A組こそ無返答の生徒はいなかったが、B以降はそういう生徒がちらほら出だしていた。
しかし、学校側は無返答の生徒に対して特にアクションを取ることはなく、次の生徒の名前を呼び上げるだけだった。
無返答者の数はA〜Fに行くにしたがって増えていたような気がする。
果たしてこれは偶然なのだろうか。
「それでは最後に生徒会長による祝辞です」
さあいよいよ入学式も終わりに近づいている。
茶髪の爽やか系イケメン男子がマイクを受け取る。
すると2階席、3階席から盛大な拍手とともに黄色い声援が沸き起こる。
会長は壇上に上がる。
「1年生のみなさん。入学おめでとうございます。私が本校の生徒会長を務めさせていただきます白鷺慧と申します。みなさんには本校でたくさんの学びを得られることでしょう。3年間という短い期間ですが、そこで得られる経験をぜひとも今後に活かして貰いたいと思います。以上で私の挨拶とさせていただきます」
白鷺が一礼すると相変わらず盛大な拍手が響く。
そして会場が静まった頃。
思い出したかのように白鷺はもう一度口を開く。
「そうそう1年生の諸君。私の出題した試験は楽しんでもらえたかな?」
白鷺は妙な言葉を口走る。
「はあ? なにいってんだよあいつ。入学試験なんてとっくに受け終わってるっての」
岸田が声を上げている。
「うちの学校ではより実力を磨いてもらうため、競争制度を設けているんだよ。君たちはただ授業や試験を受けるだけでなはなく、クラスごとに戦ってもらうことになっている」
そんな生徒会長の唐突な発言に1年生の間では何だってーという声が溢れる。
「何かあるとは思っていたけれど、そういうことね」
天藤は合点がいったかのように頷く。
「各試験の結果、クラスにポイントが与えられる。そしてその点数の合計を学年末に査定する。その時点でポイントの低かったクラスはめでたく退学だ。1年目・2年目では1クラス。3年目では3クラスが本校を去ることになる。晴れて卒業できるのは1クラスのみ――これが我が校の伝統である」
退学を掛けて死にものぐるいで競争させようって魂胆か。
どうやら俺は恐ろしい学校に入学してしまったみたいだな。
「ふざけんじゃねえぞ。1クラスしか卒業できないなんて聞いてねえよ!!」
「そーだ、そーだ!! 岸田の言うとおりだ!!」
岸田や吉野を中心に1年生からブーイングがあがる。
しかし白鷺は彼らの声が聞こえてないかのように続ける。
「話を戻そう。本日の入学式試験だ。点呼に答えられた生徒一人につき5ポイント獲得する。そして無返答の生徒一人に付きマイナス5ポイント。そして遅刻者一人に付きマイナス20ポイント」
つまり無返答の生徒が過半数の場合、ポイントはゼロ。
それに肝心なのは返答無返答だけではない。遅刻者に対して大きなマイナスポイントがつけられているということだ。
「ポイント制度については後で担任が説明してくれる」
なるほど、三崎生徒は色々隠していたってわけか。
「では結果発表を行う――」
白鷺は試験結果を読み上げていった。
Aクラスは返答者40名、無返答0者名のため200ポイント。
Bクラスは返答者35名、無返答者5名のため150ポイント。
Cクラスは返答者31名、無返答者9名のため120ポイント。
Dクラスは返答者25名、無返答者15名のため50ポイント。
Eクラスは返答者24名、無返答者16名のため40ポイント。
そして――
Fクラスは返答者17名、無返答者23名。加えて遅刻者5名のため−130ポイントであった。
ポイントの重要性が一体どのくらいのものなのかは知らない。しかし、俺たちF組が崖っぷちに追いやられていることだけはハッキリと感じさせられた。
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