こんなやり方しか知らないんだ
リリアと一緒に住むことになってから初めての朝。
ベッドから起きた俺が最初に見たのは、こちらの顔を覗くリリアの姿だった。
「おはようケイ。昨日はよく眠れた?」
「おう、そりゃもうぐっすり……なんでリリアは俺の部屋に?」
「今日はケイとやりたいことがあってね、君を起こしに来たんだ」
そう言うリリアの顔はなんだか楽し気だった。
「そのやりたい事っていうのは一体?」
「この世界に転生してきた異世界人達の心を躍らせてきた一つのイベントさ」
「それってもしかして……」
「そう、モンスターの討伐
●●●
俺達はミミさんの作ってくれた朝食を食べた後、冒険者ギルドまで足を運ぶ。
リリアは掲示板に張られている紙をじーっと見つめて吟味した後、一つの紙を手に取った。
「今日の目的は、僕とケイの連携を高めること。だからこの依頼はピッタリだと思うんだ」
リリアは読んでみてと言いながら俺にその紙を手渡してくれる。
そこに書かれてあった依頼の内容は大量発生したゴブリンの群れの討伐だった。
「確かにこれなら戦闘回数も多いからリリアがさっき言ってた連携も自然と高まるな……ただ」
「ただ?」
リリアは不思議そうな顔をしながら俺のことを見つめる。
俺はそんな彼女に自分の心内を正直に話した。
「正直なことを言うと、初めてのモンスター討伐でこれって少しハードルが高い気がするんだよなぁ……クリアできる自信が持てない……」
俺は元々自分の事なんて全く信じられない人間だった。
それは、今もこうやって『読んだだけで幸福になれる本』なんてちょっと胡散臭いタイトルの自己啓発本を持ち歩いてることからも分かるだろう。
たとえ特別な能力を持って異世界に転生したと言っても、いざモンスター討伐をするという今になって
「まぁそう思うのはしかたないのかもね、ケイこっち来て」
リリアはそう言って俺の手を掴み、冒険者ギルドの中の人目に付かない所へと連れて行く。
そして彼女は周りに人が居ないことを確認してから、俺の身体に抱きついて耳元にささやきかける。
「ちょっ?!なにを」
「ねぇケイ覚えてる?裏路地で女の子を誘拐しようとしてた男を倒したときの事」
いきなり抱きしめられたことに動揺している俺に対して、リリアはさらに顔を近づけてくる。
今の彼女は声色も顔色も今までの彼女とは何かが違う気がした。
俺の背中に回している手で彼女が何か容器のふたを開けたような音が聞こえた瞬間、彼女はもっと強く俺を抱き寄せてきた。
「あの時の君は間違いなくヒーローだった。君は誰よりも武器になった僕を使いこなせる。臨機応変に戦術を切り替えてどんな状況にだって太刀打ちできる」
優しくゆっくりとささやくリリアの言葉を聞いていると段々と頭の中に浮んでいた不安がぼんやりと脳に霧がかかったみたいに思いだせなくなる。
最後に俺の頭に残ったのは、目の前にいるリリアの優しくて甘い言葉だけだった。
「大丈夫、大丈夫だよケイ。君と僕がそろえばゴブリンの群れなんてあっという間さ」
まるで洗脳されているかのような気分だが、不思議と悪い気は全くしない。
リリアの言葉を聞くにつれて俺の不安は完全になくなっていてーー
「ちょっとこれで自信が出たかな?」
ぱっと、リリアは抱き着いていた俺の身体を話していつもの調子で微笑む。
その笑顔を見た俺は、なぜか大きな安心感を覚える。
「あぁ……ありがとうリリア。なんかすごいやる気が出てきたよ!」
「それは良かった、それじゃあ早速受付に行こうか」
リリアは依頼書を手に取って受付の方へと向かう。
「ごめんねケイ、こんなやり方しか知らないんだ」
「ん、何か言ったか?」
「いや、別になんでもないよ」
リリアの小さなつぶやきは俺には聞こえなかった。
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