500年後の日本に転生してしまった、クラス対抗ポイント制度の実力主義な学校で最下位クラスから成り上がろうと思う。

@SX48430

1章 バトルロワイヤル試験

第1話 初登校

俺の名前は桜之宮幸成。

歳は15。

思春期真っ只中の少年であり――人生2周目の人間でもある。

生前はブラック企業でプログラマーとして働いていたが、長きにわたるデスマーチによる過労死の末、俺の一度目の人生は幕をおろした。

次に目を覚ましたのがここ西暦2500年の日本だった。 


俺が死んでから500年の間に地球内で突如魔物が発生した。魔物勢力に対抗するため、人類も進化した。

500年前までは大人の仕事といえばサラリーマンであったが、今ではそれに取って代わって魔物たちと戦うことを生業とする冒険者という職業が主流となった。


500年の間にそれなりに文明は変わったようだが、教育制度は昔のまま。

義務教育を修了し、俺はこの春……いや、今日から高等学校に通う。


『次は、国立先端高等学校前、国立先端高等学校前ー』


電車が次の停車駅を知らせる。目的地だ。

周りを見渡してみると電車はそこそこ混んでいるようで、俺と同じ制服をした生徒も4人いる。

4人とも初々しさがあるので、きっと新入生なのだろう。


「今度こそ平穏な学校生活を」


そんなことを思いながら、ガタンゴトンと高架を走る電車に揺られていた。


「ちょ、あの女の子良くね? 行くか?」

「そうっすね、兄貴。あの娘にしましょう」


ヒソヒソ声で怪しげな会話をする二人組。

二人が指さしていたのは俺と同じ制服を着た女子生徒。

スラリとした体躯にサラサラな黒髪ロングストレート。

顔も整っていて可愛い系というよりはキレイ系の女子。

つり革につかまりながら黙々と本を読んでいるみたいで、男二人の存在には気づいていない模様。


「いきなり面倒なものをみてしまった」

 

チンピラ二人はニヤニヤしながら女子の背後まで近づく。

そして手をゆっくりと彼女のお尻のところまで持っていった。このまま見てみぬふりを続ければ、彼女は痴漢されてしまう。

果たして助けに行くべきなのだろうか。

――いや、やめておこう。

ここで動くと周りから無駄に注目を集めてしまう。

平穏主義を決めた俺に、彼女を助ける選択肢は無し。

すまないそこの女子生徒、あと一駅だから我慢してくれ。


「あなたたち痴漢するつもり? 痴漢行為とは呆れたわね」


ドカッ、ドカッという鈍い音とともに二人組はその場でうずくまる。


「おまっ、後ろにも目がついてんのか!?」

「うるさいわね黙りなさい。この私に痴漢働こうとするのが間違いだっただけよ。痴漢するくらい汚らわしい肉欲がたまっているのなら、早くお家に帰ってママの乳でもしゃぶしゃぶしてなさい」


なんという歯に衣着せぬ物言い。煽りスキル高いな。


「こんのやろぉぉ!!」


逆上した二人組は殴りかかろうとする。

しかし、それよりも早く彼女はどこからか片手剣を抜き出し、モヒカン男の喉元にそれを突きつけてみせた。


「やめておきなさい。私の片手剣術はBランク相当よ。もし今の私の動きを見てもそれを信じられないというのなら痴漢してきなさい」


それはまるでゴミを見るような目。


「す、すみませんでしたー!」


モヒカンと坊主は尻尾をまいて逃げていった。


(なるほど、さすが同学校の生徒。実力はそれなりにあるというわけか)


『国立先端高等学校前ー、国立先端高等学校前ー』


目的の駅に着いたので降車する。

ポケットから定期券を取り出し改札に通す。


「ちょっとあなた、待ちなさい」


駅を出ようとするタイミングで呼び止められた。

さっきの女子生徒か。鋭い目つきで睨んできている。

あー、めんどくさそうなやつに絡まれてしまった。


「俺に何か用か。急いでいるんが」

「あなた、見てみぬフリをしていたわよね?」


ぎくっ。


「え、なんのこと? 俺は外の景色を眺めていた。あんたのことは視界に入ってない」

「とぼけないで。ガラス越しにガン見していたくせに」


……バレている。


「どうやら図星のようね」

「そうだよ。おっしゃる通りガラス越しに見てました」


それにしても彼女、中々の観察眼を持っている。

まあそれもそうか。

国立先端高等学校。魔物の軍勢に対抗するため一流の冒険者を育成すべく設立された国内最高峰で実力第一主義の教育機関。

そんな学校に入学することを認められた生徒ならば、そのくらい鋭い洞察力を持っていても何も不思議ではない。


「あんたの実力が相当なことはわかった。そういえばさっきも片手剣術がBランクと言ってたな。その年でBランクに達する人間なんて見たことがない」


成人の平均がDランクと言われている。

いくら優秀な人間とはいえ、精々Cランクが限界だ。


「それじゃあこれで。もう用は済んだよな」


そう言って彼女を置いて歩み始める。


「まだよ。まだ謝罪の言葉をもらってないわ」

「は?」

「男に襲われそうだったというのに、堂々と知らんふりされてたわけだけど」


なんという感情論。

こんな面倒な女に謝りたくねえ。


「あそこで変に目立ちたくなかっただけだ。それにこの学校の生徒なら痴漢の一人や二人くらい問題ないと判断した。だから手を出さなかった。これで満足か?」

「仕方ないわね。今回は許してあげる。私の名前は天藤紫苑。それじゃ」

「桜之宮幸成だ。あいにく俺は平穏主義なものでね。どうやら俺たちは仲良くなれなそうだ。今後の学校生活でも天藤さんとは極力関わらないようにする。それじゃ」


そういうと俺は彼女から離れるようにして早足で歩き出す。初めての登校早々厄介ごとに巻き込まれてしまったが、気を取り直して学園を目指した。




そして、10分程歩くと学校に到着した。

石造りの巨大な門を見るだけで、この学校には国がかなりのお金をかけていることがわかる。

門を抜けると噴水広場が広がっている。噴水を中心にベンチや菜園なども配置されており、憩いの場と言えよう。

昼休みとかにここで生徒たちが弁当を食べながら楽しそうに時間を過ごしていることが容易に想像できる。

そして噴水広場を抜けると校舎だ。

昇降口前のピロティには巨大な掲示板があり、たくさんの新入生が掲示板の前で、まるで合格発表を確認するかのように群がっている。


「なるほど、クラス発表か」


入学するまで自分の属するクラスを教えてもらっていなかったため、ここで初めて配属されたクラスがわかる。一クラス40人構成だ。

クラスはA〜F組の全6クラス。

桜之宮幸成の名前はF組の下に記載されていた。


「そういえば天藤のクラスは……うわマジか」  


運命の女神さまというのは意地悪な女性なのだろうか。

まあ6分の1くら引き当てることはあるさ。

今度こそ気を取り直して教室へ。

教室に入ると、半分くらいの生徒が来ていた。

中にはすでに仲良くなって世間話に花を咲かせている子もいれば、周囲の様子をうかがいながら一人で過ごしている子も多い。

そんな入学初日あるあるの光景を観察しながら、俺は自分の名前が書かれたカードの置いてある席に着席する。

窓際1番後ろというレアリティSSRの席だった。


「うわ最悪……」


隣席からボソッと暗い声がした。

俺はこの学校に知り合いはいない。しかしそれは聞き覚えのある声だった。


「どうも、天藤さん」


訂正しよう。

運命の女神様とは天使でも意地悪な女性でもなく、悪魔のような女性なのではないだろうか。

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