第11話 私は流れる、流れのままに②

 なんかよく分からないうちに、お爺さんは大満足した表情になり、私の手を握って「良かったよー、よかった、よかった」と深く感謝されました。私にしてみれば「へっ?」て感じです。


 私が迎えのクルマに乗って、例の喫茶店にある事務所に戻ると、藤井代表が待っていて、「お爺さん大満足だってさ、あんなに喜んでいたの初めてだよ」と、言ってくれました。私の最初の仕事だから、気を遣ってくれたのかもしれません。それでも、そう言われると悪い気はしないものです。

「でさ、まさみちゃん。このあともうちょっと、仕事できるかな。ボクの友だちにまさみちゃんの話をしたら、『ぜひ遊びたい』っていうヤツがふたりいてさ。どっちも良いヤツだし、お爺さんほどではないけれど、ラクな相手だから、ぜひお願いしたいんだよね」

 このまま、藤井代表の流れに流されるのも”シャク”ではあったんですけれど、お爺さんがとてもラクな相手だったので、まぁ、仕事をしてもいいかなと私は思いました。

 時計を見ると、今2時30分。6時に仕事が終われば、30分で勝どきのマンションに帰れる。そうすれば夕飯の支度も間に合うはずです。

「6時くらいまでに仕事は終わりますか」

 私が尋ねると、藤井代表は「うん、うん」と大きくうなずいて、「ひとり90分ずつなら、いけるでしょ。ただ休憩時間とかあんまり取れないと思うけど」とニコニコしながら「そうしてくれると、助かるよ~」という雰囲気を、うまく表情ににじませながら言いました。

 私は、ひとり目のお爺さんがとてもラクだったので、もうふたりくらい大丈夫かなと考えて、コクッと首を縦に振ったのでした。

「よし。じゃあ決まりだ。ふたり目のお相手は、六本木にオフィスがある中堅IT企業のオーナー社長だよ。まだ40代なんだけど、ひとりで会社を立ち上げて、その会社がいまは上場企業という凄いやり手なんだけど、ちょっと変態なんだよね」

 相変わらず人懐っこそうな瞳をクリクリさせて、少しドッキリする発言をする藤井代表。

「すっごい制服フェチなんだよ。特にОŁさんの制服が大好きで、六本木のIT企業で、女性社員に制服着させている会社なんてめったにないんだけど、そいつの会社だけ、趣味で女性社員に大きな胸のリボンが特徴的で、ウエストラインがバッチリ出ちゃう制服を着させているんだよね」

 そう言うと「おかしいでしょ、笑っちゃうよね」という感じで私に笑顔を向ける。

「でもね、そいつ、そんなことしておきながら、自分の会社の女性とは、一切プライベートな関係にはならないの。そんなことすると、絶対に社内の雰囲気が悪くなるからって。でも、会社には自分好みの制服を着こなした女性従業員がいっぱいいる。それで、我慢できなくなると、ウチに遊びに来るっていうわけ」

 よく分からないけど、お金持ちってそういうものなのだろうな。と私は思いました。

「それでね。そいつから会社の制服を預かっていて、それに着替えて欲しいんだけど、大丈夫かな」

 そう言うと藤井代表は、ニコリと微笑みかけてきました。

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