【リリアSIDE】 黒いオーラと犯罪群

 「貴方が感じた気持ちをありのまま受け入れましょう……かぁ」


 僕は自分の部屋に向かっているさなか、先ほどケイが読んでくれた本の内容を復唱をしている。

 あの『読んだだけで幸福になれる本』は不思議な本だった。

 

 本の内容を聞くだけで僕の存在のすべてが肯定されているような気がするのだ。

 鎖みたいに心を締め付けていた悩みが嘘みたいに消えー


 『オイ、俺に合わせて動けよ!武器なんだから変な自我出してんじゃねぇ』

 『どうせ助けに来てくれるならリリアさん以外の『英雄円卓』の人が……』

 『英雄様と共同開発した新しい武器が強すぎなんだよな、もうほかの武器に価値はないんじゃねーのかな。英雄様サイコー!』


 「……幸せな夢はすぐに覚めちゃうもんだね」


 僕はため息交じりにそう言った後、頭を振って気持ちを切り替える。

 『英雄円卓』なんて名前も役割も大嫌いだけど……僕たちの暮らしている世界をいたずらに脅かす連中はもっと嫌いだ。


 だから僕はこの世界の守る存在の一人として、今この地域で起こっている妙な事件を早く解決させないといけないんだ。

 僕は自分にそう言い聞かせながら部屋のドアを開ける。


 「お待ちしておりました、お嬢さま」

 「ミミ、僕が頼んでた資料はどうなった?」

 「すべて集まっておりますよ、こちらを」


 僕の部屋の中で待機していたミミはそう言って一つの紙束を僕に手渡す。

 その紙束には、最近町で頻繁に起こっている冒険者が起こした犯罪についての詳細が載っている。


 「お嬢さまの読み通り、犯罪を起こした冒険者たちはすべてEからDの低ランクの者でした」

 「やっぱりね……どこかの誰かが魔術耐性の低い、低ランクの冒険者たちを操って暴走させているのは間違いない」


 僕はそう呟いて紙束を見つめる。

 最近町で起こっている犯罪には一つ奇妙な共通点がある。


 それは、犯罪者たちが交戦時に謎の黒いオーラを体から放つということ。

 しかも厄介なことに、オーラを放っている間はAランクの冒険者に相当するほど戦闘力が上がる。


 「黒いオーラについての情報は?」

 「私のほうで分ったのはこの黒いオーラ―と同じ効果を宿す魔法は存在ということだけです」

 「ということはやっぱり黒いオーラ関連は異世界人が持つ能力がらみの可能性が高いね」


 僕はそう言って深いため息をつく。

 今までこの世界に来た異世界人を片っ端から調べてみたけど、この現象を引き起こせそうな能力を持った者は一人も居なかった。


 唯一の容疑者だったのは、最近この異世界に転生してきたケイだけだった。

 だから私は心の内を暴露させる薬をもって彼に接触したのだが……


 「ケイもこの犯罪とは無関係だね、【シンクロ】じゃあ黒いオーラ周りの現象は引き起こせない……それに」

 

 『リリア、大丈夫か!』

 『それでもお前の心の負担が少しでも軽くなればと思ってさ』


 「ケイは心の優しい人だから……きっとこんなことはしないよ」


 僕の頭の中をよぎる彼の言葉は、今まで出会った異世界人の誰よりも優しいものだった。

 ケイは本当に昔の僕が描いた願望通りの人物でー


 「良かったですね、お嬢さま。昔からの夢が叶われて」

 「ふぇっ?!」


 僕の心を見透かしたようなことを急に言い出したミミの言葉に思わず変な声を出してしまう。

 そしてそんな反応を見て、ニヤッと笑みを浮かべた彼女は続けてこう言った。


 「この犯罪たちの調査は現在手詰まりな状況ですし、明日はデートもかねて二人でモンスターの討伐に行って来たらどうです?」


 「デ、デート!? いやいや、たとえ調査が手詰まりだからって今はそんな事してる場合じゃ」


 「大いに意味はありますよ、ケイ様とお嬢さまの連携を高めたりとか色々……【シンクロ】と【武器化】のベストマッチを極めることはむしろ今一番必要なことではないでしょうか」


 ミミのその言葉を聞いて僕は腕を組み少し考える。


 「それは……確かに」

 「あ、お嬢さま今まんざらでもないって顔されましたね」

 「そ、そんなことない! もう夜も遅いんだからミミも部屋に戻って休んで!!」

 「はいはい、それでは失礼します」


 ミミは眼福でしたとつぶやきながら机の上の資料を片付け始める。


 「お嬢さま、一つだけ言い忘れていたことがあります」

 「どうしたの?」


 僕がそう聞き返すとミミは僕の肩をやさしく掴んでじっと僕の目を見つめる。


 「お嬢さまは素の方が可愛いと私は思いますよ」

 「そんなこと言ってくれるのはミミだけだよ」

 「いいえ、きっとケイ様も素のお嬢さまを受け入れてくださいますよ」


 ミミはそれだけ言って僕の部屋を去っていった。

 

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