第5話 どうせ働くのなら大手が一番
ファミレスとか喫茶店とか、ほかの人が大勢いる場所で、ちょっと刺激的な話題で盛り上がった時、私たちは自然と、高校野球のチームみたいに円陣を組んでいることがよくあります。全員の額(ひたい)を寄せ合って、ヒソヒソと、でも誰もがちょっと興奮している。その時もちょうど、そんな感じでした。
清川さんもちょっと悪ノリしている感じで話を続けました。
「それで早川さんは、ネットとかそういう業界に詳しい友人とかに聞いて、錦糸町周辺で働きやすい”お店”がないか調べたんですって。錦糸町なら風俗店がいっぱいあるし、地下鉄を使えば勝どきから近いし。一番いいのは私たちが休みの日に出かけるのは銀座方面で、錦糸町にはあんまり行かないってこと。だから場合によっては生活から完全に切り離せる地域だってことです」
フムフムと頷ける、何やら説得力のある話だった。私たちは清川さんの話に、より一層のめり込むのを感じた。
「それで錦糸町や小岩で何店舗も手広く営業している”S”っていう大手のグループがあるのが分かって、そこで働くことにしたんですって。なぜ大手の”店”で働くことにしたのかって言うと、大手のグループだと福利厚生の部分がしっかりしているんですって。この辺は一般の企業でも、風俗店でも一緒なんですね。例えば、女の子がお客さんが来るまで待機している場所も全然違って、小さいお店はマンションの一室に何人もの女の子が押し込められている感じなんだそうです。それとは逆に大手のお店だと、女の子の待機場所がマンガ喫茶になっていて、完全に個室でくつろげるし、マンガは読み放題、ネットも使い放題、ジュースももちろん飲み放題で居心地がいいらしいです」
私にとっては新鮮な驚きだった。そうかアンダーグラウンドの世界でも資本力の差ってあるのか。恐るべし、資本主義社会。そんな感じだった。
「あと、小さいお店だと働いている女の子が少ないから、急に休むとかが無理というか、とても嫌がられるんだそうです。女の子が少ないと急に休まれると代わりの人を捜すのが大変だったりするのでしょうね。でも所詮私たちは主婦なので、どうしても休まなくちゃならないことに突然なったりすることもあるでしょ。そういうことに大手の”お店”だと、女の子の在籍が多いから、穴埋めしやすいのでしょうね。休みやすいんだそうです」
と、清川さん。なるほど風俗店で働くなら大手がいい。これは確実に間違いなさそうです。
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