クソおやじと『英雄円卓』

 リビングに移動した俺達は長方形の机を囲むように置いてある椅子にそれぞれ座る。

 テーブルの上にはミミさんが注いでくれたお茶が入っているカップが置かれていた。


 「さて……まずはクソおやじの話からしないとだね」

 

 リリアはそう言いながらテーブルの上に一つの写真を置く。

 そこには、一人の男性と四人の女性が楽しそうに談笑する様子が映っていた。


 四人の女性は、神官のような見た目をした人間の女性が一人と大きな剣を携えている獣人の女性が一人、緑色の衣服に包まれたエルフの女性が一人、そしてミミさんと同じように背中から羽を生やした悪魔の女性が一人……実に様々な種族の女性が並んでいた。


 そして、その女性と一緒に映っている男性の顔はどこか日本人味を感じる。

 まるで、異世界系のラノベの表紙を見ているようだった。


 「この写真の男が僕の父親。名前はミチタケ」

 「ミチタケって……その名前」

 「そう、ケイと同じ日本からこっちの世界に転生してきた異世界人だよ」


 まじか……こんな簡単に同郷の人間に会えるとは思っていなかった。

 この写真がいつ撮られた物かは分からないが、顔つきがほんの少しだけ幼いようにも見える。

 これは勝手な推測だが、ミチタケさんはこっちの世界に転生した時点で中学生か高校生ぐらいなのではないだろうか。


 「おやじは写真に写っている優秀な四人の仲間たちと一緒に、当時最大の脅威であった魔王を倒し、やがてこの世界で英雄と呼ばれる存在となった」


 「おぉ……聞けば聞くほどハーレム系主人公だな、親父さん。ちなみに俺の【シンクロ】見たいな特別な能力を持ってたりするのか?」


 「持ってるよ……正直僕たちの能力がすぐに霞んで見えるぐらいやばいものをね」


 リリアがため息をつきながらそう言うと、ミミさんが手の平に小さな炎を出しながら説明してくれた。


 「能力名【器用貧乏】。上級の魔法が使えない代わりにこの世界にある中級以下の魔法を全て使用することが出来る能力です」


 「なんか滅茶苦茶なこと言ってません、その能力……ちなみにミミさん、普通の人は大体どのぐらい魔法が使えるものなんですか?」


 「自分に適性のある1つの属性の魔法を使うのが一般的ですね、魔法の才能があって複数の属性を操る方もおられますが多くても精々3属性ぐらいのものかと」


 えぇ……滅茶苦茶つよい能力じゃん【器用貧乏】。

 それもう器用万能でしょ……


 「そんな強力な力を持ったクソおやじは魔王討伐後、一緒に旅をした4人の仲間全員と結婚して合計12人の子どもを産んだ」

 「いや待って! 12人!? さっき12人も産んだっていったのか?!」


 リリアがあまりにも情報量の多い爆弾発言をしたので、俺はとっさに大きな声を出して思わず立ち上がってしまう。

 リリアがさっきから『クソおやじ』って呼んでる理由が何となく分かった気がする。


 「まぁ普通そんな反応になるよね。クソおやじも昔は英雄と言えどもやりすぎって言われてたらしいし」


 「そりゃあ……そうだろうね」


 「でも、あることが分かってから12人の子どもを産んだクソおやじの行為は手のひらをひっくり返したみたいに賞賛されるようになった」


 「あることって一体?」


 俺は固唾かたずをのんでリリアに訪ねる。

 リリアはやけに落ち着いた口調で俺にこう言った。


 「12人の子どもたち全員が異世界人しか持つことが出来ないと言われていた固有能力を持ち、魔力に対する高い体制を持っていたんだ」


 「それじゃあ、リリアが持ってる【武器化】って」


 「そう、すごく希少な力なんだ……まぁ武器になった僕を使ってくれる人が居ないとろくに戦えないんだけどね」


 リリアはやれやれと言いながら両手を広げて、あっけらかんとした表情でそう言うが……

 俺にはその表情が何かのはずみで崩れてしまうんじゃないかと思えてしまうほど寂しそうな顔にも見えた。


 「クソおやじと四人の母さんは子供たちを鍛え、育て上げた。そして、立派な成人へと成長した僕たち12人の子どもたちは、次第にこう呼ばれるようになった」


 リリアは右手を胸に当てて、プレッシャーで崩れそうな気持を隠すように不敵な笑みを浮かべて俺に言った。


「世界を守る次世代の英雄たち……『英雄円卓』ってね」

 

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