第3話 ポイント制度

「おいおいおいおい!! 三崎先生、これはいったいどういうことだよおおお!!」


入学式が終わり教室に戻ってくるや否や、岸田たちが教壇の三崎先生に詰め寄る。


「内緒にしててごめんねー。抜き打ち試験だから先生も黙っておくことしかできなくってー」


手を合わせてペコペコと頭を下げる三崎先生。

岸田たちが怒るのも無理もない。

俺たちは気づいてないうちに勝手に点数をつけられていた。

そして、他クラスに100ポイント以上もの差をつけさせられた。

ポイントの重さについては今のところ不明瞭だが、大きなハンデを背負わされたに違いない。

もちろん納得できないのは抜き打ち試験のことだけではなく、退学の件もだが。

まあ詳細はこれから彼女が教えてくれるだろう。


「ちゃんと説明するから。とりあえず席ついてくれるかな……?」

「ちぇ、わーたっよ!」


岸田はイラ立ちを見せながらも素直に自席に戻っていく。

全員が着席したところで三崎先生はコホンと咳払いをした。


「まずは先の試験のことなんだけど、本校ではどんな形式であれ、入学直後に必ず抜き打ち試験を行うことがルールになっているの。入学直後の方がその人の人間性を測るのに効果的だからねー」


なるほど。つまり、学校側にもそれなりの想定があった上で、あえてこういった形の試験がとり行われたというわけか。


「それに自分のクラスがどの立ち位置にいるのかもよくわかったでしょ?」

「先生。その立ち位置というのは、まさか……?」


真ん中の席に座る男子が立ち上がる。

生徒会長にも負けずおとらずのレベルの爽やか系イケメンだ。

この男子にも何か思うことがあったのだろう。


「あら、中山君は察しが良いようね。試験の結果からもわかるように、実は本校では入学試験の成績が良かった順にA〜F組に配属されているの」


やはりそうだったか。

岸田や吉野とかは明らかに成績悪そうだしな。

天藤は優秀そうだが……いや、こいつも別の意味で大概だな。

俺と同じで協調性に欠ける。

その点、この中山という男子については不思議だ。

どうしてこいつはF組なんだ?

って考えたところで無駄か。結局こいつにも何かあるのだろう。


「中山君は不幸にも入学試験当日に40度の高熱を出してしまったってね。我々教員の間でもそこそこ噂になってたよー」


おっと、こいつには何もなかった。

運が悪かっただけかよ。


「いえいえ健康管理ができてなかった僕の実力不足です」


なんという潔い男。

性格までイケメンとかチートだろ。

中山をみる女子たちの目も輝いているし。

こいつ絶対クラスの人気者になるわー。


「さて、彼のことはさておき。能力の要素の一つとして思慮深さというものがあげられるわ。思慮深い人間であるならば、どうして大切な入学式にも関わらず席が自由であったのかということに疑問を抱くはず。これがこの試験をクリアする1つ目のポイントよ」


確かに三崎先生の言うとおりだ。

ここが特別な学校であることは入学前からわかっていたはずだし、自由席ということに何か企みがあると考えるのは当然のことだ。


「1つ目のポイントを抑えることができていたなら、私の出したヒントに気づくことができた」

「はあ? 先生がいつヒントを出したって言うんだよ?」


岸田が噛みつく。


「今日仲良くなったお友達と一緒に参加してくれると嬉しいな――そう言ったはずよ?」


俺はその段階で確信したけどな。隣席の天藤も同じことを感じていただろう。だから俺と天藤は複数で参加すべきと判断して手を組んだんだ。

まさかクラス対抗であることまでは考えが及ばなかったがな。

もし俺が中山みたいな人徳の深い人間だったら、みんなに呼びかけていただろう。それができなかったのは俺の実力不足であるということに他ならないが。


「確かに三崎先生のおっしゃることもわかりますが、そんなので気づく訳ありません。あまりにも不条理のように感じます」


中山も声を上げる。どうやらこいつもそこまで仕組まれていたとは気づいていなかったらしい。


「そうかしら? 現にAクラスは満点を獲得しているわ」

「それはっ……。でも、Aクラスの生徒だって結構眠っていたではないですか。たまたま点呼のタイミングで起きただけで……。偶然だ!」


偶然ではないぞ、中山。

今となってこそ言えるが、この試験では思慮深さの他にコミュニケーション力も図られていたのだ。


「偶然ではないわ中山君。このテストの2つ目のポイント、それはチームワーク力のようなもの。そうですね、先生?」

「あらその通りよ。先に答えられちゃった!」


三崎先生は天藤の言動に驚いて見せる。

別に驚くほどでもないけどな。よく考えたらすぐに分かる。コミュ力のあるクラスならば、入学初日にも協力しまとまって式に臨むことができた。

点呼のタイミングで眠っていた仲間を起こし、ポイントの減点を防ぐことができたというわけだ。これが複数で式に参加すべき理由だった。現に俺は天藤に起こしてもらったわけだしな。


「A組は全員で入場し、同じ場所で固まって席についていたよ。確信とはいかなくとも入学式で何かあると感じて行動をとったはず。きちんと返答も行い礼節も取れているし、初日にも関わらずクラス全体でまとまりも取れている。結果、こうしたクラスがきちんと上位の点数を取ることができた。これでもこの試験内容に不満がありますか?」


先生の出す言葉に、もはや誰一人として反論を出すものはいない。各々がこの試験結果を受け入れた。


「あとポイント制度についてだったわね」


正直抜き打ち試験のことよりもこっちの方が重要だ。何せ俺たちの退学がかかっているのだからな。


「単刀直入に言うと、ポイント制度は学校生活のあらゆるオプションに割り振ることができる制度なの」


今一ピンと来てない俺たちに先生は付け加える。


「例えば、この教室にはエアコンが設置されていないよね。エアコンを設置するには10ポイント必要なの。他にもえーっとね――」


そう言いながら、三崎先生はポイントで引き換えることのできるオプションについてたくさんの例を出してくれた。

昼食のランクアップに10ポイント。寮の家具を一つ追加するのに20ポイント。カフェの利用に20ポイント。他にも色々ある。中には面白いものもあってリムジンバスで登校に1000ポイントとか。

つまり、その段階でクラスで所持しているポイントを様々な権利に割り振ることができるということだ。


「オプションの一覧はここに置いておくから、定期的に確認ふるようにしてね」


三崎先生は分厚いマニュアル本を教壇机の中にしまった。


「でもオレたちってマイナスポイントなんだよなあ。ってことは夏までに借金を返せなければ、エアコンなしで授業うけなきゃならねーのかよ!!」

「マジかよ~。それ最悪じゃん〜」


うへえ、それは恐ろしい。灼熱教室になることだけは勘弁だ。俺も岸田たちのように頭を抱えたくなる。


「ポイントは本校の出題する試験結果をもとに与えられるわ。いい結果を残せば高ポイント、悪ければマイナスポイントよ。ポイントが減った場合いずれかの権利を捨てなければならないから気をつけてねー」


そう言い終えると、先生はす~っと息を吸った。

そして彼女の眼差しは真剣なものに変化する。


「1年の最後に所持しているポイントが最も少ないクラスは退学する運びとなります」


教師の空気が重くなる。


「退学を掛けて競争させることが最も効率の良い実力のつけ方というのがこの学校の方針。あなた達は私のかわいい教え子だから、そうはなって欲しくないんだけどね」 

「あっ、当たり前よお。まだ始まったばかりだぜ!」

「心配しないでよミサミサ先生〜」


岸田、吉野が元気そうに答える。ただ強がってるだけかもしれないが。


「そうね。でもあなた達に頑張ってもらいたいからこそ、心を鬼にして伝えておくわ。1年目でF組が脱落する確率は90%よ。そして、3年目を迎えることができたのは設立以来1度もない。それでもあなたたちは頑張り続ける?」


三崎先生は本気で上に上がる意思があるのかを確認するようにそう聞いてきた。


「うっ、それは……」

「その情報は欲しくなかった〜」

「もうすでに僕達ブッチギリの最下位だしね……」


岸田、吉野、中山から自信が失われていく。


「私は諦めない。私は天藤家の正統後継者として、この学校を首席で卒業しなければならないから」


ポジティブ思考そうな中山ですら後ろ向きになるそんな状況で、ただ一人前を向いている女子がいた。


「天藤さんは本気なのね」

「ええ」


先生にじっと見られても天藤は視線を決してそらさない。


「けっ、女のくせに偉そうに。お前もオレと同じF組だろ」

「入学試験の点数なんていくらでも操作できるの。だから気にしてないわ」


何を言っても動じない天藤。そんな彼女を見て岸田がフッと笑い出す。岸田の中で何かが吹っ切れたのだろう。


「フハハッ、操作されてると思いこんでるってわけか。お前、おもしれー女だな!」

「褒めてくれてありがとう」

「くっそオレだって負けてられるかよ!! おい中山、お前の力も必要なんだから頼むぜ!」

「あ、ああ! みんな、最初の試験では躓いてしまったけれど、挽回していこう!!」

 

諦めない気持ちが天藤から岸田へ、岸田から中山へ、そして中山からクラス全体と広がっていった。


「まずは夏までにエアコンを取り付けてね! それでは今日のホームルームは終了よ! また明日からよろしくね!」


そうして入学初日のカリキュラムは終了した。


「ふう……やっと終わった」


最下層のF組といえど、今年は天藤や中山といった高スペックの生徒が在席している。このクラスなら2年目、3年目に突入できるかもしれない。 


「……いや、必ず突入する。そして、必ず卒業する」


なぜならこのクラスには俺がいるからだ。

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