第7話 結婚しても人は結局、ひとりぼっちで生きている

 家に帰った私は、電気もつけずにひとりでボーッとしてしまいました。結構ハードな内容の会話だったので、脳が興奮して少しズキズキしていました。

 そして最近囚われているある考えが頭の中をグルグル巡りだしたのです。

「家族のために私が頑張れば、きっと家族全員が幸せになる。もちろん私も含めて。今までそう信じていたけれど、それは間違いなのかもしれない」

「結局。いくら家族を大事にしても、夫はおそらく私より先に亡くなり、子供たちは独立して、私はひとりぼっちになるのだ。家族のことばかり考えず、もうそろそろ、自分の将来のために何かを始めるべきじゃないのか」

 こんなこと、あたりまえなのかもしれない。だけど私は今まであまりにも自分を棄てて生きてきたので、自分本位で物事が考えられなかった。なかなか切り替えられない自分がもどかしくなりました。

 私には忘れられない”言葉”がある。結婚直前、会社の役員に退職する際に言われた言葉だ。

「いいかい。キミ。結婚生活が成功する秘訣を教えてあげるよ。それはね、この言葉を肝に銘じておくことなんだ。いいかい。『結婚すると、女は家庭の中に居場所を作ろうとする。そして男は家庭の外に逃げ場所を作ろうとする』のだそうだ。不思議なものでね、女性が居心地がいい家庭を作るほど、男はどこかに逃げてしまうものなんだ。要はあまり無理して”良い奥さん”になろうとしない方がいいんだよ」

 とても偉い役員の方で、会社ではいろいろとお世話になった方なので、私は表情には出しませんでしたけど、ちょっとカチンとくるのを感じました。

「なに言ってるんだー、このジジイ。結婚したらできるだけ”良い奥さん”になろうとするのは、あたりまえでしょ」

 心の中でそんな反発をしていたのを覚えています。でも今になって、家庭が崩壊する危機を迎えて、やっとその言葉の意味が分かってきた気がします。

 なぜもっと早く、あの役員さんの言葉の意味を理解できなかったのか、バカな自分が悔やまれます。

 まぁ、悔いていても仕方がありません。私は今からでも自分が幸せになれるよう、自分の生活の軌道修正をしていこうと決心したのです。

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