第6話 苦界の沙汰は見掛け次第

「それで働いてみてどうだったのよ」と私は聞いてみました。質問するとき思わず力が入っちゃって、私が興味津々だっていうことが周囲にバレてしまったかもしれません。

「早川さんが言うのには、みんな紳士的なお客さんが多いって言ってましたよ。実はこれも大きなグループに勤めるメリットの一つなんですけど、働く女の人のタイプによって、いろんな”お店”があるんですって。若い子で20代前半に見えるタイプなら女子大生専門店とか、新人OL専門店とか。あとちょっとお姉さん系なら、キャビンアテンダント、社長秘書の専門店とか。ちょっと太目だけどバストが大きいなら巨乳専門店なんかもあるそうです。要は入店希望の人に合わせて店側がその子に合った設定の”お店”に振り分けてくれるっていうわけですね。それで早川さんは、若妻さんの”お店”に入店したんです」

「あれ、早川さんならメイクや服装でまだ女子大生でとおるんじゃない」と望月さん。

 望月さんは、ひとり息子が今年幼稚園に入学して、ちょっと子育てから解放されて私たちのグループに参加するようになった大人しそうな女性だ

「それが今の世の中、女子大生より若妻の方が人気なんですって。男の人ってなんだかんだ言って、”甘えん坊”が多いから、人妻なら甘えられそうだと思っているんですって」

 これにはグループ一同。思わず失笑してしまった。全員既婚者だ。自分の夫のことをそれぞれ思い出してしまったに違いない。

「で、もっと凄いのが若妻さんの専門店はそれぞれいくつか女の子のグレードっていうか、美人度で分けられていて、早川さんはトップのグレードだから、お店の扱いも別格なんですって。ひとりのお客さんの相手してもらえるお金も別格だし、お店側の方で確認して、ちゃんとルールを守って、気持ちよく遊んでくれるお客さんしか紹介されないし。そりゃそうですよね。せっかくお金稼げそうな女の子が入店してくれたんだから、お店だって細心の注意を払ってくれますよね。仕事でイヤなことがあって、辞められちゃったら大損害ですもんね」

「地獄の沙汰も金次第」という言葉は聞いたことがあるけど「苦界の沙汰も見た目次第」ということらしい。


「でもね、やっぱり風俗店で働くとなると、やっぱり性病が怖いわよ。自分がなるだけならまだいいけど、家族にうつしてしまったら大変だもの」と望月さん。望月さんは30歳前半。女から見ても、肉感的な魅力のグラマーな女性です。でも、夫婦仲がとてもいいと評判なので、まさか望月さんが働き始める心配はないと思います。

「そうですよね。まずはそれですよね。でも大丈夫みたいです。エッチをする前にちゃんとお風呂に入って、心配だったらカラダをゴシゴシ洗いつつ、性病持ってないかチェックして、仕上げに強力マウスウォッシュで、丁寧に口をすすいでもらうんです。もちろんエッチするときは、しっかりコンドームを付けてもらいますしね」

「えっ、本番するの」と、私は驚いて大きな声で聞いてしまいました。

「それって違法なんじゃ…」

「するに決まってるじゃないですか。男と女がラブホテル行って、ベッドで裸で抱き合ったら、そうなるのが普通ですよね」

 清川さんがちょっと声が大きい私をなだめる様に、私が着ていたカーディガンの袖を引っ張りつつ、さらに声のトーンを落として言いました。

 私はその瞬間はっきり直感したのです。全部早川さんの話みたいにして言ってることは、一部清川さん自身の体験なんじゃないか。つまり清川さんも風俗店で働いているんじゃないかと。

 清川さんはママさん専門のファッション誌に登場してもおかしくないような、愛くるしいタイプの美人なのに、意外と深い闇を抱えているんだなと、私はその時思ったんです。

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