第8話 面接担当はゴージャスイケメン
数日後、私は錦糸町のレトロな感じの喫茶店にいました。人でごった返している駅からさほど遠くない路地にある家庭的な雰囲気のお店。近所のおじさん、おばさんが午後のお茶をおしゃべりと共に楽しみ、おばあちゃんと一緒の5歳くらいの男の子が、目の前のふかふかなホットケーキに目を輝かせている。でも、ちょっと他の店とは違うのが、店の奥には、錦糸町っぽい上下トレーナー姿のごつい体格の男の人たちが、店内なのにサングラスをかけて何やらヒソヒソと打合せしていたこと。そんなアンバランスな店だった。
その日私は、6月の梅雨寒が厳しかったので、会社勤めをしていた頃に着ていた上下紺のスーツと厚手のコート姿。変装というほどではないけれど、めったに着けないウィッグと普段より濃い目の化粧で、いつもの私とちょっと雰囲気を変えていました。
ホットコーヒーを飲みつつ、風俗店の面接担当の人が来るのを待ちます。緊張で心臓が口から出そうになるのを必死にこらえつつ、我慢してなるだけ外見上は落ち着いて見えるように努力していました。
頭の中では、まだ同じ問題がグルグルと渦巻いています。
「夫という男の従属から逃れるために、今度は他の”お客さん”という男たちに従属するのね。ホント、私ってダメな女よね」
そう思いつつも仕方なかったんです。もしかしたら明日から、この東京という大都会で、ひとりぼっちで生きていくことになるかもしれない。何もない私には、これしかない。私はそう思い込んでいたのです。
そんな感じで何分待ったでしょう。もの凄いエンジン音が店の外から聞こえてきて、店の前にスーパーカーっていうんでしょうか、赤い流線形のスポーツカーが止まったんです。どうやって乗り込むのか心配になるほど高さが低い車から、見るからにお金持ちそうな男性が降りてきました。
ストライプ柄のピッタリしたスーツに、遠目から見ても分かるイタリア製の靴。七三オールバックに綺麗にまとめられた髪。顔が小さくて、カラダはいわゆる”細マッチョ”的なガッチリした体格。すべてが整い過ぎていて私は一瞬、映画の撮影でもしているのかと思ったほどです。
その男の人が喫茶店に入ってきて、私の席の前で立ち止まったのです。
「遠藤景子さんですか」
男の人にそう聞かれてびっくりした私は、声も出せず、ただバカみたいに頭を上下に動かすことしかできませんでした。
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